Japanese
安斉かれん
Interviewer:山口 哲生
自身初となるアルバムを2枚同時にリリースした安斉かれん。国内外から集結した豪華コンポーザーたちと、新たな挑戦を試みた新曲を軸に構成された『ANTI HEROINE』と、既発曲にリアレンジを施しつつもヒストリカルな側面を持った『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』という、それぞれ異なったコンセプトを持った作品になっているが、そこからは、様々な音楽に貪欲にトライしていく姿はもちろん、デビューから今日に至るまでの心境の変化が垣間見える。濃密な2枚を完成させた彼女に、じっくりと話を訊いた。
-初のアルバム『ANTI HEROINE』、『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』を2枚同時にリリースされましたが、完成させた今の心境はいかがでしょうか。
『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』のほうは、デビューのときからの曲をいろいろとアレンジし直したりしながら制作したアルバムになっていて、やっぱり昔の曲が多いので、すごくエモい感じがあって。そういう自分もありつつ、『ANTI HEROINE』はまったく新しい自分というか、そういった過去を経た自分がいて。どの曲も短いスパンで作っていたので、できあがって良かったなっていう安堵感が大きいんですけど、すごく模索したというか、本当に多くのことに挑戦できたなって思ってます。
-挑戦という言葉の通り、本当にバラエティ豊かな楽曲が揃っていますよね。今回のアルバムのお話が出始めたのは、だいたいいつ頃なんですか?
去年末くらいからですかね。そこから曲を選定したり、歌詞を書き始めたりしたんですけど、最初から2枚出そうと決めていたわけではなかったんですよ。曲を作っていくごとに、これもいい! これもいい! って。でも過去の曲も入れたいし、"ANTI HEROINE"というコンセプトに入らない曲も出てきてしまったので、結局2枚になった感じでした。
-まず『ANTI HEROINE』についてお聞きしていきたいんですが、このコンセプトはどんなところから出てきたんですか?
アルバムの曲は、全曲自分視点で作っているわけじゃなくて。これはこういう人のための曲とか、これはこういうことが正義の人の曲とか、いろんな視点の主人公がいる曲が色とりどり集まっていったときに、これは"ANTI HEROINE"なんじゃないかなと思って。
-歌詞の主人公が、いわゆる清廉潔白みたいな感じの人たちばかりではないのもあって。
そのタイトルで行こうってほぼ固まりかけてきたときに、自分が一番なりたいというか、人生の中でずっと目標にしているのがドキンちゃんなんですよ。私にとってのヒロインはドキンちゃんだから、ドキンちゃんの曲を入れたいなと思って。
-それで「私はドキンちゃん」のカバーを収録したと。となると、"ANTI HEROINE"というコンセプトを掲げて作ったというよりは、とにかく自分がいいと思う曲をひたすら作り続けていった結果、このコンセプトを選んだというか。
そうですね。まだ自分の好みみたいなものが定まっていないのもあって、本当にデコボコな感じで、いい意味で情緒不安定なんですよね。上がったり下がったり、楽しそうな曲もあれば、ダウナーな曲もあって。でも、私はその全部が好きだからなと思いながら作っていたけど、最後の最後でなんとかうまくまとまったっていう感じでした。
-なるほど。でも、なぜドキンちゃんに憧れていたんですか?
ドキンちゃんってばいきんまんの下なので、悪者ではあるじゃないですか。でもドキンちゃんって菌だから、しょくぱんまんに恋をしても叶わないっていうのを自分でわかってるんですよ。なんだけど、一途に思い続ける健気さがあって。あと、ドキンちゃんの曲の歌詞を聴いて、すごくいい意味で自分中心というか。そこがかわいいなと思って。ドキンちゃんだからそれを言っても許されるところってあるじゃないですか(笑)。
-たしかに(笑)。
そういう生き方ができるのって、例えばドキンちゃんの笑顔の良さがあったりするから成り立っていたりとか。だから昔からなりたいって言ってたんです。
-カバーされるにあたって、かなりゴシックな感じにアレンジされていますが、そのイメージも最初からあったんですか?
ありました。アレンジャーの方に、ドキンちゃんなんだけど、ちょっとダークな感じで、でもそうなりすぎないようにかわいいサウンドも入れてもらいたいとか。あとは原曲(の拍子)が1、2、1、2みたいな感じなので、そこもガラッと変えたいですとか。そういうことをつらつらと話させてもらったらこの形で上げてもらえて、"これがいいです! この方向でお願いします!"って。あとから聞いたら、私がカバーをしたいと言ったのが結構納期ギリギリだったみたいで、ディレクターはホッとしてたみたいです(笑)。
-そうだったんですね(笑)。アルバムは「へゔん」から幕を開けますけど、ダークでクールな雰囲気がありますし、クワイア・コーラスも荘厳で、緊張感のある曲ですね。
最初に聴いたときに衝撃だったんです。なんか、祈るというか、天に召される感じがあって、この曲でアルバムが始まったら絶対にかっこいいなって思ったし、これを1曲目に持ってきて良かったなと思ってます。
-歌詞は安斉さんが書かれていますけども、孤独や葛藤という言葉が浮かぶものになっていて。"みんな、気付いてほしいだけ"、"ゼンブ、許してほしいだけ"、"みんな、認めてほしいだけ"という、今の世の中を切り取りながら書かれていますけども。
天に召されるようなサウンドだったので、そこからいろいろ考えていきました。人って、普段は別に信じていないかもしれないけど、"神様お願いします"って拝んだりするじゃないですか。それは神様だけじゃなくて、例えば自分の中でリスペクトしている人とか。私の場合だったら"ドキンちゃんだったらこうするかな"とか、そうやって考えてしまう対象ってあると思うんですけど、そういうものって、形は違っていても全部"神様" だなって。それを自己都合で呼んでは、拝んだりして。そういう祈りみたいなものをテーマにしました。それが決して目に見えるものじゃなくても、何かに縋りたい自分というか、それのせいにするというか。"あぁ、神様がこっちに笑ってくれなかったからできなかった"みたいな、何かのせいにしたくなるとき......みたいなことを書いています。
-そんなダークな曲から、2曲目の「ら・ら・らud・ラヴ」はソウルやモータウンのニュアンスがあって、めちゃくちゃ軽やかで、空気がガラッと変わりますね。いい意味で情緒不安定というお話もありましたけど、そういう緩急をつけようと思いながら選んだんですか?
なんか、なっちゃったって感じでしたね(笑)。自分の気分で、ここでこうしたい、ここで上げたいってやっていったらこうなっちゃったっていう。でも、たぶんこれが自分なんでしょうね。元気な日もあれば、脱力している日もあるし、もう"無"みたいな日もあって。このテンション感がすごく自分らしいと思う(笑)。
-「ら・ら・らud・ラヴ」の歌詞も、サウンドから引っ張られてきたんですか?
超キャッチーでとっても素敵な曲だなと思ったのと、デモの段階で仮の歌詞も入ってたんですよ。普段はそこから自分の歌詞に変えていくんですけど、今回は初めて共作という形にさせてもらって。2番の歌詞とかも、自分っぽいなって思うところが結構あったり。
-"流し込んだ憂鬱 二日酔いで迎える朝"とか?
これはマジで私(笑)。
-ははははははは(笑)。そうなんですね。
だから絶対に変えなかったです(笑)。歌詞を書くときに、自分すぎてしまうと恥ずかしいからちょっと変えたりしがちなんですけど、今回のような共作だと、自分っぽいところをそのまま残せるというか、恥ずかしくなくなるというか。
-サウンドも含めてポジティヴな印象があるけども、実はこういう一面もあるんですというところがしっかり出ているというか。
そうですね。そういうところも描いてもらえてましたね。
-ご自身が書いたものじゃなくても、それがいいものであればいいんじゃないかと思えるようになったところもあるんですか? 昔は自分が書かないと嫌だった、とか。
嫌だったという感じではなかったんですけど、自分だったらこういう言い回しはしないなっていうのは、もちろんあるじゃないですか。あと、自分の曲は自分で歌詞を書くのが当たり前って思っていたというか。でも今回初めてビビッときて。
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