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INTERVIEW

Japanese

Eve

2019年02月号掲載

Eve

Interviewer:柴 那典

-アルバムは「slumber」というインストゥルメンタルの曲で始まり、同じくインストゥルメンタルの「dawn」で終わるという構成になっています。つまり"まどろみ"から"夜明け"という、とてもコンセプチュアルな構成になっている。これはどういう意図だったんでしょう?

"おとぎ"というタイトルは当初から決まっていたわけではなくて、すべての曲が揃った段階で考えました。『文化』のときからそうでしたけれど、ミュージック・ビデオが童話のような、現実の要素の中に非現実的な要素が入っている、夢の世界のようなもので。だから、まるで夢を見ているような感覚になったんですね。そして11曲目の「dawn」で、夢から目覚める。次にどうなるかは、僕もまだわからないしワクワクしているところなんですけれど、このアルバムで一度夢から覚めたいなって気持ちになったんです。

-「君に世界」とか「迷い子」とか、歌詞には"物語"という言葉が出てきますよね。虚構の世界が全体的なテーマになっている。それはなぜでしょう?

このアルバムに限らず、昔からつらいことがあったり、不安になったりするときに、音楽を聴いて自分自身を取り戻したり、励まされたりしてきたんです。現実から逃避したいときに音楽を聴いていた。ライヴもそうで、ライヴの瞬間は自分にとって非現実的な世界だった。だから、このアルバムもそういう1枚になればいいなと思っています。『おとぎ』というアルバムが、誰かに寄り添って、その人の支えになってくれたらいいなって。

-ただ、それに加えて、『おとぎ』に描かれているのが、いわゆる異世界のファンタジーではないというのも重要ですよね。"トーキョーゲットー"という曲名が象徴的ですけれど、現実世界と隣り合った場所というか、我々が暮らしている場所の写し鏡のような世界を描いている。

そうですね。ファンタジーではないんです。剣とか魔法があるわけじゃないし。MVでも現実の世界があって、その中にひとつ、非現実的な要素が入ってくる。だから現実逃避になればいいと言いつつ、どこか他人事ではないようなところがあって。その人が夢から覚めても、このアルバムで感じたことが、現実の生活の中で何かを起こすきっかけになればと思います。

-Eveさんのそういう感性が培われたルーツについても聞ければと思うんですが、BUMP OF CHICKENが音楽との出会いだったそうですね。

初めて買ったCDはBUMP OF CHICKENの『supernova/カルマ』でした。そこからハマって好きになって。でも、ひとつのアーティストをずっと聴くというよりは曲単位でいろんなものを聴いていきました。そんななかで初音ミクの「メルト」のカバー動画を同級生の友達に聴かせてもらって、そこからVOCALOIDの曲を聴き漁るようになっていきました。

-"歌ってみた"を投稿したのは?

その友達の家に録音する環境が整っていて"ちょっと歌ってみない?"みたいに誘われたところから始まったんです。楽器や歌をやったりしたことはまったくなかったので、言われるがままに友達の家で録音して、初めて歌をネットに上げたんですけど、少なからず反応があって、それがすごく嬉しかったんですね。誰がコメントしてるかわからないけれど、反応が貰えた。それが最初のきっかけです。

-ネットの場で活動するようになって、また新たな刺激もあったんじゃないかと思います。そのあたりはどうですか?

ボカロ(VOCALOID)のシーンって、邦楽のロック・バンドだけでなく、自分が普段聴かないようないろんなジャンルがあるんですよ。同じ曲であってもカバーする人によってジャンルが違ったりする。それがより面白いと思って、気づいたら今みたいな活動をしていました。

-最初はカバー曲を投稿してきたわけですよね。自分で曲を書こうと思ったのは?

最初は趣味のひとつとして歌を上げ始めたんですけど、気づいたら同人でアルバムを作ったりライヴをやったりするようになって。特にワンマン・ライヴをやったあとに少しずつ違和感が芽生え始めてきたんです。声や歌い方も含めて、自分の外側の部分を見てもらうよりも、自分の中にあるもの、中身を知ってもらって、そこで本当に好きになってくれたら、それは嬉しいことだし、幸せなことだと思って。曲を作ろうと思ったのは、それがきっかけでした。


僕の楽曲には映像はかなり大事だと思っています。より曲を色濃く深く掘ってくれるものなので


-先ほど1曲作るのに半年くらいかかるとおっしゃってましたけれど、『おとぎ』の楽曲のアレンジや映像は、具体的にはどうやって作っているんでしょう?

僕自身はEveという名前でやっていますが、僕の作品は実際にはたくさんの人が関わってくれたし、いろんな人を巻き込んで、ひとりの考えに収まらない作品が生まれたと思うんですね。特に映像に関しては、音楽と同じくらい楽しみに待ってくれている人がいるので、かなり重要だと考えています。音源のデモができあがったら、まずこの人に映像をお願いしたいと決めて、お願いする。そこから最初にできあがってくる映像を観て、曲のアレンジや歌詞を変えることもある。そうしたら今度はその曲を聴いて映像のイメージが変わっていくという。

-編曲はNumaさんが担当していますが、アレンジだけじゃなく、MahさんやWabokuさんなど映像クリエイターのアイディアやセンスも、楽曲のアウトプットに加わっている。

そうですね。ミュージック・ビデオは、毎回東京のどこかが舞台になっているんです。一緒にロケハンに行って写真を撮って、ああしたい、こうしたいって言い合ったりして。バンドみたいな感じはありますね。そのキャッチボールのなかで、お互いに予想していなかったものができていく。それはすごくワクワクするし、すごく楽しくやれています。

-なるほど。ニコニコ動画、YouTube以降の、今の時代のバンドのあり方のひとつなのかもしれないですね。歌詞とメロディを軸に、楽器のプレイヤーと同じように映像クリエイターがチームとしてひとつの世界を作るという。

僕の楽曲には映像はかなり大事だと思っています。より曲を色濃く深く掘ってくれるものなので。それはこれからも大事にしたいですね。ただ、そのキャッチボールは、どこかでちゃんと自分の血が通ってないと簡単に崩れてしまうものなので、そこは大事にしながら、生まれてくる曲が一番いい形で人に伝わることだけを考えてやっていこうと思います。

-わかりました。ちなみに、最近聴いて刺激を受けた音楽にはどういうものがありますか?

最近は、ランダムに好きな曲をいろいろ聴いている感じです。ただ、先日Charlie Puthの幕張メッセのライヴに行ったんですけど、すごく良かったです。音楽が生活に溶け込んでいる感じがある。ああいうのはいいなって思いました。あとはTom MischとかBillie Eilishも聴きますし、the band apartとかPeople In The Boxも好きですね。