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INTERVIEW

Japanese

透明図鑑

2021年04月号掲載

透明図鑑

Interviewer:宮﨑 大樹

-タイトル"毒煌々"について、毒が煌々としている状況というのもなかなか普通じゃないですよね。

ギラギラしていますよね。「毒煌々」のタイトルは、理想が毒になり得る、キラキラしていたものは毒になり得て、追いかけているものは煌めいている毒なんじゃないかということで付けました。それこそ網守さんの『パタミュージック』のように、おもちゃ箱をひっくり返したみたいにわーって進んで、且つジェットコースターに何回も乗りたくなっちゃうくらいの、ちょっと物足りないくらいの長さの曲がいいなと思って作りました。そこにわりと重たいことというか、よく考えると苦しい歌詞を合わせるとバランスが取れるんじゃないかと思って。この歌詞は、要約すると理想を追いかけすぎた人々が周りが見えなくなってしまって、理想が毒に変わりその毒に呑まれて死んでしまうというストーリーなんです。帰りの駅とかで、みんなそれまで絶対に"ウェーイ!"とかやっていたのに、帰るときにとぼとぼと歩いている人っているじゃないですか? 自分もそういう背中になっている瞬間って絶対にあって。これってなんなんだろうなぁと思ったところから始まって書きました。自分が大人に感じていること、且つ自分にも感じていることですね。でも、具体的に言葉にするものでもない気がして、いろんな物事に捉えられるくらいの歌詞にしました。

-こうやって話している感じだと透明図鑑さん自身は明るい印象ですけど、曲を聴くと闇を抱えている感じもしますね。

あぁ~。自分でも思うし、仲のいい人にも"散らばっていろんな面がありそうだね"と言われることが多いです。ひとり暮らしを始めてから自覚が出てきたことでもあります。外にいるときとか、人といるときにはすごく楽しいんですけど、家に帰ってドアを閉めると全然違う性格になったりするんです。わけのわからないひとり遊びを始めたりして(笑)。

-わけのわからないひとり遊び?

今日は何もできないなぁと思っているときは、部屋の狭いところでずっと体育座りしていたり、ロボット掃除機にずっと話し掛けていたり、ヤバいんです(笑)。家のドアをくぐるとスイッチが切り替わることが発覚したんですけど、それが作曲にも出ているみたいで。「毒煌々」もサビ前までのテンションとサビのテンション、和声感もまるで統一がない状態になっています。サビ前まで書いているときは鬱々とした複調のリフが基盤になっていて、3拍子のところでアメリカのお菓子みたいなポップさのある和声にしてみたり、かなり整合性が取れてないですね。人間として、かなり破綻していると思います(笑)。

-そんな「毒煌々」の次に、インタールードの「まだらエラー」が来ますね。

気持ち悪い曲ですよね(笑)。

-不気味な曲です。3曲入りシングルでインタールードが入ってくるというのも珍しいですが。

「毒煌々」1曲で出す選択肢もあったんですけど、ちょっと怖くて。というのも「毒煌々」は決して聴きやすいとは言い難いですから。私の中では聴きやすいと思っているんですけど、一般的ではないので、もっと聴きやすい曲も作ろうと思って3曲目の「誰も知らない」を作りました。それを並べたときに、この切り替わり具合はヤバいじゃんと思って(笑)。今はサブスクリプションの時代なので、単曲で聴く人もすごく増えたと思うんですけど、流れで聴いてくださる方はどこかにはいるし、作品としてまとまりのあるものを出すとしたらこの急勾配はなぁ...と。なのであいだにもう1曲挟みたいと思って、今年の1月に「まだらエラー」を作りました。

-なるほど。

「毒煌々」からの流れで聴いてもすっと入れるけど、終わったあとに違和感なく「誰も知らない」に入れるようにというのは意識して書きました。長さとしては短く、そしてつかみどころのない曲にすること。それと、どこに連れていかれるのかわからない不気味さみたいな。私は、立ち入り禁止のテープが貼ってあると入りたくなっちゃうタイプなんですけど、そういうテープを貼る感じというか。惹かれるんだけど怖い、知りたいんだけどわからないまま終わっちゃう、みたいなものにしようと思って。

-「誰も知らない」はさっき言っていたように、聴きやすさを意識していたんですよね。

「毒煌々」はデモが完成してから録音を始めるまでに半年くらい、長いこと向き合って作ってきたんですけど、長く関わりすぎて毒されてしまって、冷静に聴けなくなってきてしまったんです。だけど聴きやすいとは言い難いことは理解していて、なので、純粋にいい曲、きれいな曲だと思うものを書きたくなって。リスナーからしてもバラエティに富んでいるほうが聴いてもらいやすいだろうというのもあって、「誰も知らない」はわりと一般的な方向に位置しているものを目指しました。でも今、日本のポップス界で流行っているような曲はやっぱり書けないみたいで(笑)、ど頭に変拍子のリフを思いついて、リフが書き終わったあとにその後に繋がる和声をいっぱい書きました。一般的な和声進行を書くことも得意ではなくて、きれいなリフのあとに書けた和声はガラスを割ったみたいなぶつかったものでした。調整する段階でいわゆる平行移動だったり、4度4度の和音だったり、初期からさらに耳にしてあまり心地いいものではない状態のものにしました。個人的に、きれいなものはどこか怖いなって感じているんです。きれいすぎていつか壊れてしまうんじゃないか、きれいすぎて裏があるんじゃないかという気持ち。だから、透き通るような尊いリフを書いたけど、きれいなものをぶち壊したくなってそういう和声をぶつけてから、"いわゆるいい曲にしたい"と照井君にお願いして一緒に展開し、作品にしました。

-美しさの中でも、無機質的な美しさがある曲のような気がします。

歌を録るときにはそれを意識していましたね。

-人が歌っていない感じすらしますよね。

この作品を聴いてくださった方にもよく言われるんですよ(笑)。歌唱に関しては「毒煌々」も「誰も知らない」も、すごくこだわっていて。「毒煌々」の歌唱は、自分で作編曲した割合が多いのでひとりで決めました。ひと言ずつ、録っているんです。パッチワークをするみたいにしたくて、そのためにはひと息で歌ったり、普通に歌ったりしたらダメだと思って、継ぎはぎっぽさをわざと出しました。「誰も知らない」は、照井君と話して歌い方を決めたのですが、彼のこだわりとして"なるべく波形が揺れなくてまっすぐな声で歌ってほしい"と言われて。言葉が聞こえるか聞こえないかは二の次で、音としてきれいかどうかを気にしようと。でも、息の多い声って長く出すのが大変じゃないですか? 息を継ぐ場所まで全部話し合って、何百回と歌ったんです。

-何百回も......。歌詞としてはどことなくノスタルジックで、特に"塗り重ねた空の端を縫い合わせたら/長い影は明日の僕に形を変える"の表現が好きでした。

夕方のイメージで作った曲で。小さいころに友達と遊んでバイバイする時間帯のイメージがあります。家の近くに、小さい子がたくさん集まるような場所があって、そこの風景を見て思い出した気持ちもありましたね。ポジティヴにもネガティヴにも受け取れる歌詞にしようと思っていたんです。歌い出しから"それっていったいどういう気持ちなんだ?"とツッコミたくなるような歌詞だと思うし、主人公が気持ちを伝えたのかもわからないまま進んでいく。子供から大人になっていく過程を夕方になぞらえた詞でもあります。アーティスト名にするまでは過去を引きずるタイプの人間だったんです。今もそれがゼロになったとは思わないんですけど、引きずったところで何になるんだという考えも一方であって。相反する感情だと思うんです。気になるんだけど気にしても仕方ない。悲しかったことも良かったことも、昔のことは昔のことだから、今の話ではないし、先の話でもないから。だから最後の4行は、思い出の話をここまでしてきたのに、明日に進むにあたっては忘れるしかない、ということを書きました。最後の最後で忘れるしかないとある意味冷たい言葉を放ってしまうので、それまではなるべく温かい言葉でまとめるように意識しました。

-タイトルはなぜ"誰も知らない"なんですか?

冒頭で言っている気持ちがなんの気持ちなのか誰もわからないし、どの季節が次に来るかもわからない、秘密がなんなのかも、本当に誰も正解を知らない状態の曲だと思うんです。突き詰めると、自分という存在のことも、知らない人から見たら知らない。私も本名からアーティスト名になったことで、それこそ誰も知らない存在になって、結局、何もかも、本当のことは当人にしかわからず、誰かが知っていることはないんじゃないかな、という気持ちでこのタイトルにしましたね。

-ところで、本作が0thということは1stが生まれるはずで。

夜という時間が好きなので、1stは夜のテーマで書こうと決めていたんです。実は0thを出すつもりもなかったし、1stのために夜の曲をいっぱい考えたんですけど、どれも自分の中でパッとしなかったんですよ。で、横道に逸れて、夜じゃないものを書いてみたらすっと書けたんです。「毒煌々」は視点として空が人を見ていて、「誰も知らない」は夕方の話で、共通するのは空だと思うんですね。それと「まだらエラー」の"まだら"は"まだら雲"になぞらえているんです。3曲とも空に関連する曲だから、1stにも繋がるかなと思って。納得いくものを書けたので、0thとして出そうと思いました。

-本作でソロ・アーティストとして活動を始めた透明図鑑さんですが、今後の活動について今の時点で考えていることはありますか?

これからも、何曲入りかの作品を出すとしたら今のところは誰かと作っていきたいですね。自分で完結するものもこれから何曲か出てくると思うんですけど、それが全曲じゃない状態をしばらくは維持したくて。自分だけで完結する曲ばかりになると、自分の視点ひとつに偏っていくかもしれない怖さがあるなと。今回照井君と作った作品は、私だけではできなかったし、照井君だけでもできなかったと思うんです。こういう共作をしたのが初めてだったんですけど、共作の面白さを知ってしまったというか(笑)。もうひとつ、ライヴをしてみたい気持ちがありますね。どうなるかわからないですけど、やるんだとしたらひとりきりでやりたいです。

透明図鑑
RELEASE INFORMATION

"0th"シングル
『空に沈める』
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NOW ON SALE
※配信リリース

1. 毒煌々
2. まだらエラー
3. 誰も知らない

配信はこちら