Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

じん

じん

Interviewer:秦 理絵

-これまでのじんさんの創作は、VOCALOIDっていうある種のペルソナ的な存在を立てて、世界観を緻密に作り込んできたと思うんですね。でも、今はより自分の生き様に近いものを自分で歌うことになっている。そこにご自身の音楽人生における断絶はないですか? それとも、地続きなものとして捉えているのか。

僕の中では変わらず同じものですね。例えば、今回『アレゴリーズ』で目指した美学はあるけれど、同時に"カゲロウプロジェクト"も正解だと思える自分はやっぱりいるんです。......なんて言うんですかね。「FREAKS」っていう曲は"太陽に憧れる恐竜"みたいなのがテーマの曲なんです。この曲はすごく好きな曲で。

-"僕は憧れる 「あの太陽みたいな 人気者になりたいんだ」と"と歌っている曲ですね。

そう。僕がなんでこの曲を気に入ってるかっていうと、"輝き続ける嘘の 向こう側まで"行こうって歌ってて、嘘をつくことを覚悟する曲なんです。この曲を書いたうえで、「後日譚」で"書き残したものは/他に在ったか"っていうのが、このアルバムで言いたかったことなんですね。

-というと?

この「FREAKS」っていうのは創作家の気持ちなんですよ。太陽になりたいんだって思いながらやってきて、でも僕は見世物小屋で玉乗りをしている不細工な怪獣でしかないじゃないかっていう想いもある。あぁ、太陽にはなれないって思う曲でもある。歌詞に出てくる"輝き続ける嘘"って、太陽のことなんです。あんな無敵な太陽なんか、この世にあるわけないじゃんっていう。誰かが本気で嘘をついて光ってるんだっていうものに気づいた曲でもあって。そういう気持ちを書き切れたからこそ、このアルバムに入れたんです。で、"カゲロウプロジェクト"が、僕の中でそういうものだったんですね。"輝き続ける嘘"なんですよ。だから、"カゲロウプロジェクト"と、今の自分っていうのは真逆の位置のようにいながら同じものも狙っている。矛盾しないんです。ちょっとややこしいことを言っちゃったんですけど、"地続きであるか?"と言われると、どちらも僕の中から自然と出てくるものではあるっていう。何も失っていないし、変わってもいない。だから『アレゴリーズ』を作ることで、"カゲロウプロジェクト"っていいじゃんって、より強く信じることができるようにもなってるんです。

-じんさんの中では表現の選択肢が増えた感覚なんですね。

そうです。このことを歌うにはこういうものって選んでいるだけ。今回は僕が歌わせていただく。これで伝わることがあるかもしれないっていう感じです。

-今回のアルバムは全編を通して、例えば、創作家の痛みとか葛藤みたいなものを表現したいというような気持ちはありましたか?

たしかにその側面はあるかもしれないなって、今質問されて思いました。これは不思議な構造のアルバムなんですよ。「後日譚」に登場している"ものを書く人"がいて、その人が「消えろ」、「ZIGI」、「MERMAID」、「VANGUARD」、「FREAKS」っていう5編の短編を書いてるイメージなんですね。でもその人はペルソナではなくて、ある意味、僕の生き写しです。だから創作についてというテーマはあるんですけど、作者の苦悩より、音楽ってこう生まれる、こう作るものでしょってことを曲にした感じですかね。

-あぁ、なるほど。

「消えろ」には、死んでしまいたいとか、もう自殺をしようっていうような気持ちを書いてるんですけど。ネットで"死にたい"って検索すると、お悩み相談センターみたいな電話番号が出てくるじゃないですか。そういうときは死なないんですよね。で、なんで死なないんだろうっていう疑問があって。誰が俺を止めてるんだろうっていうのを思うと、自分なんですよ、きっと。「消えろ」はそういうテーマの曲です。今日を生きるために何人の俺を殺してきたんだろう。優しい心とか痛がりな心とかを殺して自分は生きている。これはいったいなんなんだろう? 人生とは? っていう悲しくてやりきれない気持ち。自分に対して優しくしてあげられなくてすまんというか、そんな葛藤なんです。

-わかります。

あと「VANGUARD」っていう曲は友人が亡くなったときに書いた曲だったんですよ。そのときにインターネットとかでは"早すぎる"とか、"なんで亡くなってしまったんだ、悲しい"とか、"あなたの作るものが大好きでした"とかみんなが言ってるんですけど、めちゃくちゃ気持ち悪くて。なんでそれを生きてるうちに言わなかったの? って。

-その方も創作活動をされている方だったんですね?

そう。生前に"好き"って言ってあげればよかったじゃんって思うんです。ライヴに行ってればよかったじゃん。別に行ってなかったじゃんって。なんでドラマにしようとするんだ? っていう気持ちで作ったんです。音楽ってそういうことだと思うんですよ。"本当はみんなこういうことを思ってるんじゃないの?"ってことを歌うべきだなと。"こんなことを思ってるのは俺だけか?"ということの確認作業なんじゃないかなって。そういう意味で、『アレゴリーズ』には、自分が音楽を作る原初にあったときの気持ちに立ち返った曲が入ってるんです。だから作家の人生というよりも、自分の人生なのかな。誰も言わないから書いたっていう曲。みんなもう恋愛の曲は書かなくていいよって思いながら作ってたところはありましたね。ラヴ・ソング多すぎるじゃん、みたいな(笑)。

-「VANGUARD」は、根底にはそういった想いがありつつ、歌詞的には"君が死んだって聞いて 旅に出た"で始まる物語のような曲ですよね。

うん。これは葬式に向かっていく曲です。昔、ゲルの民族のドキュメンタリーで見たんですけど。遠くに嫁いでいった人の葬式に部族で向かうんです。めちゃくちゃ遠いんですよ。家財道具とかを一緒に運びながら、死ぬかもしれないっていう極寒の中で向かう。それぐらい葬式が大事なんですけど。それがモチーフになっていて。

-だからサウンドもエキゾチックな仕上がりになっている。

そうなんです。

-アレンジャーにはeijun(菅波栄純/THE BACK HORN/Gt)さんがクレジットされていますね。じんさんのルーツを語るうえで欠かせない存在だと思いますけど、どういった経緯でお願いすることになったんですか?

大ファンなんですよ。eijunさんは僕の中で間違いなく世界一のロック・スターです。以前、"LISTENERS リスナーズ"ってアニメの、「Into the blue's」という曲でご一緒したんですけど、あれはロックなサウンドじゃないですか。あの人は本当にガレージ・ロックのギタリストなんですけど、トラックを作ることに関してのキレ味もすごく感じていて。自分のメロディに力を貸してもらいたいっていうことでお願いしました。

-eijunさんとの制作はどんなふうに進んでいったんですか?

デモ・ソングを渡して、こういう感じでやってもらえませんか? っていうやりとりをしながら作っていきましたね。自分のイメージを伝えたときに、eijunさんが"めちゃくちゃわかる、いい曲だね"って言ってくださって。僕の考えてることを拾って音にしてくれたんだろうなと思いました。こうやって編曲をお願いすることもそうですけど、変に自分ひとりで作るこだわりがないのも、自分の中でやるべきことがはっきりしてるんだなっていう発見でしたね。結局、メロディと歌詞が一番大事だなって。

-今後のじんさんはより歌を突き詰めていくことになりそうですね。

そうですね。いいメロディがいい歌になる瞬間があると思うんですよ。悲しいときに、悲しいメロディが正しいとは限らない。悲しい気持ちなのに明るいメロディのほうが悲しくてやりきれなくなる。それが泣けるんですよ。そういう"これこそ歌よ"って突き詰め方をしていくことになるのかなって気はしてます。

-さっき"(世の中に)ラヴ・ソングが多すぎる"とおっしゃってましたけど、「MERMAID」はカテゴライズすると、ラヴ・ソングと呼ばれるかなと思いました。

あ、そうですね。これは新婚旅行に行く飛行機が海に墜落してしまうっていう曲なんです。どんどん身体は腐って、ボロボロになって溶けて水になっていくっていう曲です。なんでこれを書いたかというと、恋人とか夫婦とか友人とか、お互いに好きって感情が最高潮のときって、ゆくゆくはお互いの嫌なところが見えてくるなとか、冷めてくるなって気持ちもあるんですよ。それがすごく嫌だなって。じゃあ、新婚旅行とか絶頂のときに終わったら、最高のハッピーじゃない? って、それを試してみようという曲です。どちらかというと、想いよりも光景を残したかった曲というか。ショート・ムービーにしたいなっていう作り方だったので、他の曲とは違う技法でしたね。

-今作に"アレゴリーズ"というタイトルを付けたのにはどんな想いがありますか?

"アレゴリーズ"は寓話集っていう意味なんですけど。今回、ドラスティックな曲が揃った作品だなと思ったときに、タイトルは淡泊なタイトルにしたかったんです。情念を紡いでいるものではあるのに、プラスチックに閉じ込められてるのが本みたいだなというか。あんまり感情が乗ってない言葉を選びたかったんです。例えば、"世界の童話集"って説明みたいなタイトルですけど、中を開けてみると、ばあさんを食わされるじいさんの話とか、また魔女を釜で煮ているとか、仕返しにあいつの腹に石を詰めて川に突き落とそうぜみたいな話が入ってる。そういうイメージのタイトルにしたくて。だから、次は"アレゴリーズ2"ですね(笑)。

-期待してます。最後に、昨年じんさんは活動10周年を迎えましたけど、『アレゴリーズ』を経て、どんな活動をしていきたいと考えていますか?

早く次の作品を作りたいなと思っています。特に「GURU」とか「消えろ」を作ってるときの感覚を忘れないうちに、何かを出したいですね。毎月1曲ずつ公開するっていうのを1年間ぐらい続けてみようと思ってます。VOCALIIDを使ったり、自分で歌ったりもして。フル・アルバムを作ることになったら、どうなるんだろう? とも思いますし。

-10周年を迎えてなおやりたいことが湧き上がってくるって幸せなことですよね。

枯渇してる感じはないですね。あ、そうだ、ひとつ大事なことがあって。わりとロックな曲調でVOCALOIDをやりながら小説を書いてるときに、いろいろな人たちから"音楽家が小説を書くな"みたいなことを言われてきたんです。"音楽に自信がないから小説を書くんだろう"とか。ずっと認められない悔しさが20代前半にはあったんですけど。今となってはロックに影響を受けて好きとは思ってますけど、自分はロックになりたくないんですよね。もはや形骸化したロックになりたくない。じゃあ、何? っていうものを突き止めることをやりたいなと思ってます。だから本も書き続けたいです。しっかり小説も書いて、文化に残っていく作品を作っていきたいなと思ってます。