Japanese
チャットモンチー
Skream! マガジン 2015年12月号掲載
2015.11.11 @日本武道館
Writer 石角 友香
アンコールでファンから武道館公演を"毎年やってー!"とリクエストされ、"無理無理! 心臓なくなってしまうやん!"と断った橋本絵莉子(Gt/Vo/Dr)を見て、そこまで緊張していたのか!?と驚いたぐらい、10年という歳月を経た今のチャットモンチーは包容力を持った強いバンドになったことを思い知るライヴだった。入場し、円形をイメージした基本舞台、そしてサポート・メンバーが立つスペースが白い台でバースデーケーキのようなステージの作りに、自ずとテンションが上がる。会場を見渡すと、チャットに憧れと共感を寄せ、共に時間を重ねてきた20代の男女のファン、中には小学生ぐらいの子供を連れたママ・ファンもいて、10年という時間を改めて実感。大会場の記念すべきライヴだが、開演前の空気が穏やかなのは、まさにチャットモンチーとファンの関係を映している。
サポート・メンバーである恒岡章(Dr)、下村亮介(Key/Gt)、世武裕子(Pf/Syn)、北野愛子(Dr)の4人がまず登場し、ツイン・ドラムが鳴らされると、ステージ下から大きなバルーンを持ったチャットの2人がせり上がってくるというオープニングがポップでお祝い感満載。そしてふたりが定位置につき、まず演奏したのはデビュー・ミニ・アルバム『chatmonchy has come』の1曲目である「ハナノユメ」だ。6人のアンサンブルで大きくアレンジは変化したものの、メロディと"薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む"という歌詞がこみ上げさせる、"たった今生きている"感覚は、彼女たちならではのもの。チャットモンチーという無二の表現者が作ってきたものの確かさを実感する。約7年半ぶり2度目の武道館を見渡し、一度目の武道館ライヴ時のTシャツを着ているファンの姿にも感激し、福岡晃子(Ba/Cho/Dr)が"今日は10年間を振り返ってみたいです"とMC。チャット+恒岡で「親知らず」、「湯気」、そしてチャット+北野愛子で「染まるよ」、「東京ハチミツオーケストラ」と、高橋久美子在籍の3人時代のナンバーを演奏。それらの曲が世の中に登場したころの彼女たちの勢いや気負いを思い出しながらも、曲そのものが今も鮮烈な印象を持ったまま、"生きている"ことを実感する。
一旦、暗転すると橋本と福岡の2人でこの日武道館までの道すがら録音されたトークが、 "録音MC"として流される。これ、2人体制になったときのツアーで実施して、若干お客さんを引かせていたという告白も。その2015年11月11日版が終わると同時に、ステージ前方にしつらえられたサブステージが突如リフトアップして現れ、そこへ2人だけで再登場したのだ。そう、チャットの時系列で言うと、橋本、福岡の2人体制のライヴをここ武道館でやってみようという趣向だ。橋本がシンプルながら力強いドラムを叩き、アレンジ面でも意識の変化が当然あったであろう福岡のベース、そしてギター・ループでの「変身」、橋本ギター、福岡ドラムの「きらきらひかれ」は、さしずめ"ハードコア・チャットモンチー時代"と言えそうな、パワーで押すプレイが凄まじい。2人だけとあって、MCも普段の会話のよう。"10年いろいろありましたけど、大きなポイントと言えば2人になったこと。羽田空港であっこちゃんが「あたし、ドラムやるわ」って言って、私がすごいびっくりしてそこらへんに聴こえるぐらい大きな声出してしまったのも、今となってはいい思い出です"と橋本。"大変なこともちょっとはあるけど、やっぱり音楽ってめっちゃ楽しいなと思う"と福岡。最悪、解散の危機もあった時期を乗り越えるというよりも、チャットモンチーであり続けたのは、もちろん彼女たちの発想の柔軟さと曲を作る才能あってのものだと思うが、簡単には言えないことだったと思うのだ、"それでも音楽って楽しいな"という言葉は。でも同時にその気持ちがあったからこそ、今こうしてふたりがここにいる。しかも壮絶な経験というより、やはりどこまでも楽しそうなのが最高だと思った。
そして個人的にはこの日の10年を追うセットリストの中でも音楽的にもエモーションの部分でも最強に揺さぶられた、乙女団(世武、北野)による「ときめき」は北野の大きなタイム感のドラム、世武の繊細にして大胆なピアニズムが、この曲の持つ、女性ならではのアンビバレンツな思いをさらに鮮やかに映し、続く「毒の花」では、転調部分での橋本の感情の篭った力強い歌唱、フィードバック・ノイズを含む音の壁に、これまでのチャットにはなかった新たなドラマ性を見て、唸ってしまった。やはり最新作は今のチャットの等身大なのだと思う。そして乙女団で披露する「Last Love Letter」は、恐らく4人の感性が一致しているのだろう。音楽的な包容力の強さは、彼女たちの人間力によるものに感じられた。一転、男陣(恒岡、下村)とは「こころとあたま」の疾走感や、「満月に吠えろ」の少しコミカルでもありつつ"満月に吠えろ この歌をとめるな"という決意が、似合いすぎるほど似合っていた。
再び6人全員での最終盤を前に福岡が"10周年はやりすぎるぐらいやった方がいいって先輩に言われて"と、この武道館公演はもちろん、さまざまな対バン・ツアー、そして地元・徳島でも"チャット商店"を"開店"したり盛りだくさんな今年を"やってよかった!"と、ファンと喜びを分かち合った。そこにツイン・ドラムが、さらにどでかい"風"を巻き起こすような「風吹けば恋」が、そして本編ラストには、最新作『共鳴』からシンセ・ストリングスも爽快な「きみがその気なら」が、彼女たち自身にも、そしてチャットモンチーと共に大人になったり歳月を過ごしてきた人も含めた、あらゆる人の"その気=本気"を後押しするように高らかに鳴らされた。正直、まだ新作の楽曲は"若い"というか、これからまだまだ変化していく可能性さえ秘めているように思える、そんな伸びしろを持っているチャットモンチーの今を6人編成で体現してくれたのだ。サポートというには余りにも尊敬と共感で結ばれているメンバー間のミュージシャンシップにも、大いに感銘を受けた。
量じゃないけど、10周年を振り返るにはまだもっとチャットの名曲が聴きたい、そんなファンの気持ちの篭ったアンコールに応えて、再びふたりだけで登場。ファンの"幸せ~!"という大きな声に"私も幸せ!"と福岡が応え、そして冒頭の橋本の"毎年、武道館? あかん! 心臓なくなってしまう!"というMCに笑いが起こる。淡々と堂々と演奏するのは当然であって、実は緊張していたことを最後に言ってしまう橋本絵莉子という人ならではのプロフェッショナリズムは、やはり誰にも真似できないんではないだろうか。さて、ふたりで演奏したのは、なんとできたてホヤホヤの新曲。2人体制時のスタイルで、橋本はループステーションでリアルタイムでギターを重ねていく。ディス・イズ・オルタナ!と心のなかで快哉を挙げたくなるナンバーで、"死ぬほどあなたを愛する時間がほしいよ"といったような内容だったと思う。この日限りのバージョンかも?という新曲をここで披露した心意気がかっこいい。そう、いつもチャットは自分たちで決めたことをやるからかっこいいのだ。そして"これからもみなさん、人生というドライブを一緒に楽しみましょう"と、「ドライブ」へ。まずは音源通りにふたりでスタートし、サビ前にサポート・メンバーも全員登場して大きな演奏へ繋がっていった様は、まさに"人生"そのもの。そもそも強い信念を持つ彼女たちではあるけれど、バンドとして女性として変化したこと、そして変わらないことの両方をこんなに自然に見せられては、ファンとしてもうかうかしていられないのだった。
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