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INTERVIEW

Japanese

大原櫻子

2022年05月号掲載

大原櫻子

Interviewer:吉羽 さおり

3月よりZeppツアー"大原櫻子 Premium Concert 2022 「For You~あなたが作る櫻子Live~」"を行ってきた大原櫻子。このツアーでいち早く披露されてきた新曲「それだけでいい」が、リリースとなる。ピアノとストリングスを基調に、リアルな体温が伝わるような等身大の言葉と歌声で綴られる温かな「それだけでいい」は、変化の多く曖昧なまま進んでいく日常に感じる心細さや、不安に、そっと寄り添う1曲になった。大原自身が歌詞を手掛けたこの曲は今伝えたい思いを大事に、丁寧に紡いだ。コロナ禍となって、歌の表現を磨き上げるだけでなく、作詞や作曲することにも挑戦している。自分の言葉を伝えること、言葉への意識が高くなったというその熱が込められたシングルとなった。

-Zeppツアー"大原櫻子 Premium Concert 2022 「For You~あなたが作る櫻子Live~」"を終えたばかりで、このツアーでは今回のシングル曲「それだけでいい」も披露されていたそうですが、どんなツアーになりましたか。

今回は、いつものバンド編成ではなくヴァイオリン(Ayasa)とピアノ(扇谷研人)との演奏だったので。自分の曲でありながら、すごく新鮮でしたね。

-バンドでの演奏とはまたひと味違ったアレンジでのライヴですね。

そうですね。アレンジをピアノの扇谷研人さんがやってくださったんですけど、原曲の世界観を崩さずに、でもこの3人だからこそのいい流れを考えながらアレンジしてくださったので、私自身もすごく楽しかったです。あとは今回、ファンのみなさんからリクエストを募ってセットリストを組む、"セトリクエスト"というのをやったんですけど。懐かしい楽曲がランキングに入っていたり、あとは逆にまったくライヴではやってこなかったアルバムの楽曲が入っていたりして、すごく面白いなと思って。一番票を集めた曲が、今までライヴでやっていなかった「Grape」(2020年リリースのアルバム『Passion』収録)という曲だったんですけど、これが1位なんだなっていう驚きもありましたね。みなさんが素直に聴きたい楽曲というのが、結果として出たんだなと思って、リクエストをやって良かったです。

-このツアーではなぜリクエストをもとにしたセットリストにしたり、いつもとは違った編成でやってみたりしようとなったんですか。

もともとこのメンバーは、2020年のビルボードライブ("大原櫻子 Premium Concert 2020「 I am not I 」")でもやっていたんです。そのとき、またやりたいねという話があって、2年越しのこのタイミングになったんですよ。前回のビルボードライブではミュージカルや英語の歌のカバーでやらせていただいて、それこそビルボードに似合う雰囲気の楽曲を歌ったんですけど。今回は2度目ということで、カバー曲も考えたんですが、この編成で自曲を歌うのも面白いんじゃないかって。コロナ禍でなかなかライヴがたくさんできなかったのもあって、今みんなが何を聴きたいのか、どんな曲を聴きたいのかを募って、それをやったほうがファンのみなさんの思いに応えられるんじゃないかなと思いました。

-では、このツアーでファンのみなさんは新曲「それだけでいい」を、リリースされるものとはまた違うアレンジで聴いているんですね。

そうですね、全然違うバージョンです。でも原曲を聴いたときにこの編成にぴったりだなというのはすごく思っていたので。

-では改めて新曲「それだけでいい」についてお聞きします。誰かを思いやる気持ちや想いが温かに描かれたバラードとなりましたが、制作はどのようにスタートしたのでしょう。

この曲はもともと小名川高弘さんがメロディを考えてくださって、そのうえで作詞に挑戦したいですと言って進めていったんです。自分でメロディと歌詞を綴るとなると、特に言葉数とかも考えなくてもいいし自由がきくなと思っているんですけど、今回はもともとメロディがあったので歌詞は苦戦しましたね。

-楽曲のプロデュースも手掛ける小名川さんとは、どんな曲をやりたいかという話はしていたんですか。

最近のアルバム『Passion』や『l(エル)』(2021年リリース)では、海外のクリエイターの方や、音作りに関しても海外で活躍をされている方とタッグを組んで制作をしていたりしたんです。それは私がひとりでニューヨークに行ってブロードウェイの舞台を観たりしていて、"もっと英語を学びたい"と英会話を習い始めるとか、アメリカの言葉や文化に触れる機会があったのがとても大きくて。そうした海外のエッセンスがある歌も歌いながら、でもやっぱり日本で日本人に対して歌を届けるなら、しっかりと日本語が聞こえやすい楽曲が胸に響きやすいんじゃないかな、というのもあって、言葉がよく聞こえるような楽曲を作りたいということは、小名川さんと共有していました。

-今回のシングルでは、「それだけでいい」と「笑顔の種」が収録されていますが。聴いたときに、ふたつの曲の内容がシンクロしている感じがあっていいなと思っていたんです。2曲の関連性というのは意識されていたんですか。

内容に関しては、今の時代に歌う意味というのは考えたところでしたね。「笑顔の種」は、高橋久美子(ex-チャットモンチー)さんが歌詞を書いてくださったんですけど、打ち合わせのときにも、今のご時世でなかなか故郷や地元に帰れない人も多いなかで、故郷はいつでも待っているよとか、何か地元を思い出すような歌を届けられたらいいんじゃないかという話があがりました。「それだけでいい」では、コロナによって、人と人との距離ができて、不安や寂しさが大きくなったり、すべての物事に対して、今まで以上のエネルギーを持って取り組まなければいけない世の中になったと感じています。疲弊した空気が漂うなかで、温かい曲で人の心が穏やかになったらいいなという思いもありました。2曲ともその意味では、今届けるというテーマがすごくリンクしているなと思います。

-伝えたい思いをシンプルにまっすぐに綴った曲になっていますが、コロナ禍となっていろいろな変化があるなかで、言葉や、それを伝えることについてなど、いろんなことを考えた時間でしたか。

そうですね。コロナ禍で、ライヴに関しても会場に足を運ぶことにフィルターがかかってしまう、ためらってしまうことも多いと思うんです。以前だったら例えば、チケットが高いからとかで行けないという人もいたと思うんですけど、今はそれだけではなくて、人がたくさん集まるところには行かない選択をする方もいると思うんです。会うことへの壁ができてしまったからこそ、会えるときの喜びや会えるときに伝えたいこと、伝えなきゃいけないことがすごく増えたし。会えることの貴重さを思って、一秒一秒を大事にしたいとなったときに、伝えたいことを歌に込めるという意味では以前よりも増したなと思いますね。

-「それだけでいい」ではメロディが先にあったことで、歌詞も苦労されたということでしたが、言葉や想いを伝えるという面ではどんなことを重視したり、また難しさを感じたりしましたか。

メロディにハメる言葉数とか、文章にするといいけれど歌ってみると表現しきれないなとか、あとはこんなことを歌いたいんだけど、シンプルすぎるからもうちょっと自分の色というか、私だからこそ生まれる言葉みたいなものはないかなって見つけることが大変でした。ひねりすぎても伝わりづらいし、まっすぐすぎてもそれはそれで軽く感じてしまうし、物語の重みというのを出すのが難しかったです。同じような意味合いでも、ちょっとした言葉の違いで感じ方が変わってくると思うんですよ。例えば、1Bの"素顔でいられる場所でありたいから"は最初、"素直でいられる場所でありたいから"だったんです。"素直"を"素顔"に変える、そのちょっとした言葉で意味合いがだいぶ変わってくるし、人との距離感が見えてきたりするんだなっていうのはありました。

-確かに、"素顔"というほうがとても近しい関係性に感じますし、安心感があるからこその言葉に聞こえますね。

そうですね。素直でいいんだよとかは人にもすっと言うけれど、素顔でいいんだよっていうのはまた違う感じが出るのかなと。

-ちなみに「それだけでいい」と「笑顔の種」は、どちらが先にできたとかはあるんですか。

同時進行でした。「笑顔の種」はもともとバラードっぽい感じだったんです。でも、小名川さんが"僕の中で思い描いているアレンジがあるから、聴いてもらっていい?"ということで、今の元気な、手拍子もできるようなテンポの感じになって。結構意外なアレンジだったんですけど、「それだけでいい」との差がすごく美しいなと思ったし、結果的に歌詞が乗ってみて、「笑顔の種」に非常に合ったものになったなって感じますね。