Overseas
STEREOPHONICS
2015年09月号掲載
Writer 赤尾 美香
"今でもアルバムをアナログ盤で考えるんだ。これがサイド1(A面)の幕を開ける1曲目なんだ!ってね。そういうふうに育ったってことだよ。カセットとアナログ盤でね。曲順も、自分にとってはいつもとても大切なことだった。『(What's The Story) Morning Glory?』(OASISの2ndアルバム)の曲順は本当に素晴らしかった。かっこいいオープニング曲があって、それからシングル曲がたくさん。『Word Gets Around』(STEREOPHONICSが1997年に発表したデビュー作)は、あれをテンプレートにしたようなものだよ。それ以降もずっとね"と語るのは、STEREOPHONICSのフロントマンであり、作詞作曲はもとより最近ではプロデュースも手掛ける、Kelly Jones(Vo/Gt)だ。
今や、大勢の人にとって音楽はコンピュータやスマホで聴くものになってきている。が、我々のようなひと昔前の世代の人間にとっては、CDよりさらに以前、アナログ盤のA面/B面という感覚は、やはり捨てきれないもの。アルバム1枚を通して完成する世界に浸って遊ぶ楽しさは格別だ。片面5~6曲で、ひと息ついて、盤をひっくり返して後半の5~6曲という時間的な流れや間合いまでも計算のうえで録音されたアナログ盤を聴くと、作り手の息づかいや呼吸に自分のそれが共鳴する瞬間が訪れたりして、スリリングでもある。Kellyもそんな楽しみ方を知っていて、それが忘れられないひとり。時代遅れ? かもしれない。けれど、時代に遅れていたとしても、自分がいいと思うやり方が機能しているうちは、それを守る。決して"古きを死守せよ!"と意固地になるわけではない。が、周囲に惑わされず自分のよかれを貫く姿勢。それは、STEREOPHONICSというバンドが20年近くも活動を続けて来られた原動力でもあるはずだ。
遡ること1997年の始め。BLURのDamon Albarn(Vo)が"ブリット・ポップは死んだ"と発言して、おおいに話題になった。数年前より隆盛を極めたブリット・ポップ・ブームだったが、それを牽引したBLUR自身がこの時期に発表した新作はアメリカン・オルタナティヴな内容に大きくシフトしていた。STEREOPHONICSのデビューは、そんなころだった。しかも彼らは、ブームの熱気が冷めていようがなんだろうが知ったことではなく、無頓着に"自分たちのロック"を鳴らした。その姿はあまりにも鮮烈で、私は、寝ぼけた頭を思いっきり蹴飛ばされたような、そんな感覚にすら陥った。以来20年近くもの間、彼らはシーンの第一線で"自分たちのロック"を鳴らし続けている。
1999年~2007年まで、アルバム5作品を連続で全英1位に送り込むという快挙は、STEREOPHONICSの名をTHE BEATLES、LED ZEPPELIN、U2やOASISらと共に語らせるに十分だし、過去には2日間で14万人を動員する野外ライヴを敢行、また2008年発表のベスト盤『Decade In The Sun』は今日までに120万枚を売り上げるベストセラーになっており、最近の全英ツアーでも各地のアリーナをソールド・アウトにしている。いわば、イギリスにおけるSTEREOPHONICSは、押しも押されぬ国民的バンドのひとつ、なのだ。
が、もちろんここまでの道のりは必ずしも順風満帆だったわけではない。とりわけ、KellyとRichard Jones(Ba)のふたりと共に、南ウェールズの田舎町で生まれ育ち小学生のころにバンドを結成した仲間、Stuart Cable (Dr)が、アルコールやドラッグ癖を克服できずバンドを脱退したときは、結束堅かったトリオを知っている多くのファンの頭に"まさか......解散!?"の思いがよぎった。けれど、それでもバンドは立ち止まることをせず、ただただ前に進むことを考え、実行した(Stuartは脱退から数年後、自宅にて死亡している)。
何かに突き動かされるようにして前進を続ける彼らのモチベーションの高さは、作品の充実にも表れている。2005年発表の『Language.Sex.Violence.Other?』や、デビュー10周年となった2007年発表の『Pull The Pin』は、様々な音楽に触れながら自らの音を創り出す技を磨いてきたKellyのソングライティングの才能、新メンバーを迎えて体勢を整えたことによる安定感ある演奏、失われることのない瑞々しい勢いや、Kellyの歌心といったすべてが理想的にミックスされ、バンド成熟期にふさわしい内容だった。STEREOPHONICSといえば、作品ごとにそのテイストや風合いを変えることでも知られており、初期の瑞々しくエッジの効いた疾走ロックから、米南部に思いを馳せたソウルフルなロック、はたまた、ロマンチシズムとダイナミズムの両方を備えた深淵なるメロディアス・ロックなどなど、その引き出しの多さと活用の仕方にはいつだって唸らされた。軽々と新しいチャレンジに臨む彼らを支えるのは、結局のところ自分を信じる気持ち、自分のよかれを信じる気持ちなのだろうと思う。そんなことを、また、強く感じながら、約2年ぶりとなる新作『Keep The Village Alive』を聴いている。
颯爽と滑り出すオープニング曲「C'est La Vie」の軽やかなポップ感が新鮮に響く。Kelly言うところの、"かっこいいオープニング曲"。なるほど、納得だ。STEREOPHONICSらしいソウルフルなテイストが表出したTrack.3「Sing Little Sister」やTrack.8「Sunny」(終盤のエキセントリックなギター・ソロは一聴以上の価値あり!)、Track.5「Song For The Summer」やTrack.7「My Hero」のようなビター・スウィートな麗しいメロディのバラードも、Kellyは得意にしている。本編は全10曲、時間にして約40分。当初は2枚組になるくらい曲数もあったそうだが、"2枚組アルバムは70年代に廃れてしまったからね"と、ここは冷静に時代を見据えた。10曲に凝縮された今のSTEREOPHONICSは、気負いなく、あるがままの姿でそこにいて、自分たちが気持ちよいと思える音を自然体で鳴らしている。これまでにないほどの清々しさや、穏やかさが聴く者の中にスムーズに染み渡るのだ。ラストを飾るのは本作中唯一の長尺曲(6分超え)「Mr And Mrs Smith」だが、これもまた長尺曲にありがちなディープなグルーヴとは無縁、清涼感あるソフトな出だしから、徐々に音やリズムの仲間を増やして大きな輪を描いて行く、そんな明るくポジティヴなムードで締めくくってくれる。
そろそろ夏も終わりに向かおうかという、ある夕暮れどき。『Keep The Village Alive』をかけながら、私は、ガラガラの高速道路で車を走らせていた。Track.4「I Wanna Get Lost With You」の、哀感がにじむサビにさしかかったとき、空に浮かんだ入道雲の流れとメロディとリズムが、目の前で完全に一致した。とてつもなく魅惑的な瞬間だった。この曲は、アルバム制作の終盤にふとできあがり、ちゃっかり収まったものだそうだ。
"自分で自分に溺れてみたり、自分を見失うほど誰かに夢中になりたいという思い、それをただ文字通り実行した曲じゃないかな"、そして"(曲ができあがるまでの)一連の流れが起こっていた間は、かなり感情に支配された24時間だった。変な話、アルバムのミキシングをしていて、翌日スタジオに入ってピアノの前に座ったら、陳腐な言い方になるけど、ひとりでにあの曲が生まれて来たんだ"とKellyは話しているが、それを可能にしたのは、Kellyが持ち続ける無垢なエモーションであることは間違いない。"自分で自分に溺れてみたり、自分を見失うほど誰かに夢中になりたいという思い"が私に見せてくれた景色は、私の中に残るほんの少しの無垢なエモーションも刺激してくれたような気がする。
STEREOPHONICS
ニュー・アルバム
『Keep The Village Alive』
[SONY MUSIC JAPAN]
NOW ON SALE
【デラックス・エディション】 2CD
SICX-4/5 ¥3,200(税別)
amazon | TOWER RECORDS | HMV
【通常盤】 CD
SICX-6 ¥2,400(税別)
amazon | TOWER RECORDS | HMV
[CD1]
1. C'est La Vie
2. White Lies
3. Sing Little Sister
4. I Wanna Get Lost With You
5. Song For The Summer
6. Fight Or Flight
7. My Hero
8. Sunny
9. Into The World
10. Mr And Mrs Smith
1 1. C'est La Vie (Live From The Royal Albert Hall)※
12. My Own Worst Enemy (Stripped 2015)※
※日本盤ボーナス・トラック
[CD2] ※デラックス・エディションのみ
1. Ancient Rome
2. Let Me In
3. Blame (You Never Give Me Your Money)
4. You Are My Energy
5. You're My Star (Acoustic 2015)
6. I Wanna Get Lost With You (Acoustic 2015)
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