Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

草野華余子

 

草野華余子

Interviewer:山口 哲生

-あと、カヨコ名義のときに発表されていた作品から継続されているものもありますよね。「おわりものがたり」は、これまで発表してきた「ばけものがたり」(2012年リリースの1stミニ・アルバム『カリスマティカ』収録曲)、「きずものがたり」(2017年リリースのアコースティック・ミニ・アルバム『カッコ悪い自分と生きていく』収録曲)に続くものですし、アルバムを締めくくっている「マーメイド・ララバイ」は、ミニ・アルバム『カッコ悪い自分と生きていく』に収録されていて。もともとはアコースティック・アレンジでしたが、今回はバンド・アレンジで再録されています。

「マーメイド・ララバイ」は、バンドスタイルでとにかくライヴをしてきて、ファンのみんなが一番待ってくれている曲でもあるし、私自身もこの曲が書けたのはすごく大きな出来事だったと思っていて。私のファンの方って、本当は悩んでいるんだけど、表に出せずに、明るく繕っているというか。まぁ、アーティストにファンは似るとよく言われますけど(笑)。

-鏡ですからね。

もう本当にそうで。自分で対処しきれないぐらいの業に巻き込まれている人が多いんですよ。そういう人たちのために曲を書こうと思って作ったから、もう完全に200パーセント、ファンのために書いた曲なんです。だから、草野華余子に改名はしたけれど、カヨコ時代からの地続きのアルバムなんだよというのをみんなに届けたいなと思って、今回収録しました。

-"約束は守るためにあるんじゃない/明日が楽しみになる魔法さ"という歌詞、めちゃくちゃ素敵だなと思いました。

ありがとうございます。この歌詞は、私の大事な人が落ち込んで、結構病んでしまっていた時があったんですね。そのときに"明日出かけよう"って言ったら、"その約束をしたとしても、明日の自分に出かける気力があるかわからない"と。だけど、"いや、約束は守らんでもええねん。明日が楽しみになる魔法やから、明日も明後日も明々後日も、どこに行くか約束しよ? 私が毎日連れていくから"って話したんです。そういうやりとりをしていたときに、そうか、約束って破られたとしても、そのことを考えている間は楽しいし、1回ダメでも2回約束すればいいし、2回ダメだったら3回すりゃいいじゃんって。私がファンのみんなに思っていることって、まさにそれなんです。

-なるほど。

昔から応援してくれているファンの方って、謝ってくれるんですよね。お客さんが5人のライヴハウスとかで何度も何度も歌ってきていたから、チケットを買ってくれていたけど、"ごめん、残業で行けなくなった"とか。でも、謝らなくていいから! あなたの生活が一番で私のライヴはその次だから、そんな無理しなくていいよって。でも、あなたがライヴハウスに来れないときも私はここで歌っているから、気が向いたらおいで、と。なんなら来なくてもいい。私はずっと音楽を続けていくから、あなたもあなたの人生を続けてほしいっていう。そういう気持ちを込めたかったんですよね。

-昔に作った曲ではありますけど、今の世の中にもすごく当てはまるというか、救いになる言葉でもあるなと思いました。

私もレコーディングしているときに感じました。歌っていて、今までは感じなかったものというか、今こそこういう気持ちで乗り越えていきたいなって思いながら歌を入れられたと思います。

-そして、タイトル・トラックの「Life is like a rolling stone」。"凛として"という歌詞もありますが、まさにその雰囲気ですね。芯の強さはあるんだけど、優しさや柔らかさも感じさせる曲で、お話を聞くに、この歌詞は草野さんの人生訓なんだろうなと思いました。

そうですね。私、曲を作るときって一筆書きが多いんですよ。ヴォイス・レコーダーの録音ボタンを押して、その場で全部歌う。そうやって即興で作り始めるときもあれば、こういうギミックを作ろうって意識的にやることもあります。でも、今回のアルバムに関しては、ギターを持って、パっと声を出して録音したものから作った曲がほとんどで。「Life is like a rolling stone」に関しては、"人生はいつも自分次第/派手に転がれ Like a rolling stone"のメロディと歌詞が、全部一気に出てきたんですよ。その瞬間に、このアルバムのタイトルと、コンセプトまで決めたんです。

-すべての始まりがそのワンフレーズだったと。

そうです。「Life is like a rolling stone」に始まり、「Stray Dog Tag」で、"私の物語に名前はいらない"で終わりました(笑)。

-ははははは(笑)!

結局こうなるんですよ(笑)。ふわ~って明るくしてたのに、すーん......って終わるっていう。でも、「Life is like a rolling stone」がスタート地点になったから、陰と陽のバランスが取れたと思うし、この曲は絶対にポジティヴなチームでやりたいと思ったので、ベース・ラインはUNISON SQUARE GARDENの田淵さんにお願いしました。ギターの弾き語りと簡単なビートだけの音源に歌詞を添えて、"田淵さん、この曲が表題曲になります。歌を支えつつ、歌を殺すような、キャッチーなベース・ラインをつけてください"とお願いしたら、最高のものをつけてくださって。なんというか、一緒に歌ってくださっているようなベース・ライン。

-田淵さんらしいですよね。

田淵さんって、暴れ回って、強いピッキングをされているイメージがあるかもしれないですけど、優しい曲に関しては、誰よりも優しくて力強いんですよね。そこはベースだけじゃなくて、メロディもそうなんです。そういう広さとかふくよかさや力強さ、そこに優しさが加わっているベース・ラインを弾いてくださるのは、やっぱり田淵さんだなと。この曲以外のベース・ラインは、私と堀江晶太君のふたりで作っているんですけど、私だとどうしてもメロウになって悲しみが伴うし、晶太君だと躍動感が前に出すぎるんです。そういう意味で、一歩引きつつも、それこそ歌詞にある"凛として そこを動かない意思"を感じさせるようなベースになっているなと思って、すごく感謝してます。

-歌詞には"愛されたかったあの日の僕へ"という1節がありますが、これはワンマン・ライヴのタイトル("愛されたかったあの日の僕らへ")にもなっていますよね。現状としては、新型コロナウイルスの影響で延期が続いてしまっていて。最初に発表されたのは去年でしたよね。

そうなんです。まるっと1年延期になってしまっているんですけど、中止という形だけは絶対に取りたくなくて。春までにはできればなと思って、今は打ち合わせしているところではあるんですけど。

-草野さんの中ですごく大切な言葉だと思うんですが、どういうところから出てきたんですか?

私は、自分が人のことを愛していると思い込んでいたというか。例えば、誰かとお付き合いしたら、その人のためにスケジュールを全部合わせて、どれだけ忙しくても絶対にご飯を作って待っているようなタイプだったんですよ。でも、それって結局、"ありがとう"って言われたかったり、愛される見返りが欲しかったりしたから、ずっとそうやってきたんだなと思ったんですよね。嫌われたくないから笑顔でいたり、信じてほしいから"信じてる"って言ったり。ただただ愛されたくてそうやってきたんですけど、それを一切やめたんです。

-おぉー。

特に、草野華余子という名前になってからは愛したいなら愛すし、欲しいなら欲しいって言う。けど、違うなと思ったら違うと言う。まぁ、ある意味ワガママというとアレなんですけど、別に相手に嫌われてもいいやって、怯えずに生きていけるようになったんです。いじめられっ子の呪いからやっと脱却できたというか。そうなったときに、"未来はそんなに悪くはないよ"と。怖がらなくても、ありのままの自分でいつか愛される日がくるよって。そういう幸福感をこの曲には込めたいと思っていたので、この歌詞が出てきました。

-なるほどなぁ。その心境の変化はめちゃくちゃ大きかったでしょうね。

やっぱり昔は自己肯定感がすごく低くて、自分のことを愛せなかったんですけど、そこはなくなったかなぁ。さっきの2012年の話じゃないですけど、めちゃくちゃ無理して、自分のためにも人のためにも死に物狂いで動き続けていた時期って、どこかに喪失感があったり、"こんなにやっているのに"という物足りなさとか、届かなさを常に感じていたりしたんです。でも、今みたいに思えるようになったのは岸田さんとか晶太君とか、田淵さんもそうなんですけど、いろんなことを話せたおかげでもあって。

-そうだったんですね。

例えば、"他人に期待しない"というのを田淵さんがおっしゃっていたり、岸田さんも"ルールを決めて守らないのであれば、自分にルールなんて作らなくていい"と言ってたり。私は"絶対にこの日までにやらなきゃ"ってすぐに言っちゃうので。そうやって、周りの人といい感じの塩梅を取れるようになったことで、神経質で凝り性なところが、ちょっとほどけたかなと。人と会ってお話しするのが楽しい自分だけが残って、それに対して思い悩まなくなったんですよ。昔はこういう場所でも"あぁ、このインタビュアーさん、来てくれてるけど、私のこと全然好きじゃなかったらどうしよう......"とか(笑)。

-鬱々としていたと(笑)。

はい(笑)。実際のところ全然そんなふうに見てらっしゃらなかったと思うんですが。でも、毎日明日が楽しみになるようになってきて、この変化ってすごいなと思って。だから、「Life is like a rolling stone」の歌詞に書きましたけど、私は転がり続けていくなかで人といっぱいぶつかって、丸みを帯びることで光沢を得たんですよね。そういうなかで、1Aメロの2周目に書いている"誰にも 踏み入らせることないまま/鋭く尖り光る君の魂"というのは、昔の自分のことでもあるし、私の周りにもそういう人っているんです。"私はこのままで生きていく"っていう人。そういう人が持っている鋭い輝きって、丸みを帯びて穏やかになった自分からすると、自分が失ったものでもあるから、キラキラして見えるんですよ。そういうジャックナイフみたいな輝きも美しいんだけど、私が得た穏やかさもひとつの新しい輝きだし、そうやって形の違う人間と人間がぶつかり合って、失いながらも、その瞬間の摩擦で輝いている。"人生って転がる石のようだ"っていう曲ですね。

-この曲もそうですし、アルバムすべてに草野さんの人生が見事に詰まりましたね。

そうですね。いろんな摩擦を経て輝いた自分の人生をすべて詰め込んだアルバムになりました。

-そろそろお時間になってきましたが、ここから先の活動としては、これからも作家として楽曲提供をしていくし、シンガー・ソングライターとしても歌い続けていこうと。

今、楽曲提供のお話をすごくいただけていて、去年はとにかく死ぬ気で書きまくっていたんですけど、アルバムを作ったことで次に書きたいことがどんどん出てきたんですよ。だから、若干増えすぎた楽曲提供とのバランスを見つつ、自分の曲を作る時間はちゃんとキープしたいなって。今は穏やかになったとはいえ、時速100キロで走っていた人が70キロになった程度なんで、そこをもうちょっと、人間の速度で走れるぐらいまでにはしたいかな。"足もげるわ"ってぐらい走ってるんで、もうアラフォーだし、日曜の朝にコーヒー淹れながら新聞でも読みたいわという(笑)。

-人間らしい生活がしたいと(笑)。

そう! それです! 今年の目標は"人間らしい穏やかな生活"ですね! "(絶対無理)"って書いといてください(笑)。