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INTERVIEW

Japanese

ましのみ

2020年03月号掲載

ましのみ

Interviewer:宮﨑 大樹

「7」は自分のテーマ・ソングを作るつもりで書きました


-「7」を制作するにあたって、お題みたいなものはあったんですか?

12月の頭に監督さん、プロデューサーさん、スタッフさんたちとの打ち合わせがあったんですけど、監督さんが"原作を読んでどういうふうに思いましたか?"って聞いてくださって。同じ目線で話していただくことで、曲が書きやすい状況を作ってくださったんですよ。そこで伝えた感想が、曲に対する監督さんの要望と重なっていた部分が多かった感覚がありました。

-具体的にはどういうところですか?

原作にはいろんな魅力があるんですけど、その中で特に魅力に感じたのは、原作者の爪(切男)さんの、どんなにつらいことがあっても全部"まぁいいか"って言ってしまえる、いい意味で楽観視ができる人柄でした。私は"まぁいいか"ってできないから、苦しむこともあるし、周りにもそういう人がいるのは知っているので、その"まぁいいか"っていう生き方が希望になることに一番グッと来たんです。そんな話を監督さんにしたときに、監督さんの中でも"まぁいいか"っていう言葉に対する重要性があったので、どんな形になっても、頭サビを"まあいいか"で終わらせようっていうのを初めに決めました。

-"まぁいいか"から広げていったと。

あとは、悩んでいる人が聴いて、希望を持てるような感じにしたかったんです。"死にたい夜にかぎって"っていうタイトルは、暗めには見えたりするけど、オープニングとして書かせていただくにあたって、希望が見えるような感じにしてほしいっていうリクエストをいただいて。なので、テンポ感とかサウンド感とか歌い方に反映したりしました。

-ストーリーもとても面白そうですよね。

めっちゃ面白いんですよ。これ、"私みたいな人のための本"みたいな感じでした。主題歌に選んでいただいたことも嬉しいんですけど、この原作と向き合って"まぁいいか"っていう考え方とか、作品の中で伝えてくれる希望を曲にしていく過程で、自分の人生に対する考え方や、歌詞を書くっていうことに対する幅が広がったことも感じました。

-主人公視点で書かれていますね。

そうですね。"原作のテーマ・ソングになればいいな"って思って書いたので、そういうふうにしたんですけど、共感できる部分が多かったんです。私と同世代の男女にとって共感できる要素がある、救われる原作だと思っていて。だから、この原作のテーマ・ソングを書いたら、私とか、原作に共感している読者や、ドラマを観ている人にとってのテーマ・ソングにもなり得るんじゃないかなと思って書きました。実際に歌詞を書くときは、夢に対してちょっと逃げちゃう爪さんの考え方にそのまま共感できるなって思っていたし、逆に恋愛に対する考え方とか、人生に対する考え方の"まぁいいか"って思えるポイントとかに関しては、私とは真逆に感じていました。"まぁいいか"って思えないし、強くも生きられないほうだったので、爪さんの恋愛観を理解するっていうところから原作を読み込んで、日記みたいなものを自分でたくさん書いたんです。全部咀嚼して飲み込んで、自分のものにしたうえで、自分のテーマ・ソングを作るつもりで書きました。

-今回のミニ・アルバムのポイントである、サウンド面のこだわりはどういうところですか?

アレンジは横山(裕章)さんにお願いしていて、生ドラムと生ベース、それとピアノもフェイザーとかは掛かっているんですけど、私がグランドピアノを弾いているという今までとの違いがあります。あと、横山さんのことはすごく信頼しているんですけど、私と横山さんの中身を100パーセント一緒にすることはできないので、部屋で洗濯物を干している音を入れたいとか、このタイミングでこういう音を入れたいとか、細かいこだわりを作り込んで横山さんにお渡ししました。横山さんは高尚なアレンジができる方なんですけど、"あえてチープ感を残したい"っていうところもちゃんと尊重して作ってくれています。他にも、私にはない技術的な部分や生音のディレクションがすごくて。自分のレコーディング現場で、ドラムを録っているのを見るのが実は初めてだったんですけど、そこで"横山さんすげぇー!"ってなりましたね。私が作り込んでいたときには、生で音が入るっていうリアルな想像まではできていなくて。"こういう録り音で"みたいな、全体をディレクションしてくれたのが横山さんで、そこが"敵わない、頑張りたい"って感じたところだったかなと思います。

-「のみ込む」は、ドラムを除いて作詞作曲、編曲、ピアノまで、すべてましのみさん自身で行ってるんですよね。

ドラムも、すっごいラフな打ち込みは作っています(笑)。この曲のドラムは諸石(和馬/NAMBA69/ex- Shiggy Jr.)さんに叩いてもらっているんです。去年の11月("ましのみワンマンライブ 「OKIGARU」")に、ワンマン・ライヴとしては初めて諸石さんとご一緒したんですけど、そのときの添えてくれるドラムとか、弾き語りをやったときに乗せてもらえたパーカッションとかの感性が好きだったんですよ。もともと「7」しか諸石さんには叩いてもらえない予定だったんですけど、"私のピアノの弾き語りに諸石さんのセンスでドラムを乗せてもらいたい"って思って、お願いしたら、引き受けてもらえてラッキー! みたいな感じでした(笑)。"ただの弾き語りにしたくないな"とはずっと思っていて、ピアノと環境音を入れようとしていたんですよ。レコーディング・スタジオで私が椅子でガタガタ動いている音とか、カーテンを開け閉めする音とか、そういうものを入れようかなと考えていたんです。そういう雰囲気を伝えるためにと思って、かなりラフな打ち込みで送って"こんな感じを諸石さんのセンスで!"みたいな感じでお願いしました。ちなみに、それが相当な無茶ぶりだったことは、あとで周りのスタッフから聞いて知ったんですけど(笑)。

-(笑)

それでも、私と諸石さんにしかわからないような、打ち込んだデモのニュアンスを、かなり忠実に再現してくれてます。私、感動してこの曲のレコーディングで大号泣したんです。「7」でリズムを刻む生ドラムもすごくいいなと思ったんですけど、こういう曲が好きなんですよ。リズムにとらわれないし、BPMもない、パーカッション的に入ってきてくださる音がすごく好きなので、ラフな打ち込みで想像していたものが形になって嬉しかったです。この曲は「7」よりもピュアな形で全編曲ができているかもしれないですね。

-サウンドがすごく生っぽくて、まるでライヴ音源みたいなんですよね。目の前で歌っているような感覚がするというか。

あ、嬉しい! そうしたかったんです。恋愛を軸にしているミニ・アルバムで言うと、この曲を作るときのコンセプトが、お別れをしたあとなのか、ケンカをしたあとなのかはわからないですけど、日々しんどいことがあって"はぁ......"ってなるときの帰り道とか、家に帰ったあととかに聴いて、泣けたり、"しょうがないか"って安心できたりするような曲にしたくて。この曲は、6畳くらいの事務所のピアノ部屋で作ったんですよ。その部屋にあるアップライト・ピアノの楽器そのものの音と、私の生の声の反響具合がとっても好きで。狭い部屋で目の前で聴いているようなものにしたかったんです。しんどそうにしている友達の話を同じ部屋で座って聞いていたのに、急にピアノに座って、その子だけに向けて目の前で歌う、みたいな。そんな気持ちで歌ったので、歌い方にも反映されているんじゃないかなって個人的には思っています。なので、そういうふうに感じられる録り音にしたいっていうのは、エンジニアの方にお願いしてやってもらいました。

-狙い通りになっていますね。つらいことがあったときにひとりで聴きたくなりそうです。

(笑)私もそういう曲が欲しいなって思ったのでこの曲を作りました。

-「エスパーとスケルトン」についても聞いていきたいのですが、ピアノが印象的でいい曲だなと思いつつも、これを弾きながら歌うのはなかなか大変そうですよね。

もうマスターしましたよ(笑)! そもそも歌わなくても難しかったんです。sasakureさんが作る音楽は、フレーズとかも含めて全部好きなので、めちゃくちゃ難しくしてくださいみたいなことを言ったらこの曲になりました。sasakureさん的には、実際に弾かないという前提で打ち込んでいらっしゃったので、指的に不可能なとこもあって、レコーディングが大変でしたね。そのあとに初めてライヴでやる段階で、"もう無理だ"って思ってました(笑)。なんとかなりましたけどね。今となっては楽しいですよ、弾きながらノれますし。

-MVの影響もあると思うんですけど、歩きながら聴きたくなる曲ですよね。

嬉しいです。あのMVは"聴き方の提示さえできれば、意味合いはこっちから押しつけがましくしたくないよね"って、監督のヒサノ(モトヒロ)君と話してやっていたので、そう言っていただけると嬉しいですね。

-主演が鶴見 萌(虹のコンキスタドール)さんって言われるまで気づかなかったんですよ。あと、ましのみさんもチラっとだけ出演していましたね。

萌ちゃん、わからんですよね(笑)。私もチラっと出てました。もともと出るつもりはなかったんですよ。エキストラの方が午前中はたくさん来てくださっていたんですけど、午後はバスのシーンだけだったので、半分くらいに減りまして。そうしたら"バスに座る人が足りなくない?"ってなって、私が座ることになりました。結果的に楽しんでもらえたなら良かったです(笑)。

-さて、リリースから少し期間を置いて、5月に東阪で"ましのみワンマンライブ「ODORIVA」"が行われます。どんなライヴになりそうでしょうか?

去年の11月のワンマン"ましのみワンマンライブ 「OKIGARU」"が、個人的にとっても良かったんです。今まではエレクトロというイメージに縛られていた感覚もあったんですけど、それを取っ払って、初めてドラム、ベース、ギターとかの生楽器とDJ、エレドラ、シンセベース、私はキーボードでって気張らない形でやった初めてのワンマンでした。それまでは演出も作り込んだライヴだったんですけど、ライヴの作り方の考え方もガラッと変わってやったのがそのワンマンで、それ以降の企画ライヴとかでも、生ドラム、エレドラとDJみたいなのでやっていったら、どんどんライヴが良くなってきている感覚がしていて。お客さんのノりも上手になっている感じがあるんですね。今回のミニ・アルバムの5曲で、音源として次のステージを提示できると思っています。この5曲と、今までの曲のアレンジをやりたいようにやって、みんなと一緒に楽しんでっていうことができる場所がワンマンなので、楽しみにしていてほしいですね。前に比べて初めての人も楽しみやすい、ノりやすいライヴになるだろうなと。ふらっと楽しめるし、新しいものを観ることができる、みたいなふたつの面で楽しみにしていてほしいと思います。