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INTERVIEW

Japanese

獅子志司

2022年04月号掲載

獅子志司

Interviewer:秦 理絵

人として、ミュージシャンとしての心の"揺らぎ"を飾らないまま音楽に込めた1枚になった。正体不明のボカロP/シンガー・ソングライター 獅子志司が、昨年4月にリリースした1stフル・アルバム『有夜無夜』から、約1年ぶりにリリースする1stミニ・アルバム『揺ら揺ら』だ。ジャジーなピアノが彩るロック・サウンドが主体となった前作から一転、ヒップホップやダンス・ミュージックのアプローチを取り入れた、新しい獅子志司サウンドを模索している。"ライオン・キング"から"NARUTO-ナルト-""進撃の巨人"まで自身が愛するアニメ、漫画からのインスピレーションを膨らませた世界観に、"進んでいく人"への明確なメッセージを込めたという全5曲はいかに生まれたのか。たっぷり語ってもらった。

-生まれた意味すら見いだせない絶望感と、今ならなんでもできそうな気がする無敵感の間を彷徨っている。まさに"揺ら揺ら"というタイトル通りの作品ですね。

ですね。1曲目に収録されている「鬣犬新書(読み:ハイエナシンショ)」は、"揺ら揺ら"っていうタイトルが付く前に作ってたんですよ。次に「日進月光」を作るあたりから、アルバムのタイトルを考え始めて。ゆらゆらしてるなと思ったんですよね。「鬣犬新書」はハイエナがゆらゆらと彷徨ってるイメージで、「日進月光」はロケットがゆらゆら宇宙を漂っているなっていうイメージだったんです。あ、これは"ゆらゆら"をコンセプトにしようって決めて、残りの3曲を作っていきました。

-獅子さんが生活しているなかで、自分自身の気分のゆらゆらとした浮き沈みを表現したい、という部分はあったんですか?

気分というよりも、自分の音楽ジャンルが定まらずにゆらゆらしてるというか、めっちゃ試行錯誤してるなってのを感じてたんです。このアルバムを作ってるときはずっと"獅子志司ってなんだろう?"っていうことを考えてたんですよね。

-でも、前作『有夜無夜』のインタビュー(※2021年4月号掲載)では、獅子志司ってなんだろう? っていうものを少し掴みかけた、という話をしましたよね。

あ、そうなんですよね。これが獅子志司だなっていうものはありました。

-具体的に言うと、ピアノを効果的に取り入れたバンド・サウンドに、ダークで内省的な世界観を描いていくような音楽ですよね。明るくて、キャッチーなものではなく。

うんうん。そのとおりです。だから、最初に作った「鬣犬新書」は、前作で掴んだ獅子志司らしいものをっていうので作ったんです。でも、これじゃないかも......みたいな迷いが出てきちゃって。今までの曲もすごく好きなんですよ。なんですけど、まったく同じように2作目も続けるのかって考えたら、ちょっと違うなと思っちゃって。もうちょっと新しい何かを加えたいっていう挑戦だったんです。特に「忘憂(読み:ボウレイ)」とか「らんだ」は新機軸になったと思います。

-「忘憂」とか「らんだ」はよりトラック的な作り方になっていますよね。バンド・サウンドいうよりもヒップホップに近い。

そうですね。そっちを意識した感じです。昔からダンス・ミュージックとかヒップホップはめちゃくちゃ好きなんですよね。

-制作期間はどのあたりを聴いてたんですか?

BTSさんとかですね。ゴリゴリのロックみたいなものだけじゃなくて、少しダンサブルにメロディを聴かせるものが好きだったのかなって思いながら作ってたんです。

-新機軸になった「らんだ」はダークで退廃的なサウンドに仕上がりましたね。

これは最後に作った曲です。こういう系の漫画を読んだのがきっかけなんですよ。

-こういう系というのは?

"東京卍リベンジャーズ"とか。それで反骨精神を歌いたいなと思ったんです。どっちかというと、「らんだ」は若者に向けて歌いたくて。難しい道を行こうとしてる人を応援したかったんです。周りの人に"そんなのやめときなよ"って言われるような人に向けて。でも、その道には責任も伴うんだよっていうことを伝えたかったんです。前作にも「喰らいながら」と「lielie」っていう暗い曲があるんですけど。ああいう雰囲気を残したまま、ダンサブルな感じに仕上げたいって考えたので。自分の中ではかなり挑戦した曲になりました。

-歌詞は、歌い出しの"語らおうか 誰が王か"というフレーズから引き込まれました。

イキってますよね(笑)。

-(笑)「らんだ」も、「鬣犬新書」もそうなんだけど、今回のアルバムからは世の中のヒエラルキーに対する足掻きを感じたんです。稼ぐ人、稼げない人、有名になれる人、そうじゃない人、フォロワー数が多い人、少ない人。そういう区別が明確にあって、そのうえで"誰が王か"を問い掛けている。そういう想いはあったんですか?

たしかに、あるかもしれないです。特に「鬣犬新書」は、自分がアルバイトをしてるときの感情なんです。人にいろいろな指示をされるのが本当につらかったんですよね。だったら自分のやりたいことをやって、認められるようになったほうが幸せだなって思ってしまって。今は誰かに従って......もちろん、それが苦じゃない人もいると思うんですけど、苦しいと思う人は、自分で変えてもいいんじゃないかって伝えたかったんです。

-"今は死んで下げんのさ頭/下を向いて見据えるは高台"にその想いは強く出ている。

そう、目は死んでないぞっていうことですよね。

-その感情を表現するのに"ハイエナ"という動物にしたのは、どうしてだったんですか?

最初はライオンを主人公にした曲を書こうと思ったんです。で、いろいろ調べてたら、ハイエナの社会がヒドかったんですよ。ボスと若者がいて。若者がせっかく獲ってきたものを、ボスがきたら渡さなきゃいけない。ずっと何も食べられないことがあるらしいんですね。かわいそうじゃないですか、そいつが。で、それって人間社会の上下関係にも例えられるんじゃないかなと思ったんです。

-そっか。今の話で繋がったんですけど、歌詞に"吐くな「まだだ」"というフレーズがあって、"ハクナ・マタタ"に聴こえるんですよね。これって......。

そのとおりです。"ライオン・キング"ですね。ライオンの敵役がハイエナなので。そこも歌詞に入れたいなと思ったんです。

-獅子さんにとって新機軸になったもう1曲の「忘憂」のほうは、着想のポイントはどういうところでしたか? ジャジーでオシャレな雰囲気もありますが。

リズムが跳ねる曲を作りたかったんですよ。本当はもっと和っぽくなるのかなと思ったんです。和太鼓を使って、日本の幽霊みたいなものを作ろうと思ったんですけど。オシャレにしたほうが獅子志司っぽいかなと思って、前作の『有夜無夜』の要素を入れたっていう感じでしたね。ピアノがメインだったり、ギターの音を優しくしたり。

-その経緯もあって"忘憂"と書いて、ボウレイと読むんですね。

そうです。これは病みソングですね。メンヘラっぽいというか。最初に歌っている"持って生まれてないです"がコンセプトです。思春期ってないものねだりをするじゃないですか。あの人のああいうところがいいなとか。俺にはないなとか。そういうのを、どうしたら和らげられるのかな? って考えたときに、自分は、歌を歌ってるときなんですよね。それが一番言いたかったところです。自分がやれることを頑張ってやれたら、ちゃんと人に認められるようになれるんじゃないかなって。

-獅子さんは今も"あれを持っていればなぁ"って考えることはありますか?

そうですね......もっと身長が高くて顔が良かったら、アイドルを目指したかったなとかありましたかねぇ(笑)。今は全然思わないですけど。でもやっぱり思春期のころはそういう気持ちが強くなることがありますからね。