Japanese
森 翼
2022年01月号掲載
Interviewer:秦 理絵
森 翼はシンガー・ソングライターであり、畑で野菜を育てるオンラインサロンの運営者であり、レジェンド級のヴィジュアル系バンド MIMIZUQのヴォーカリストでもある。一見、そのひとつひとつの活動はバラバラのようだが、実はすべてが繋がっている。以下は、そんな森 翼の音楽人としての在り方をひもといたインタビューだ。昨年5月に通販限定でリリースし、12月29日に配信リリースした約13年ぶりのアルバム『naive』は、そんな森 翼がこれまでライヴハウスで歌い続けてきた12曲が収録されている。2008年に23歳でメジャー・デビューを果たし、"家庭教師ヒットマンREBORN!"の主題歌などで、メロディ・メイカーとしての手腕を発揮した森 翼。紆余曲折を経て辿り着いたピュアな音楽との向き合い方は、今人生の岐路に立つ多くの人の生きるヒントにもなるのではないだろうか。
この世界がいつまであるかわからへんし、自分がいつ死ぬかもわからへん―― って考えたら、自分の作品はできるだけかたちに残していきたいと思ったんです
-『naive』は、森 翼名義では約13年ぶりのアルバムになりますね。
だいぶ音源を出してなかったんですよね。ライヴに来てもらわないと曲を聴かれへん、みたいな状態が何年も続いてて。最初は新しい自分のサウンド感で作品を作りたいなとも思ってたんですけど。勝手にわりきって次に行くよりも、出せてなかった十何年間に対してのけじめというか。ずっとライヴハウスに来てくれてたファンの人たちのゴールにしてあげたくて。ライヴで歌ってた曲ばかりのCDを作ろうって決めました。
-それを、まずは5月に通販限定というかたちでリリースして。
全部自分で発送しました。そうすると、よく見る名前がたくさんあったんです。自分で宛名を書いて、ポストに投函していくときに、今まで歌いに行ったことのある土地の住所を見て。あぁ、いっぱいいろんなところで歌ってきたんやなとか、こうやっていろんな人に支えてもらってたんやとか思い出すきっかけになったんですよね。特にシンガー・ソングライターって自分ひとりで音楽やってきたみたいなところがあって。
-孤独ですよね。
うん。自分で全部の役をやってるつもりになってたんです。僕、デビュー前にストリート・ライヴをやってたんですよ。中学のときに家出をして、そのときにギターを買って。いろいろなライヴハウスの音楽にも出会ったんです。で、バンドマンってかっこいいなって憧れるようになって。自分の信じてるものを持ってる人ってこんなに自分らしく生きられるんや、僕はいろんなことを気にしすぎてたんやなって思ったんですよ。それが音楽を始めたきっかけで。そこから全国をヒッチハイクしていろんなところに歌いに行ったなっていうことを、一個一個梱包作業をするときに思い出しました。
-少し話が遡りますけど、もともと2008年にシンガー・ソングライターとしてメジャー・デビューされて。そこから赤と嘘というソロ・プロジェクト時代もありつつ、2017年からまたソロでの活動を始めていますよね。これはどういう想いだったんですか?
名前を変えても戻しても自分の中ではずっと森 翼でやってるつもりではいるんです。そのときにやっていたチームが変わっていくだけで。あえて言うなら、第何期、第何期っていう区切りがある感じですかね。2017年に何かがあって満を持してっていう感じでもなく、赤と嘘が閉じたときに自然と戻っていっただけなので。
-そこから劇的に活動の内容が変わったりは?
しなかったです。ただ、赤と嘘は全国いろんなところに行って、3日に1回くらいライヴをやってたんですけど。それを何年かピタッとやめてみたことはありました。
-ライヴをしなくなった?
はい。あえて目の前にお客さんがいてない状態を作ったうえで、目の前にいるお客さんに何を歌いたいかっていうことを考えたくて。ライヴハウスで年間100本とかやってると、観に来てくれてる人たちを楽しませたいとか、感動してもらいたいとか、共感してほしいとか、その人たちばっかりに曲を作りすぎていた期間があったんですよ。
-それはいいことのように言われがちだと思いますけどね。
でも、もっと大きな音楽を作りたかったんです。この人生をもっと豊かにするために音楽に出会ったんだって、そう言えるような曲を作りたいなと。で、2年ぐらいライヴハウスでの活動はあんまりやらへんようにして。そのなかで何を伝えたくて音楽を始めたか考えるとか、逆に何も言いたくないときは曲を書かへんとか。音楽と自分を自然な距離感にして作品を作るところに一生懸命向き合った年があったんです。
-曲の飛距離を伸ばしたかったんですかね。目の前にいる人に届けるだけじゃなくて、より遠くに飛ばしたいっていう。
そうですね。ライヴハウスで歌ってるときにふと思ったんですよ。その日のライヴは完璧だったんです(笑)。関わってくれる全員が同じこと考えてるような奇跡みたいなライヴだったんですけど。この天井があと1メール高かったら、この空気でパンパンになっていないような気がしたんですね。そのサイズ用の伝染の仕方だったような気がして。だだっ広い空の下にポンって立って歌ったときに同じ空気を作れたか? って考えたら、今の自分の音楽にそのちからはないと思っちゃったんですよ。
-空間が広がったら届かないんじゃないかって?
うん。で、どうしたらいいんやと思って曲作りの勉強をしたりもしたんですけど、たぶんそんなことじゃなくて。僕がもっと自分の人生を豊かにする。いろんなものを見て、これおもろいとか、これ好きや、嫌いやっていうことをもっと自分でわかったら、何かを作ろうとしなくても、そのときに出たもので良くなるんじゃないかなと思って。いったんライヴをストップして、普段やってこなかったことに挑戦したいなと考えたんです。そこから自分の人生を見つめ直すようになって。この先もずっと歌っていくなら、ちゃんと自分の中に音楽が流れるような人間になりたい。そしたら音楽をやってないときの自分が変わってきたんです。
-その活動のひとつが畑で野菜を育てることだったんですか?
そうです(笑)。
-畑で野菜を育てるオンラインサロンを運営しているそうですね。
今までは自分の想像の範疇にしか飛び込んでない気がしたから、全然違う畑に飛び込んでみたかったんです。で、文字通り畑をやってみたいって話をして(笑)。みんな笑ってたけど、思いついてからすぐに自分の畑を契約して、野菜を育て始めましたね。
-野菜を育てることで、どんな気づきがありましたか?
やっぱりものづくりっていいなと思いました。ただ音楽と違うのは、音楽ってできあがりしか見てもらうことがないんですよ。途中のことを記録しようとも思ってなかったけど。畑で野菜が育っていくのを見てると、その途中にあるものが大事に思えてくるんです。明日すぐに野菜ができることはなくて。毎日水をやって、草むしりをして育てていく。スーパーで売ってるような野菜はすごく形もいいし美味しいけど、できあがっていく過程を知ってる僕からしたら、僕が作った野菜が一番美味しいんですよね。
-わかる気がします。
そう思って食べてたら、今まで僕の音楽を聴いてくれてた人らが、"僕の音楽が一番好きや"って言ってくれるのが"マジやったんや"って思えてきたんですよ。ちゃんとその音楽ができる過程まで受け取ってくれてたのかもしれないなって。昔は、売れてない自分が売れてる人たちと比較されたときに変なプライドがあって、素直に"ありがとう"って言われへん自分がおって。喜ばせようと思って言ってんちゃうかとか。でも、みんなが言ってくれる"人生で一番好きな曲なんです"がマジやったんやって。
-今さら気づいた(笑)。
はい(笑)。でも、それに気づいたことで今は僕が楽しいか楽しくないか、かっこいいかかっこ良くないかで判断していいし、そこで繋がってくれてる人たちに、どうやってもっとワクワクしてもらえるかを追求したいと思ってるんです。半径30cmの、自分が守れるものは全力で守っていこうって決めることができたんですよね。
-ただそれは決して、今売れてる人たちを超えたいっていう野望がなくなったわけではないんですよね。
そう、本当にそうなんですよ。恥ずかしいけど、東京に来てからずっと"今に見とけよ"って思ってるんです。TVとかYouTubeで売れてる人を見て"うらやましいな"ってすごく感じる。でも、それだけでは終われない。今までの自分とアプローチを変えて新しい挑戦をしてみたくて、今新しい音源を作ってるんです。もともとはそっちのアルバムを作りたかったんです。それはクラウドファンディングで出す予定なんですけど。いきなりそれをやる前に『naive』でけじめをつけたかったっていうことなんです。
-なるほど。『naive』の収録曲はすべてライヴハウスで歌っていたものになるんですか?
基本的にはそうです。一番新しいのが弾き語りでやってる「ぱちもん」なんですけど。これだけはコロナ禍になって書いた曲ですね。みんなが配信をやるようになって、ライヴハウス・シーンでやっている身としてはジレンマがあったんですよ。いろんな人の配信を観ていくなかで、何が本物なのかがバレるようになったと思ったんですね。で、果たして自分は本物か偽物かってことを考えていたときに「ぱちもん」を書いて。ライヴでは歌ってなかったけど、この曲はどうしても入れたいなと思いました。
-「ぱちもん」もそうですし、「アレグロ」では"誰にも見破られない偽物であれ"と歌っていて。森さんの中には自分は偽物かもしれないっていう感覚があるんですか?
コンプレックスがあるんですよね。僕は人と一緒に何かを作るキャッチボールが好きで音楽を始めたんですけど。いいな、すごいなと思うミュージシャンたちと話していると、自分には圧倒的に知識がないなと思ってしまうんです。何かをかっこいいなと思うのに知識がなくてもいいのはわかってるんですけど。自分のやりたいことを伝えるために勉強をするようになると、知れば知るほどみんなすごいんやと思うんですよ。音楽に対して愛情を注いで、とんでもない努力を自然にやってたりする。自分にその音楽愛があるのか? っていうのは、現在進行形で自問自答しまくってるんです。
-それでああいった歌詞が出てきた。
僕はライヴをやってる時間が一番好きなんです。逆に言うと、苦手意識のあるレコーディングからは目を背けてて、それで音源を先延ばしにしてしまった部分もあると思うんですよ。でも、コロナのタイミングで考え方がガラッと変わって。この世界がいつまであるかわからへんし、自分がいつまでできるか、いつ死ぬかもわからへん。って考えたら、自分の作品はできるだけかたちに残していきたいと思ったんです。
-レコーディングはバンド・メンバーとの一発録りですか?
ほとんどせーので録ったやつです。その前にスタジオでプリプロをして、レコーディングのときはスタジオの地下でドラムと鍵盤、ベースを録って、2階でギターを録って。できるだけライヴに近いかたちにしたいなっていうのは意識しました。
-改めてレコーディングをしてみて気づいたことはありましたか?
やっぱり僕はスリルを楽しんでるところがあるんだなと思いましたね。今回みんなでせーので録ったから、ライヴっぽいスリリングな感じは出せたんじゃないかなと考えているんです。今までもライヴで歌った曲しか音源にしてなかったから気づいてなかったんですけど、そこが自分の持ち味かなって。リアル志向というか。もっときれいな音にすることもできるけど、こういうリアルな質感のほうが自分に合ってるのかなと思いましたね。
-「セーラーカラー」とか「Blue」なんかは特にバンド・アレンジが映える曲ですね。
「Blue」は寝転んでポロンポロンと(ギターを)弾いてたときに、(ドラムの)キックの感じが思い浮かんだんですよ。イギリスでライヴをしたときに、ハーモニカだけのストリート・ミュージシャンがおって。後ろの工事現場の壁をひじで叩いてリズムを出してたんです。それがむっちゃかっこいい。でも、そいつは"ここにあるものを使って音楽をするのは当たり前やろ"みたいな感じなんです。
-森さん、そういうのを好きそうですね。
うん、めちゃくちゃ好き。もうお前が一番好きな漫画を教えてくれ! みたいな感じでした(笑)。それを思い出して、自分で壁をドーンドーンドーンってしながら作ってみたんですけど、全然できなかったです(笑)。「Blue」はエスケープソングというか。何か違うものになりたい、変わりたいっていう気持ちですよね。10年間ずっとライヴハウスで殻を破りたいと思って歌ってきたし。
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