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INTERVIEW

Japanese

じん

じん

Interviewer:秦 理絵

メディア・ミックス・プロジェクト"カゲロウプロジェクト"の生みの親として、2010年代のネット・カルチャーに革命児として登場したじんが、ついに初の全曲自身の歌唱によるミニ・アルバム『アレゴリーズ』を完成させた。2018年に"カゲロウプロジェクト"による3枚目のアルバムとしてリリースされた『メカクシティリロード』からは、4年ぶり。活動開始から10年にわたり、多くの楽曲をVOCALOIDの歌唱で発表してきたじんにとって新境地となった今作は、自身の生き様や半生をリアルに映し出すような生々しい1枚になった。念頭に"フォーク・ソング"を掲げ、これまで以上に歌とメロディを研ぎ澄ませたという今作に、じんはどんな想いを込め、そしてこの先に何を見据えるのか。話を訊いた。


"カゲロウプロジェクト"の作品は大きなプロジェクトだけど、 「後日譚」はそこから外れて野良でやってる感覚が良かったんですよね


-ついにじんさんが全曲歌唱をする初めての作品が完成しましたね。

スッと出てきましたね。

-あ、そうなんですか。

作ること自体は大変だったんですけど。できるべくしてできたというか。当然な感じで実現してくれたなぁという感じがします。

-今までも何度かじんさんは自身の歌唱による作品を作るのでは? というタイミングがあったと思うんですけど、今回そこに踏み切れたきっかけはなんだったんでしょう。

ここに至るまでの10年間ぐらいは他のアーティストさんへの楽曲提供とか、VOCALOIDを使ったプロジェクトとか、文筆業とかをやってきたんですけど。去年の7月に"アルファポリス"さんのTV CMの楽曲制作をしたんですね。

-「後日譚」ですね。

はい。"アルファポリス"は電子書籍サイトでもあり、ユーザーさんが自分の作品を投稿できるっていうサイトなんです。そのテーマ・ソングをぜひっていう感じでご依頼をいただいて。"誰が歌うんだろうなぁ?"と思いながら、とりあえずイメージが湧いた曲を送ったんです。僕が仮歌でラララみたいな感じで入れてたんですけど、それが良かったらしくて。"自分で歌ってみますか?"みたいなことを周りの人たちに言われたんです。でもそうなると、ちょっと考えさせてくださいってなるじゃないですか。

-ええ。よりパーソナルなものになりますもんね。

そう。それで、もっと歌詞を掘り下げて作ろうっていうことになっていったんです。文筆家である自分と、なぜ、こんなことをしているんだったっけ? という気持ちを大事にしながら書いていきたいなって。それがスルッとできあがったんです。しっかり考えたものですけど、作り直しがなかった。スタッフのみなさんも受け入れてくれたし、母親とか妹とか自分の人生に関わる人たちも"いいね"って言ってくれたんです。

-じんさんは、毎回、楽曲ができたら家族に聴かせるんですか?

妹に渡すと両親にリークされるんです(笑)。そういう後押しもあって、自分で歌う流れになっていきましたね。今までは緻密にものを作りたいっていうか、しっかりとそこに箱庭を作って、そこにいったい何を入れたいのか? って考えるのが僕のやりたいことだったんです。

-世界観を丁寧に構築してくような曲作りだった。

そう。だから自分の気持ちをそのまま出すみたいなことって、あんまりやってこなかったんです。そういうことは向いてないと思ってた。おっしゃるとおり、今までも何回か自分で歌ってみるかっていう話はあったんですけど、なかなか実現しなかったんです。それは僕が歌いたくないってワガママではなくて、流れが噛み合わなかったというか。

-単純にタイミングがなかった?

そうそうそう。それが今回は逆にすべてが噛み合って。そこから一曲一曲作っていった感じですね。で、どういうアルバムにするかっていうときに、「後日譚」を書いてたときの自分っていうのが非常に良かったんですよね。四畳半で書いてるというか。"カゲロウプロジェクト"の作品って、本当に大きなプロジェクトになってるという感覚があるんですけど、そこから外れて野良でやってる感覚が自分の中でハマったんです。11年目にしてデビュー作というか。最初からこういうものを知ってるかのように作っていけたんです。

-もともと2018年に発表したアルバム『メカクシティリロード』の次の動きとして、"カゲロウプロジェクト"の続編を作りたいという想いはなかったんですか?

いや、これからも"カゲロウプロジェクト"をやりたい気持ちはあります。ただ、単純に大きい作品になってしまったがゆえに、アーティストとして運転できる範疇をとうに超えているところがあったんです。僕が本を書いたり、音楽を作ったり、指標を立ててやってるプロジェクトではあるんですけど、その中にいろいろな方が参画していて。なんとかこれを運転しなきゃって考えているところで「後日譚」ができて、スポンと抜けた感じがあったんですよ。"カゲロウプロジェクト"はやれるときにやればいい。僕はそれだけをやってる人間ではないので。こういう経験の先に、また新しい価値のあるものを作れるようになったらいいなって思うようになっていったんです。

-じんさん自身にはいつか自分で歌うという想いもあったんですか?

やっぱり浮かんでは消えるものというか。"これは人に歌わせられないな"とか、"VOCALOIDで歌うと死ぬ曲だな"とかってアイディアがふっと浮かぶときに、自分で歌うしかないじゃんというのはあったんですけど。例えば、僕は文筆をすること......小説を書いたりとか、脚本を書いたりっていうのを今もさせてもらってるんですけど、あれもあれで実演表現なんですね。歌うことに匹敵するぐらい自分の細かいニュアンスを描き切るっていうことなので、そんなに境がないんです。

-"歌うこと"と"書くこと"が似たアウトプットなんですね。

そうそう。どっちかっていうと、曲を作ることよりも、歌うことのほうが文筆業とは似てるなって印象が自分の中にはあるんですよ。それもあって文筆のほうに力を込めたいっていうのはあったんですけど。今回"歌うぞ"ってなったからには、自分の中で胸を張れるものにしたいという強い意思で作ったものではありますね。

-自分の歌とはどんなふうに向き合ったんですか?

わりと自分は弾き語りが好きでやるんです。配信をしたり。特にこの5年間ぐらいはアコースティック・ギターを弾くことに特別な意味を感じ始めていて。昔はエレキ・ギターを使って、VOCALOIDを作るっていうスタンスだったんです。もともとロック・バンドが好きですし。でも、今アコギがしっくりくるのはなんでだろう? って考えたときに気づきがあって。今回の『アレゴリーズ』っていう短編集は自分の中ではフォーク・ロックなんですよ。フォーク・ソングにはすごく魂が乗っている、呪われている音楽ジャンルだと思っていて。人生が表れてしまうものなんですよね。中島みゆきさんとかもそうですけど。「悲しくてやりきれない」(ザ・フォーク・クルセダーズ)とか。僕は北海道の田舎の生まれで......。

-利尻島ですね。

はい。そこでフォークを聴いて凄まじい実演だなと思ってたんです。音のボリュームはメタルとかハード・ロックとかラウドなものには適わないですけど、呪いの量がめちゃくちゃデカい。最近改めてTULIPとかを聴いたときに、メロディとアコースティックっていうスタイルに、自分がカチンと符合した瞬間があったんです。あ、僕はフォークをやりたいんだなって。それはアコースティック・ギターを弾いて、スリーフィンガーでやってればいいわけじゃなくて、歌詞で何を選んで叫んでるものなのかが大事というか。そういう意味で、今回の『アレゴリーズ』は、僕にとってのフォークっていうところまでこられたんじゃないかなと思ってます。

-だから『アレゴリーズ』はフォークの思想が軸だけど、いわゆるサウンド的に昭和フォークっぽい古さはないし、いろいろなアプローチの楽曲も入ってるわけですね。

僕はフォークっていうもの自体を古いものと思ってないですからね。人間としての旋律を指しているものというか。加藤登紀子さんの生き様の音楽もそうですし。

-「後日譚」のあとに、『アレゴリーズ』の本編には収録されていない「GURU」という曲が発表されて。特にこの曲はフォーク・ロックの意識が強そうだなと思いました。

「後日譚」がきっかけで、作ったものをポンと出すっていう創作の在り方でやりたい欲求が生まれ始めたんですよ。今まで作り込む創作ばっかりしてきたんですけど、今日作ったものをポコッと明日出す、みたいな。「GURU」はそういう感じで作った曲です。あれもフォークですね。めちゃめちゃな歌詞なんですけど。僕の中では文芸をやったつもりなんです。"BAKAし BAKAされてりゃ"とローマ字で書くっていう。

-古典的な言葉をあえてローマ字で書くおかしみ、というか。

そう、あとはBメロの"オエオ"しか言わないところは顔文字ですしね(歌詞カードには"(o-e-o)(o-e-o)(o-e-o)"と表記される)。僕的には動画文化の中での文芸でありたいなっていうことの一節ではあったんです。

-この曲は新しい音声合成ソフト"可不(KAFU)"を使っての制作だったそうですけど、そのあたりはいかがでしたか?

前回のアルバムは初音ミクをたくさん使わせていただいたんですけど、僕は別にこれだけしか使わないぞ、みたいなこだわりはなくて。純粋に"可不(KAFU)"がいいなと思える気分だったんですよね。いろいろな挑戦をできるのが楽しかったです。かつて僕が使ってたソフト以上に、歌わせたときに僕のイメージに近いかたちになるんですよ。ド頭から聴きにくい造語を使ってみるとか、ラップまではいかないけど、歌いまわしが激しいところまでうまくいってくれる。これは"可不(KAFU)"だからできたことじゃないかなと思います。

-アニメイト完全数量生産限定盤には、じんさん歌唱の「GURU」も収録してますし、本編に入っていてもおかしくない曲ですけど、あえて外した理由はあるんですか?

単純に「GURU」はアルバムの曲のだいたいができあがったあとにできた曲なんです。順番で言うと、一番新しい曲が「消えろ」で、その前が「GURU」で。そう考えるとアルバムの中でも「消えろ」だけ違う感じにはなってますね。