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INTERVIEW

Japanese

the paddles

2020年11月号掲載

the paddles

Member:柄須賀 皇司(Vo/Gt) 松嶋 航大(Ba) 加賀屋 航平(Dr)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

僕らの思う名盤には"これで終わるんかい!"という曲が最後に入っている


-おひとりずつ、心の推し曲を教えていただけますか。

松嶋:僕は「八月」が好きですね。ライヴで生きる、ライヴでやっていくことによって成長していく曲だと思いますし、自分たちの中でも"ええ曲できたなぁ"という気持ちがすごくあります。「八月」はわりと早い段階からあった曲で。ひょっとして、今回の中で一番古いのかな?

柄須賀:せやな。僕が弾き語りで作ってて、何回か曲にしようとはしていたけど、なんかちゃうなぁと思って、やめて。"作れそうで作られへん"、"じゃあいったん寝かすか"みたいな曲って結構あるんですけど、そのうちのひとつでした。

加賀屋:今回のジャケットが「八月」のイメージなんですよ。それは、「八月」という曲が制作期間の最初のほうからあったことが関係しているのかもしれないです。

-ということは、アルバムの中でも象徴的な曲だと。

加賀屋:そうですね。リードになっていないけど、中核を担っている曲ではあります。

柄須賀:やっぱりクリーンナップやもんな。3曲目は相当大事な位置です。

-加賀屋さんの心の推し曲は?

加賀屋:僕は「天保山ローマウンテン」ですね。

柄須賀:マジで(笑)? あれが心の推しなん?

加賀屋:そう(笑)。この曲名、僕が考えたんですよ。オケを聴いたとき、『サーフ ブンガク カマクラ』(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの5thアルバム)に入っていそうな曲だなと思って。

-"感情全部曝け出して"のメロディ・ライン、ゴッチ(後藤正文/ASIAN KUNG-FU GENERATION/Vo/Gt)が歌ってそうだなって思ったんですけど、なるほど、そういうことだったんですね。

柄須賀:あ~、そうかもしれないですね! "さらーけだしてぇ♪"みたいな(ゴッチ風に)。

-それそれ(笑)。

加賀屋:(笑)あのアルバムって、例えば「江ノ島エスカー」みたいに、曲名が"駅名+カタカナ"になってるじゃないですか。そのイメージで、とりあえず仮タイトルとして"天保山ローマウンテン"って付けたんですけど、そのまま最後まで進んでしまい......。歌詞はちょっとふざけてますけど、曲自体は、良質なパワー・ポップを作れたなっていう気持ちがあって。自分たちが鳴らしたいアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のあの感じを、素直に出せたので、個人的には結構好きですね。

柄須賀:歌詞はホンマ悩んだんですけど、事実を述べているだけなので、特に意味はないです(笑)。

-でも、それがかえっていいですよ。今回のアルバムの歌詞、素直な言葉が並んでいるじゃないですか。心にグッと刺さる言葉がここまで続いてきたなかで、ボーナス・トラック的な位置づけとしてこの曲があり、"もし疲れてるんなら/ペンギンに会いに行こう!"と歌われると、何か癒される(笑)。

柄須賀:あはは、たしかに!

加賀屋:この曲が最後、いらんのに入ってる感じが好きなんですよ。自分たちが名盤やなって思うアルバムって、"これで終わるんかい!"みたいな曲が最後に入っている作品が結構多くて。

柄須賀:たしかに。

加賀屋:いらんけど、これがあることで、なんか知らんけど名盤になってる、みたいな。そういう感じを出せたのかなと思うので、それも含めて、この曲が好きですね。

-柄須賀さんの心の推し曲は?

柄須賀:僕は「カーネーション」か「東館3F」なんですけど......どっちも同じくらい大事な曲なんですよ。どっちも喋っていいですか?

-お願いします。

柄須賀:「東館3F」は......高校生のとき、軽音楽部の活動場所が(校舎の)東館3Fにあって。タイトルはそこから取ってますし、当時の思い出を歌った曲ではあります。ただそれ以上に――今、塾でアルバイトをしていて、高校生の悩みを聞く機会が多いんですよ。"めんどい"とか"あいつ鬱陶しい"みたいな話を聞くなかで、そういう気持ちさえも、全部ちゃんと思い出になるから、ちゃんと真っ当に頑張れよ、っていう気持ちがすごく強いんですよね。「東館3F」はそういうところから生まれた曲で、僕にとっては思い入れが強いです。

-"忘れた 忘れ物"というフレーズが気になって。これ、意図的に重ねているんですよね。

柄須賀:そうですね。現役高校生と違って、大学4回生になった今の自分には、"あのときの感覚ってどんなんやったっけ?"と思う瞬間があるというか。高校生時代に置いてきてしまった気持ちがたしかにあるんだけど、"置いてきた気持ちってどんなんやったっけ?"、"何を思い出したかったんやっけ?"みたいな感覚があるんですよ。それを端的に言葉にしたのが"忘れた 忘れ物"。何を忘れたのかさえ、いつかわからなくなってしまうんだぜ、という歌詞ですよね。

-この曲に限らず、今回のアルバムは、22歳としての等身大の感情が歌詞に色濃く反映されていて。「東館3F」のように、人生の先輩として高校生に寄り添う曲もあれば、「カーネーション」のように、普段は気恥ずかしくて言えない、親御さんへの気持ちを綴った曲もある。

柄須賀:そうですね。「カーネーション」はそもそも、他の7曲が全部揃って、いったんレーベル・スタッフに聴いてもらったとき、"渋いね~"、"もう1曲、すごくわかりやすい曲入れない?"という話になったところから始まった曲で。それがレコーディング初日で、「カーネーション」はそこから2日ぐらいで書いた曲なんですよ。もしもたくさん時間を与えられていたとしたら、絶対自分たちでこねくり回してもうてたやん?

加賀屋:いろいろとやっていただろうね。

柄須賀:だけど、"この曲はそういうのもなくていい"ということで、グアーッと作っていって。歌詞に関しては、サウンドを聴いて"あ、カーネーションを感じる!"と思ったので、言葉を足していくなかで、母親に向けた曲にどんどん変わっていきました。この曲の歌詞は、今まで作った曲の中でも一番好きですね。

-飾らない言葉ばかりですよね。

柄須賀:自分っぽい曲やとは思うんですけど、今まで以上に吹っ切れて、自分の言葉を放つことができたというか。今までは、できるだけ普遍的に書くことを意識していたんですけど、"自分のことをまっすぐに書いてもみんなに伝わるかもしれへん"、"結構共感してもらえるかもしれへん"と思えたので。

-そこでそう信じられたのがすごいです。

柄須賀:がめつい話ではありますけどね(笑)。......でも、うん。自分の中ですごく大事な曲になりました。

-サビに入るタイミングの"憧れている"もわりと自然と出てきた感じですか?

柄須賀:実は"憧れている"だけは先に決まってたんですよ。ここに関しては、サビメロが固まる前から、身から出た鼻歌で決まっていたんです。

-「Pretender」(Official髭男dism)の"グッバイ"に通ずるものを感じました。これがなくてもサビに行けるけど、だからこそ、その存在自体が印象的な要素になっているというか。

柄須賀:あぁ~、それは思いました! 自分の中ではなんというか、サビをより印象づけるためのフレーズなんですよね。ここでいきなり"憧れている"と言うのは、自分の中でも結構大事。キメのひと言になったなぁという感覚はあります。

-今回1年ぶりに取材させていただきましたけど、昨年よりもインタビューに対する回答が明確になりましたよね。

柄須賀:あははは、そうかもしれない! それはたぶん、"ああいうきっかけがあったからこういう曲ができた"というのが明確だからで。前までは、漠然と考えていることを、自分たちでこうやって(※頭上にある空気を引き寄せ、おにぎりを握るようなしぐさ)、形を作っている感じやったんですけど、今は、周りにいる人たちが掛けてくれる言葉や、してくれること――自分の人生にパワーを与えてくれているものに背中を押されて、曲を書いているんです。

-それもまさに"裏打ちされた楽観"ですよね。今回、人と人との本質的なつながりを求める気持ちが歌われた曲が多くて、聴いているとグッとくると同時に力を貰えるのですが、それには、今話していただいた変化が大きく関わっているような気がします。

松嶋:今の話は歌詞についてだと思うんですけど、曲自体に関しても、"こういう雰囲気の曲"みたいなイメージが前回よりもはっきりしていて。去年の段階から"次のアルバムでは自分たちのやりたい音楽を、1stのときよりもさらに表現したい"という気持ちが強くあって、作りたいアルバム、曲に対するイメージを膨らませていたので、だからこそ、制作がすんなり進んだのかなと思いますね。

加賀屋:やりたいことを表現しやすくなってますね、知らん間に。イメージを作り込む、落とし込むこと、あるいは自分たちの好きな音楽の感じを純度高いまま、且つ自分たちのフィルターを通しながら曲にすることが、前よりもできるようになった気がします。

-いいアルバムではあるんですけど、これによって可能性が広がったわけだから、まだ天井にはついていない感じがします。

柄須賀:あ~、たしかに。このCDを作ったからこそ、"こういう曲も作りたいなぁ"、"まだまだなんでもやれそうやなぁ"というイメージがどんどん湧き上がってはいますね。