Japanese
チャットモンチー
Skream! マガジン 2018年08月号掲載
2018.07.04 @日本武道館
Writer 石角 友香
少なくとも自分が直接知りうる表現者、ある仕事のプロフェッショナルとして、ここまで完璧な"完結"を果たした存在を、私は他に知らない。それぐらい、チャットモンチーという、いちアーティストとしての"在り方"に対するメンバーとスタッフの高い理想と現実的な努力や、このバンドへのファンの想いの純度が、最後まで濁らなかったということなのだろう。感傷や振り返りとは一切無縁の、最後まで"今日が一番新しい"チャットモンチーを証明してくれた。


メンバーより少し若い世代の女性ファンが多かったものの、ほかにも男性同士やカップル、若い夫婦など、老若男女様々なファンが集まり、武道館のステージ裏までぎっしり埋め尽くしていた。バンドとともに年齢を重ねてきたファンの表情からはあまり悲壮感は窺えない。開演前、左右のヴィジョンには"Every Day is your Birthday"の文字。これこそチャットモンチーが貫いてきたメッセージではないだろうか。その文字が"Chatmonchy is coming soon...!!"に変化して、程なく暗転。ステージを囲んでいた幕が上がり、そこに登場したのはバンド名を立体的に施した巨大なプレート。この瞬間、"かっこいい!"と小さく叫んでしまった。いい意味でちゃんとコントロールされた完璧なショーの前触れだ。そのプレートの真ん中が開き、まるで未来からの使者のように光の中から登場した橋本絵莉子と福岡晃子。そのままステージ背後にある花道から後方スタンドのファンに大きく手を振る。最初にお礼をしておこうという気持ちなのだろう。第1部はラスト・アルバムにして最新アルバム『誕生』の収録曲をライヴで表現していく。真っ白なステージにギターとアンプ、キーボードやシンセ、ドラム、ベースとアンプのセットがステージ床下からせり上がるように出現した瞬間、"今のチャット(チャットモンチー)が登場した"と感じ、鳥肌が立った。すべての演出に意味があり、いい緊張感が続く。登場を彩った「CHATMONCHY MECHA」に続き、ヘッドフォンを装着し、実質的な1曲目と言える「たったさっきから3000年までの話」を披露。橋本の、人として、女性として、そしてチャットモンチーのメンバーとして、最も"今"を感じるこの曲からライヴが始まったことの意味は深い。ギタリストとして音を選ぶことの大切さを実感させる「the key」の堂々とした佇まいも、音数が少なくスロー・テンポだからこそ、なおのこと胸に迫った。新作からは、DJみそしるとMCごはんを迎えた「クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん」までのブロックで一連の流れを作り出したが、緊張気味の"おみそちゃん(DJみそしるとMCごはん)"に比べ、ふたりはどこか安堵したようにも見えた。再びステージ後方の花道を練り歩きながら、いろんな食べ物をフリースタイルに交ぜ込み、楽曲で描かれている女性の成長物語をユーモラスにライヴで膨らませていく。ラスト・アルバムに他のアーティストを迎えるというのもチャットにとっては自然な流れなのだろう。むしろ、上京したての感覚はおみそちゃんが書いたラップ部分に託されていて、その詞が、チャットがファンひとりひとりにとっての"自分のもの"になった歴史と重なって聴こえた。


ここでまたふたりきりになって"10代のころに作った曲を"という紹介から鳴らされたのは、アコギとベースでの「惚たる蛍」。この曲のイントロが流れたときの会場のため息のようなファンの声と、さざ波のような拍手を忘れることはないだろう。続いて、「染まるよ」。3人時代のブルージーな女心を歌う切ない楽曲がファンの心の中で生き続けていることに感動した。この曲が登場してから約10年の間、メンバーはもちろん、ここにいるファンの人生にも変化があっただろう。歌と同様、橋本の言葉のように自然に鳴らされるギター、福岡の熱量を込めた力強いドラミング。この日最も素のエネルギーを体感した演奏だった。
第1部が終わると、過去のライヴやMV撮影、オフショットなどのヒストリー映像が流れたのだが、やはり登場当時のチャットモンチーは今よりも鋭くて、橋本が昔の曲でも歌えるものと歌えないものがあるというのも納得してしまった。


再び幕が上がると、白いチュールのワンピースを羽織った福岡が弦楽六重奏団を指揮するという、驚きの展開から第2部がスタートした。先ほどのバンド・セットがせり上がってくることはなく、同じく白いツーピースをまとった橋本が椅子に座り、ストリングス隊による演奏で「majority blues」を歌い始めた。ふたり体制になっても、チャットにストリングスを入れることに違和感を持っていたふたり。というか、バンド・サウンドにストリングスが入ることで何か意図することと違うスケール感が出てしまうことを嫌っていたふたりが、ストリングスのみで表現するということの意味を楽しめた。メロディと歌と言葉が生きるアレンジであれば、チャットモンチーはチャットモンチーである。特に、マジョリティもマイノリティもどっちも自分の中にあるし、どっちも欲しいと歌うこの曲は個人的に最上の組み合わせだと感じられた。さらに、パーカッションやウィンドチャイムを加えた「ウィークエンドのまぼろし」や、橋本のアコギから入った「例えば、」と、ストリングとのアンサンブルを豊かに響かせていく。その後、"チャットモンチー・アンサンブル"と名付けられたストリングス隊のメンバー紹介と、その場でひとりひとりにニックネームを付ける場面では、先日ラジオでファンから公募した漫才のネタを披露したトーク・スキル(?)が功を奏したような、そもそも"その発想はどこから?"的な橋本のひらめきが大いに発揮され、ラスト・ワンマンとは思えない笑いの多いステージが進行していく。ストリングス・アレンジを担当した世武裕子も会場にいるところをカメラで抜かれ、大きな拍手が送られていた。


その後、再びバンド・セット(しかし先ほどとは違うセット)が登場。その緑のドラムセットだけで、次に登場する人が誰だかわかる人にはわかったであろう。その想像どおり、恒岡 章(Hi-STANDARD)が呼び込まれ、ストリングスの飛翔するようなアンサンブルとパワフルなバンド・サウンドが融合し加速する「東京ハチミツオーケストラ」を届けた。そのアレンジが、現時点の理想形として完成していたのも感慨深い。
「さよならGood bye」からは、3ピースでオルタナティヴなチャットモンチーのサウンド・センスを存分に味わうことができた。選び抜いたであろうセットリストで、シンプル且つ太いアンサンブルを展開していく。そして、本編ラストにはチャットモンチー・アンサンブルも加わり、デビュー曲である「ハナノユメ」を披露。これほど日常の中で生きていることを不意打ちのように自覚させられる曲があっただろうか、と未だに思う。自分はとても弱くて強い。何度、"なんのこれしき"と思いながら、一歩前に進んできただろうか。チャットモンチーとはバンドであり、ファンも含めたライフスタイルのロールモデルでもあったのだ。本編ラストにこれ以外ない選曲で、改めて初心を心に刻んで感謝を送り合うステージ上のメンバーとファン。この時点ではまだ、チャットのふたりの表情に緊張感の残る様子が見て取れた。
アンコールの拍手が波のように続くなか、存外早く恒岡を含み再登場。間髪いれずに四つ打ちでドラムのキックが力強く鳴らされる。それを聴いたファンたちの歓喜の悲鳴に包まれ、フューシャ・ピンクの明かりに照らされるなか、飛ばされた銀テープのきらめきが混ざって、「シャングリラ」をカラフルに彩る。続く「風吹けば恋」のアンサンブルでは、今のセンスで抜群の掛け合いを見せた。今頃になって、3ピースのチャットモンチー(ドラムは恒岡だが)の最高さを噛みしめる。


これまでの時間、楽しいMC以外してこなかったふたりが、ステージの前方に腰掛け、素直な気持ちを話し始めた。"実際、どんな気持ちになるかわからんかったけど、こんなに喋れんくなるとは思わんかったわ"と福岡。涙を溢れさせている福岡に"大丈夫?"と橋本が声を掛ける。客席からはふたりの名前や感謝の言葉がそこここから上がり、"チャットのお客さんは面白くて優しい人が多い。お客さんってバンドを映す鏡って言うけど、そういうことなんかなって"と橋本が言って笑いを取ると、福岡が"鏡っていうだけあってすごい根性でついてきてくれた"と、ファンへの感謝を述べる。さらに"初めてコピーしたの、チャット!"という声が上がり、"みんな歌ってな! コピバンしてな!"と、福岡が返す。そのときは次世代のバトンを渡すとか、そういう意識ではなかったのだろう。でも、チャットモンチーのメンバーでチャットモンチーの曲を聴くことがもうないのかもしれないと思うと、少し切なくなった。
正真正銘のラスト・ナンバーが、福岡の弾くピアノに乗せての「サラバ青春」だったことは、歌詞の内容もさることながら、チャットモンチーがみんなのものになって、これからも人生の端々できっと力になることを暗に意味していた。そして、新曲「砂鉄」も含め、ステージにはいないけれど、高橋久美子の作詞家としての強さや、チャットモンチーをチャットモンチーたらしめた人気曲の歌詞の多さを思うと、彼女の信念もこの場にいたように思えた。さぁ、ここまで真剣に"完結"を作品化したチャットモンチーの強力な意志を自分はどう受け止めて生きていこうか、と少々大げさなぐらい強く記憶した。今できるチャットへの感謝の表し方はそれしかないと思うから。



[Setlist]
■第1部
1. CHATMONCHY MECHA
2. たったさっきから3000年までの話
3. the key
4. 裸足の街のスター
5. 砂鉄
6. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
7. 惚たる蛍
8. 染まるよ
■第2部
9. majority blues
10. ウィークエンドのまぼろし
11. 例えば、
12. 東京ハチミツオーケストラ
13. さよならGood bye
14. どなる、でんわ、どしゃぶり
15. Last Love Letter
16. 真夜中遊園地
17. ハナノユメ
<ENCORE>
1. シャングリラ
2. 風吹けば恋
3. サラバ青春
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