Japanese
小南泰葉
2015年12月号掲載
Interviewer:沖 さやこ
-では曲を作ることでご自身を救うことができたんですね。
作って救われたんですけど......自分を素直に曲に出すことのメリットとデメリットはたくさんあると思うんです。この「傷」をこの前ライヴで最後に歌って、その当時の自分の気持ちに立ち戻って号泣してしまって、ステージの上でプロとして無残な姿になってしまって......(笑)。あー......だからこういう曲は歌ってこなかったんだよなー......って思って。自分の気持ちを歌うってこういうことなんだな、シンガー・ソングライターが自分の伝えたいことを伝える、嘘をつかないというのはこういうことなんだなって。シンプルにすればするほどそういうことがわかるんだなと思いました。
-男女間の大恋愛というとTrack.8「白闇」もそうですね。この曲は映画"ひかりをあててしぼる"の主題歌ですね。
タイアップのために書き下ろしました。"ひかりをあててしぼる"はDVが行きすぎた共依存を描いた作品で、"あ、だから小南にこういうお話が来たのか......"と(笑)。それならいい曲があるからいい言葉を書くぞ、と思って。ディープな言葉を使わずにお魚に例えて、川に血が流れている様子と赤い糸を手繰り寄せる様子を重ねて、ちょっとでも美しい世界を描きたくて。それが"黒い闇"ではなく"白い闇"のイメージと合っていたんですよね。最初に作品を観たときに"別れたらいいやん"と思ったんです。殴られて文句を言えない女の子の気持ちはわからない。でも相手に依存してしまう気持ちはわかるんですよね。
-ピアノとチェロの美しいバラードでしたし、"少しでも美しい世界を描きたかった"とおっしゃっていたことも含め、この楽曲はこの登場人物おふたりに対する小南さんなりの優しさや救いなのかなと思いました。
......ピアノとチェロの曲はすごく好きで。すごく悲しいじゃないですか。これだけシンプルだったら聴き手も歌詞をちゃんと聴こうと思ってくれるだろう、というバランスも保ちながらアレンジはシンプルにしました。
-その反面、今回はとてもポップな楽曲もありますね。その名もTrack.10「POP LIFE」。
1年以上前にスタッフと"どんな感じの曲を作ろうか?"とテーマを考えているときに"ポップなもの"という案が浮かんで。小南がポップなものを歌うのか......と、一生懸命我慢して書いた曲なんです。ポップと自分はかけ離れたところにいるんじゃないかとも思ったし、すごく嫌々書いた曲だからやるのがすごく恥ずかしくて、ライヴであんまりやりたくなくて。でも自分のやってきたことを振り返って"これからどんなステージに行きたいか?""どういうふうにライヴを変えていきたいかな?"とすごく考えて1年間過ごしたあとに「POP LIFE」をライヴでやってみたら、感極まって泣いちゃうくらいこの曲に励まされたんですね。自分が無理矢理ひねりだした自分への応援歌に出会ったときにめちゃくちゃびっくりして。1年間でこれだけ変わったんやなとも思ったし、枠組みを勝手に決めてたのは自分なんやなとも思ったし。"こういう曲を書いて欲しい"と言われて始まったものだけど"無駄なものは何もないんだな""考えようによってはポジティヴになるんだな"と思って。
-『怒怒哀楽』にも収録されたTrack.9「3355411」も、このアルバムで聴くとまた印象が変わります。特に「3355411」から「POP LIFE」の流れは小南さんの変化を如実に表している気がします。
歌いにくい変なメロディで高速で駆け上って駆け下りる、それをかっこいいロックな音に乗せる......というイメージが小南にはずっとあったと思うんですけど、そういう曲をシンプルな曲で挟んだり、シンプルな曲を増やすことによってすごくいいバランスになったと思います。私が「POP LIFE」みたいな曲ばっかり歌ってもどうしようもなくて。どんな言葉もそうだと思うんですけど、誰が言うかによって全然違うと思うんです。私が"ポップに人生を送りたい"と言うのはきっと"それってどうなんだ?"と思われると思うんですけど、「3355411」みたいに物語が膨らんだような曲のあとの「POP LIFE」は......どちらも自分にすごく響いてきて。それは発見でした。
-Track.3「蜘蛛の糸」は2年間ライヴで育ててきた曲なんですよね。すごく遊び心のある楽曲だと思いました。
「POP LIFE」と「蜘蛛の糸」はライヴで育ててきて。今年の私のテーマは"縁"だったんですけど......どうしても切りたいけど切れない糸とか、イメージで絡み合ってる社会のことを歌いたいと思ったんです。それに遊びの曲は絶対必要だ!と思って。「POP LIFE」はどれだけ遊んでもいい曲なんです。"今日はお客さんにあれ歌わせよう~"と考えたり、好き放題ひっちゃかめっちゃかする曲なんですけど、「蜘蛛の糸」にはお客さんとの高速掛け合いがあって(笑)。今回の音源化にあたってディレクターが男くさいガヤを入れてくれて、わかりやすく"ここで言ってください"ってタイミングを伝えられたかなって。台詞の部分もそのときどきにあった出来事を皮肉めいた感じで言っていて、ライヴならではのやりとりみたいなものを楽しんでもらえたらなと思っています。ライヴごとに変化していくので、遊べる曲になったなと思います。
-ライヴで一緒に作っているお客さんとの関係と、このアルバムでお客さんと作ろうとしている関係性も重なりますね。
そうですね......昔なんて"コール&レスポンスて何ですか?"って感じで。別にやってもやらなくてもいいものだと思ってたし、手拍子を求めるとかもどうなんだろう?と、ひよってたところもあって。でもとりあえず今までやってこなかったことを全部やってみよう!という1年間のライヴ期間があって。それでお客さんとステージの垣根をなくすことが怖くなくなったんです。"かっこつけなくてもいいんだな"とか"お客さんの声がこんなに返ってくるとステージに立っている側はこんなにテンション上がるんだな"とか......。そのときそのときにしかできないライヴをするってどういうことかな?とずっと考えてきていたので、自分自身がすごく変わりました。
-そういう小南さんの変化が今作のソングライティングにも出ていると思います。「傷」みたいに赤裸々すぎて歌えなくなるくらい号泣してしまう曲も、ちゃんと歌えるようになったらまたシンガーとして大きくステップアップできそうですし。その日は近いうちに来そうですか?
まったく違う、カレーのこととか考えながら歌ってみようかな(笑)。......そういえば私、LiSAちゃんに楽曲提供をさせていただいたんですけど(※2015年9月リリースのシングル『Empty MERMAiD』のカップリング曲「リスキー」)。LiSAちゃんも泣きながら歌うんですよ。でもまるで泣いてないかのような発声方法で泣くんです。"え? 涙出てて顔も泣いてるのに腹からめっちゃ声出てる! あれはどういうことなんだ!?"って......。自分の泣きじゃくってる姿を映像で見ると本当に悲惨なんですよ(笑)。泣くと歌えなくなるんですよね......。だからLiSAちゃんを見て"あ、ボイトレ!? ボイトレか!!"と思って! "ボイトレにちゃんと行こう!"って、おととい思いました。
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