Overseas
Jack White
2014年06月号掲載
-しかもアナログ録音しているわけですから、それだけ手間もかかるんですよね。
もちろんさ。だから今回は例えば、アナログ録音した音源をPro Toolsに移して、2小節だけ編集して、さらに修正後の2小節を再びアナログ・テープに移すというやり方も試してみた。最終的には、テープの音に全てを合わせるんだけどね。1曲レコーディングして、素晴らしいテイクだったのに、ドラマーがドラム・スティックを落としちゃったことがあった(笑)。ボツにするのは残念だから、ドラムのトラックを取り出してPro Toolsに移し、そのドラム・スティックの音だけを修正してまたテープに移しかえたってわけだよ。そうすれば音源のソウルをキープできる。そういう風変わりな編集作業を、たくさん取り入れているんだ。これまでにやったことがない手法ばかりだった。Pro Toolsはこんな複雑な編集作業にこそ最適なんだよ。アナログじゃ不可能な編集作業に。ただ、Pro Toolsでレコーディングやミックスをすることは絶対にない。それって僕にはしっくり来ない。どこか違和感があるんだ。編集作業なら構わないけど。
-また、Jack Whiteの曲というと何らかの制限だったりシンプリシティを特徴とすることが多いですが、今回は音にすごく厚みがありサウンドが多様ですよね。これはバンドの影響なんでしょうか?
複数の理由があると思うよ。従来よりも時間をかけたこと、そして、大勢のミュージシャンを巻き込んだことも関係している。前作に伴うツアーには2組のバンドを同伴したから、大勢のミュージシャンとコラボ出来たし、ひとりひとりに持ち味がある。しかも、マルチ・インストゥルメンタリストが多いんだ。THE RACONTEURSやTHE DEAD WEATHERの場合、例えばDean Fertitaは辣腕のギタリストだけど、フィドルやマンドリンも弾けるってわけじゃない。何か1曲レコーディングしていて、バンジョーも弾ける人がそこにいれば"じゃあ試しに入れてみようか"ってことが出来る。つまり、才能豊かなミュージシャンたちが大勢いれば、その分あれこれ遊べるし、色んな方向に進むことが出来るんだよ。
-しかも長いツアーを経て、ミュージシャンたちの力量も良く分かっているわけですからね。
うん。ツアーを踏まえて、また改めてレコーディングが出来て良かったよ。今は彼らのことが本当に良く分かっているからね。元々彼らとは、サード・マンで行なった様々なセッションに参加してもらうことで知り合ったんだけど、ツアーをして何度もステージで一緒にプレイしない限り、ミュージシャンの本質って分からないものなんだよ。そうやって、彼らの能力を知るんだ。特に僕らのようにセットリストなしにプレイすると、本当の意味で"ライヴ"だから、それが如実に伝わってくる。ポップ・シンガーがバック・バンドを雇って、毎晩同じセットのライヴをやってアルバムを再現するのとは、わけが違うんだよ。それって本当の意味で"プレイ"することには当たらない。自分の背後でウェディング・バンドが演奏しているようなものさ。だから僕の場合、彼らと毎晩一緒にプレイして理解を深めて"ああ、あの曲のこの部分には彼にヴォーカル・ハーモニーを加えてもらうのがいいな"とか、分かるんだよ。
-今回はそもそも19歳の時に書いたストーリーの数々がアルバムの出発点になったそうですが、どんなところに惹かれたのですか?
昔書いた文章を読んで、僕は自分の若い頃のことをあれこれ考え始めて、今の人生体験豊富な自分に当時のまだ未熟な自分は何を伝えてくれるのか、もしくは、昔の自分の作品をいかにして何か新しいものに転化できるのか、掘り下げてみたくなったんだよ。日記とかはつけていなかったけど、当時の僕はたくさんの文章を書いていた。そこに登場するキャラクターを全く新しいストーリーの中に配置して、新しい命を吹き込んだんだ。そんなことが出来て、本当に面白かったよ。そうすることで、ある意味、僕自身の人生とアルバムを完全に切り離すことができるよね。元から自分とは関係ないキャラクターたちだし、しかもこれだけの時間が経過していれば、今の僕からは途方もなく遠い存在だろう?それでいて、同時に、極めて近しい存在でもある。自分と一緒に曲を書いているようなもので、本当に奇妙な感覚だったね。
-19歳の自分とのコラボレーションということですね。
その通りさ。
-それらのストーリーを書いた時のことは覚えているんですか?
ああ。でもハッキリとした記憶があるわけじゃなくて、断片的なものだね。20年後にこうして読み返して"ああ、そうだったっけ"と思い出すこともあった。でも、自分が当時どういう状況にあって、なぜそんなストーリーを書こうと思ったのか、全然覚えていないんだよね。
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