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INTERVIEW

Japanese

草野華余子

 

草野華余子

Interviewer:山口 哲生

-あと、「Wi-Fi feat. 宮地 慧(memento森) & eba(cadode)」について。これまでご自身で歌われる楽曲は、バンド・サウンドでありロックが基軸になっていましたけど、この曲は打ち込みが主体になっていて。こういう曲にもトライしてみようというのは、かなり前から思っていたんですか?

こんなことを言うのもアレなんですけど、今は日本というよりも、UKとかUSのクラブ・シーンとか、Dua LipaさんとかHALSEYさんとか、最近だったらMiley Cyrusの新譜がすごく良かったんですけど、打ち込み主体のサウンドが好きなんですよ。だから、自分でやってみてもいいんじゃないかなと思って、cadodeのeba君に力を貸してもらって、アコギのサンプリングから作っていきました。

-そこにビートを打ち込んでもらって。

そうです。自分のDAW上で、ある程度の方向性は作っておいて、こういう感じにしたいっていう話をして。eba君は面白い音色や、ギターのアプローチがすごく豊かな方なので、いろいろと手伝ってもらいつつ、宮地君とはLINEで歌詞を1行ずつ書き合って。それこそWi-Fiに乗せながら音楽を作れたので、すごく楽しかったです。

-内容としてはコロナ禍の世界を歌っていますね。

ただ、この曲を作ったのが去年の5月ぐらいでだいたい1年近く経ったんですけど、あの当時に想像していた未来よりも深刻化しているので、この前、"この曲の続きを作りたいね"っていう話をしてたんですよ。だから、ここで終わりじゃなくて、次も、そのまた次も作れたらいいなって思ってます。

-どんな曲になるか楽しみにしてます。あと、歌詞のストーリーと合わせながら"Wi-Fi"、"why fight"、"I'm fine"で韻を踏んでいくところが好きでした。

ありがとうございます! 普段は韻を踏むのってちょっと恥ずかしくなっちゃうんですけど、宮地君はきれいに韻を踏みながら、内容も濁らせずに面白いアプローチをするのが得意だし、私がmemento森の楽曲から学んだこともすごく多いんですよ。あと、意外とこういうこともやろうとも思えばやれるんだなって、自分の歌詞の方向性が広がった曲にもなりました。

-普段はあまり韻を踏もうとは思わないんですか?

そんなに踏もう踏もうという感じはないんですよね。リリック初心者がやっちゃってる感じになっちゃうかなと思って(苦笑)。私は、どちらかというとメロディ主体で、歌詞も女流文学的というか、日本語の文章が美しいもの──今回のアルバムだと「最後のページは開かずに」みたいな物語調のものを書いてきたから、急にリズミカルになるってどうなんだろうと考えていたんです。でも、レコーディングのときに、岸田さんも"打ち込み曲は声に合ってる"と言ってくれたし、「Wi-Fi」がきっかけになって、自分でも作ってみたいなと思ってアレンジしたのが、「ドミノ倒し feat. koshi(cadode)」とか、「Stray Dog Tag」とかだったりします。

-「ドミノ倒し」は、グルーヴがめちゃくちゃ気持ち良かったです。

そこはすごくこだわったんですよ。この曲は、ビートのプログラミングを岸田さんがしてくれて、そこに私がベース・ラインとかオブリをあてて、最後にいろいろな音の積みとか彩りをeba君が添えてくれて、3人で編曲をしたんですけど、歌うのが結構難しかったですね。一行一行どれぐらいシャッフルさせて歌うかをコントロールしながら歌っていたので。

-そこも作家目線というか、シンガーの自分をヴォーカル・ディレクションする感じだったんですか?

いや、今回はそれを全部やめたんです。岸田教団(岸田教団&THE明星ロケッツ)のはやぴ~(Gt)さんに、4曲ディレクションに入ってもらったんですが、曲を書いたときの自分が歌っているときに出てきてしまうと、"ここを聴かせたい!"というところで強くなっちゃったりするんですよ。でも今の主流の歌い方というか、巷で流行っている音楽、例えば米津玄師さんとかがやっていらっしゃることって、その逆なんですよね。聴かせたい1行で、力を抜く。"頑張るっ!"って歌うよりも、"頑張る......!"って歌ったほうが沁みたり、"好きだよ"というひと言を必死で伝えるよりも、ちょっと引いて言ったほうが聴こえたりするので。そういう差し引き、さじ加減をはやぴ~さんがディレクションしてくれたので、そこは今までの作品と全然違うところかなと思います。なので、「ドミノ倒し」は、とにかくビートのことを考えて、"もう戻れない"の1行だけをエモーショナルに歌おうとか。ピーク・ポイントを決めて、その脚本通りに演じられるようにしようと考えてました。

-もうひとつの打ち込み曲「Stray Dog Tag」は、少しダークな雰囲気があって。ハイハットがトラップ的で、ビートも心地よかったです。

この曲、レコーディングの最終日にアレンジしたんですよ。隣の部屋で岸田さんがビートを打って、それがきた瞬間に私がコーラスを入れて、みたいなやりとりをしてました。

-で、この歌詞がまた......。

ははははは(笑)。

-草野さんの葛藤が書かれているんですけど、青い炎がメラメラと燃えている感じというか。

やっぱね、赤い炎は20代の専売特許ですよ。もう何も燃えへん(笑)。

-でも、青い炎を燃やし続けるのが一番難しいじゃないですか。

うん、そうなんですよね。やっぱり音楽活動を続けられなくなった友人もたくさんいましたし。タイトルの"Stray Dog Tag"って、"Stray Dog"は迷い犬で、"Dog Tag"は名札という意味なんですけど......例えば、"もうカヨちゃんはシンガー・ソングライター界隈から卒業だね"とか"作家さんだよね"とか、"昔のあなたはもういない"とか、作家として楽曲提供をしていくなかで、たくさんの人たちとサヨナラをしてしまったんですけど、その人たちから与えられた"名前"もたくさんあったなと思ったんですよね。でも、どれもしっくりこなくて。私としては、ただ音楽が好きで、弱い自分とかサボってしまう自分に負けるものか! って、毎日がむしゃらに必死で走り続けてきただけなんですよ。そうやって走っているなかで、ふと振り返ったときに、その人はもういなかったっていう悲しい別れを繰り返してきたんですけど、知らないうちに私の首にはたくさんのドッグ・タグがぶら下がっていて。

-そのドッグ・タグには、いろんな人たちが自分に付けていった"名前"が書いてあって。

その名札がありがたいときもあるんですよね。見つけてもらえやすいから。だけど、自分自身は何も変わっていないんですよ。変わったのは環境だけで、おごり高ぶらずに、目の前の音楽を作り続けるという意識は1ミリも変わっていないからこそ、お仕事をずっといただけたり、自分が歌う環境を守れたりしているのかなとも思うので。そういう意味で、人は私にいろんな名前を付けるけど、私の物語に名前はいらないから、"This is my story/その名前は "NO NAME""と書きました。

-不屈の精神みたいな感じですね。

はははは、そうですね。今回のアルバムの中で、もちろん他の曲も自分で歌いたいものになっているんですけど、この曲だけは、なんと言われても私が歌うのが一番正しいなと思っています。草野華余子が歌うのが、この曲にとって一番の正解だなって。