Japanese
Crahs
2016年12月号掲載
Member:クボタクト(Vo/Gt)
Interviewer:蜂須賀 ちなみ
音楽に力をもらってる以上、溜め息とか泣き言は絶対ゼロにはなりえない。だから、なくしてあげるとかじゃなくて、代わりに引き受けてあげたい
-そういう意味で、今回の収録曲の中から、今の自分だから書けた曲をあえてひとつ挙げるならどれですか?
あえて1曲選ぶなら、1曲目の「ビターパレードへようこそ」ですね。"どうせみんなネガティヴなことを言ってるから、自分はせめてポジティヴに発信したい"っていう気持ちをそのままサビで書いてるんです。"君の溜め息も泣き言も心配しないでよ/僕が陽気に歌ってあげるから"って。
-でもやっぱりこの部分だって、明るさのみではないと思うんですよ。だって"溜め息も泣き言も消してあげるよ"とは歌わないじゃないですか。
そうですね。代わりに歌うって言ってるだけで。
-そうなんですよ。そこはやっぱり、そういうふうには言えないですか?
言えないですねぇ。(溜め息や泣き言が)なくなったら音楽はいらないんだろうなって思うので。僕、THE BACK HORNがすごく好きなんですけど、「キズナソング」(2005年リリースの4thアルバム『ヘッドフォンチルドレン』収録曲)の"誰もがみんな幸せなら歌なんて生まれないさ"っていう歌い出しの意味が高校生のときは全然わからなかったんですよ。それが最近ピンとくるようになってきて。そりゃみんな幸せで悩みもあんまりなかったら、音楽に頼る必要ないよなぁ、音楽にすがる必要ないよなぁ、と。音楽に力をもらってる以上、溜め息とか泣き言は絶対ゼロにはなりえない。だから、なくしてあげるとかじゃなくて、代わりに引き受けてあげたいっていう、そういう気持ちが強いのかもしれないですね。
-音楽はすがるもので、ネガティヴなものは完全になくならないと。そういうことを意識し始めたのはいつごろからだと思います?
そうですね......。改名に向かう半年~1年前ぐらいからかもしれないです。Crahsとして動き始めようっていう時期に、音楽に対してそういう印象を持つようになっていったところはあると思います。
-その1年間はクボさんにとってどういう1年でした?
いろいろとうまくいかない年だった気がします。バンドも、自分自身の私生活も、ポジティヴに物事が動かない時期だった印象があります。
-先ほど、今までひとりで完結していた音楽が聴き手に投げかけるものに変わっていったという話がありましたけど、もしかしたら今のクボさんは、うまくいかなかったその時期のご自身に対して音楽を投げかけてるのかもしれないですね。
あ~、それはあるかもしれないですね。さっきも言いましたけど、自分が聴きたい曲を作るっていうスタンスが根底にあって、それだけは曲を作り始めたころからずっと変わってないと思うので。最初は自分が憧れたバンドみたいな音楽がやりたいっていう表面的なところからスタートしたんですけど、今は自分が欲しいメッセージを自分から発信したいというか。当時も今も、自分が聴きたい音楽を自分で作りたいっていう部分は変わってないので、自分自身に投げかけているところも大いにあるんだろうなぁと思いました。
-バンドを続けるうちに自分たちの音楽を聴いてくれる人の数も増えていったとは思うんですけど、それでも"自分自身のために音楽を作っていきたい"という感覚はずっと変わらなかったんですね。
曲を作る瞬間に関してはそうですね。でもライヴで演奏するときはそこにいる人に向けて発信してます。
-不思議ですよね。自分のために作った音楽が、そうやって誰かのための音楽になっていくっていうのは。
そうですね。
-そういう"あくまで自分のため"というわがままが残ってるからいいんですよ。最初に話したように、誰に対しても開かれたアルバムではあるんですけど、それでも表面的に笑顔を浮かべてるだけに思えないのは、クボさんの地の部分がちゃんと滲み出てるからなんだと思います。
ありがとうございます。
-そういえば、Crahsはアパレル・ブランドをプロデュースしていたり、セレクト・ショップを運営していたり、アクセサリーやフリー・マガジンを制作していたりと、音楽以外の活動にも力を入れてますよね。
はい。それも"好きなものを作ろう"っていう根底にある部分がどんどん派生していった感じですね。"自分の聴きたい音楽を作ろう"っていうところから曲を作るのと同じように、自分が着たい服を作っちゃおうっていうか。
-というか、これだけこだわりの強い人がバンドのヴォーカリストとして歌ってることが不思議だなと思ったんですよ。だってバンドとなると、100パーセント自分の思いどおりに事が運ぶわけじゃないですよね。
そうですね。でも、"こういうものが欲しい"とか"こういうものが作りたい"っていうのがポンポン出てくるんですけど、それを形にするのに自分ひとりじゃ力が足りないことが多くて。それに、自分ひとりで作るよりも"こういうのがいいと思うんだけど、どうだい?"、"いいね、作ろうよ"っていうプロセスが好きなのかなって思いますね。やっぱりそういう瞬間の方がワクワクしますし。だから完全にひとりになったら何も作らなくなると思います(笑)。
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