Japanese
永原真夏
2016年03月号掲載
Interviewer:山元 翔一
-具体的に言うと、密度の高いぎゅっとしたサウンドになったのかなと。
うん、ぎゅっとしましたよね。でもほんとにライヴごとでも、セットリストのどの位置にあるかでもだいぶ聴こえ方が変わる曲なんです。余白がある曲だから歌が完成したと思う瞬間がないんですよね。そういう意味でも聴く人によって全然違うだろうから、ずっとずっと歌っていって形が変わっていく曲だと思うんです。それがすごく楽しみかな。
-レコーディングとミックスに池内亮さん、マスタリングは中村宗一郎さんという布陣ですが、仕上がりについてはどうですか?
SuiseiNoboAzの2ndアルバム(2011年リリースの『THE(OVERUSED)END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH』。池内亮がミックスを担当)を聴いてたんですよ。それがすごく好きで、いつか池内さんにミックスを頼みたいって数年前から思っていたんですよ。それで、ソロでやるにあたって環境を変えてみるもいいかなと思ってこのタイミングで頼みました。やっぱり人によってやり方が全然違うので、新しいやり方でできたのは自分にとってすごくよかったんじゃないかなと思いますね。
-では最後の「プリズム99%」ですが、この曲は「リトルタイガー」と同質且つ対照的な楽曲と思いました。それと同時に「バイオロジー」と同じくらい作品の精神的な部分を担っているなと。
これは孤独についての曲なんですけど、孤独を歌にすることがわたしの場合なかなかなくて。例えば「リトルタイガー」には、そういった気持ちをはねのけて誰かと繋がっていきたいっていう気持ちが入っているんですけど。この曲は、すごく寂しいとか孤独とか、何も感じないっていうような気持ちを形にしました。珍しいタイプの曲ですね。
-歌詞では虚無感や居所のなさを綴っていますよね。
そうそう! 居所のなさを曲にしたかったんです。こういう漠然とした歌詞というか、 所在のない曲はSEBASTIAN Xだと作らなかったですね。
-そういった楽曲に"プリズム"という言葉が的に掲げられていますが。
光が入って屈折して、きらきらしたり色がついたり――プリズムのそういうところが心の模様と似てるなと思ったんです。光が消えたらなくなっちゃう、ちょっと儚いところも似ていて。だけど"プリズム"っていう言葉自体にはすごく希望があって、光のイメージがある。儚いイメージと希望のあるイメージ、その両方を持っている言葉だなと思って、この言葉にしました。
-いま永原さんは"心"っておっしゃいましたが......今作は、"愛"とか"生命"っていうものが大きな鍵になっているという視点でずっとお話をうかがってきたので、ここにきて"心"っていう言葉が出てちょっとびっくりしました。"心"ってミクロでパーソナルなものとして捉えられると思うんですけど、"愛"や"生命"はマクロで普遍的なものだと思うんですよね。
そうですね。でも自分の中で、心とか愛とか生命って全部小さく並んでいて。生活とか食事とかと全部一緒で、わたしの中でそれより小さなテーマはないんじゃないかなって思っているんですよ。だから小さいテーマを歌ったというか、大きそうなテーマを小さく歌ったっていう感じに近いかもしれないです。でも、「バイオロジー」もふたりの関係の話だし。
-......あ、そうか。要は全は一で一は全ということなんですね。
そうそうそう。一を語るってことは全を語るということ、そういうふうにわたしはイコールで結びつけているので。小さいことを語ろうとすると大きいことになってしまうし、大きいことを紐解こうとすると一に返るしかない。あんまりそこ(全と一の間)に差はないのかなと。
-だからこそ、この曲でも"シチューのあじ"や"いちごのジャム/8枚切りのトースト"という食べ物が歌詞描かれているの鍵なのかなと思いますね
そうですね、やっぱり食べ物とか味覚って強いんだと思うんです。いちごジャムのトーストって小さいころはよく食べた気がするんですけど、あんまり日常的には食べないのかなと思って。シチューも同じで、家を出たら食べる機会が意外とない食べ物なのかなって。
-孤独を歌った曲の中に、こういった食べ物がある種のノスタルジーの象徴として描かれると。この曲も歌詞ですべて言い切っていますよね。そういう意味でも、今作はより伝わるし、わかる作品になったのかなと思います。
そうですね。ありがとうございます。
-ではそろそろ締めに向かいたいのですが、永原さんは音楽性含め、ソロ・アーティストとしての活動について、どんな未来を描いていますか?
今はただ単にいろんな音楽をやりたいなって思っています。今回、SUPER GOOD BANDと1枚作ったので、次は全然違う、なるべくみなさんの予想のつかない方にいきたいなと思っています(笑)。あと、音沙汰もやりたいですね。今はやりたいことがいっぱいあるので、それをひとつひとつやっていこうかなと。
-わかりました。これはすごく個人的に訊きたかった質問なんですが、David Bowieが夢の中で"『バイオロジー』聴いたよ"って言ってくれたってツイートされてましたよね(笑)。
出てきた(笑)! なんかかっこいい椅子に座ってるんですよ。で、David Bowieが"すべては自然に還っていく"って言ってて、わたしは"そんなつもりでアルバム作ったんじゃないんだけど"って思いながら。
-個人的には"すべては自然に還っていく"っていうのは核心だったのかなとも思ったんですよね。
うーん、でも夢だから変にリアリティがあって。いろいろ語ってくれたあとにそう言ってくれればよかったんですけど、"(『バイオロジー』を)聴いたよ、すごいよかった。俺も昔からそう言ってたからね"みたいな感じで。なんだよ、こいつ先輩風吹かせやがってと思って(笑)。でもDavid Bowieは先輩だし、わたしは"聴いてくださったんですね、マジすか! あざっす、あざっす!"ってゴマをすってるだけだったんですけど(笑)。でも嬉しかったですね、夢に出てきてくれたのは。
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