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INTERVIEW

Japanese

月蝕會議

2021年10月号掲載

月蝕會議

Member:エンドウ.(Gt) Billy(Gt) 楠瀬 タクヤ(Dr) 鳥男(Ba)

Interviewer:秦 理絵

キーワードは"コライト"だ。全員が音楽プロデューサーであるという異色の音楽ギルド、月蝕會議。メンバーは、エンドウ.、Billy、楠瀬タクヤ、鳥男といった、幅広い音楽知識と演奏スキルを持った4名を中心に、非常勤メンバーの岩田アッチュ、歌唱担当のキリンで構成される彼らは、共同による楽曲制作によって様々なコンテンツ、アーティストへの楽曲提供を行っている。そんな月蝕會議の仕事を総括する"議事録"シリーズの最新作『月蝕會議2019・2020年度議事録』が10月20日にリリースされる。昨年、会員との楽曲制作を目的とする自身のオンラインサロン"月蝕會議室"を立ち上げたことで、前作以上にオリジナル曲も多く含む今作は、楽曲制作そのものをエンターテイメントと呼ぶ彼らの"ふたつの顔"が融合した1枚になった。

-2017年の始動以降、毎年出していた"議事録"ですけども、今回は2年ぶりのリリースになりました。やはりコロナの影響が大きかったでしょうか?

エンドウ.:自分たちではあんまり意識してなかったんですけど、言われてみて(コロナの影響も)あるな、と思いました。常に制作をして、楽曲提供をして、世に音楽を出してるので。今"たしかに2年ぶりだな"って気づかされた感じですね(笑)。

タクヤ:本当は毎年出せれば良かったんですけど。去年はやっぱりイレギュラーな年だったので、リアルで会う頻度が少なかったんだなぁって逆に思いますね。たぶん作ってた曲の数は同じぐらいなので、去年もミニ(アルバム)を作れるぐらいの曲数はあったと思うんですけど。見えないノッキングというか、コロナの影響で止まってしまった空虚な時間もあったんだろうなって思います。

Billy:コロナがなければ、ライヴとセットで出せただろうなっていうのもあったんですよ。そのぶん今は2年分の熱量をお届けできるのかなと思います。

鳥男:この期間の時間の進むスピードが半端なく速かったのかなって思ってるんです。だから、ここで一度、時を止める(笑)。しっかり残すっていうかね。

-そもそも"議事録"は、月蝕會議の活動の中でどういう意味合いのものとして出そうと思ったんですか?

エンドウ.:まず、僕らは楽曲提供がすごく多いので。せっかく曲を作ってるなら、自分たちでセルフ・カバーをしてみようかっていう自然な流れだったと思いますね。

タクヤ:どの子もかわいいよねっていう。

-バラバラの場所にいる我が子をホームにまとめてみよう、というか。

エンドウ.:それ、いただきます。その表現で(笑)。そう、我が子が散らばってるから、年に1回集まろうみたいな感じです。

タクヤ:お正月に1回ね。

鳥男:あと、この形態で活動してるミュージシャンって、世界的にもいないんじゃないかなって思うんですよ。楽曲提供を中心に活動をやってて、そのセルフ・カバーを出し続けるって。それがワークスというか、自分たちの履歴書になるっていう感じですね。提供したものに味つけを変えて、例えば、自分たちで歌を入れてみたら、すごく楽しいんです。本当にこのバンドならではのかたちかもしれないですね。

-まさに楽曲提供を主とするバンドというのが月蝕會議の特徴ですけども、最初に組もうと思ったのは、どういうきっかけだったんですか?

タクヤ:発起人はエンドウ.さん。

エンドウ.:あんまり詳しく覚えてないというか(笑)。単純にこういうのをやったら、面白いんじゃないかなっていうことなんですよ。

タクヤ:コライトを取り入れたいって言ってたよね。自分の制作スタイルに。

エンドウ.:自分もGEEKSとかバンドをやっていて。それと並行して楽曲提供をして、音楽作家としても活動をしてたんですけど。もう1個、それと棲み分けできる楽しそうな活動はないかなって考えたときに、全員そういう立場の人たちが集まれば、みんなで作って、みんなで責任も分割できるし、ラクに楽しくできるな。それがじゃあ、バンドだったら、ライヴもできるから楽しいなっていうので始まったんです。

タクヤ:当時、4~5年前ですけど、クリエイター集団が脚光を浴びはじめたんですよ。作家軍団がコンテンツに紐づいて増えてきたと思うんです。そういうタイミングもあって、エンドウ.さんが考えてたのが、クリエイター集団がそのままバンドで、バック・バンドもまるごと請け負えます、みたいな。無敵やんっていう形態で。

エンドウ.:プロデューサーとかクリエイターの人たちって表に出ない人も多いですし。

-中には表に立たれる方もいらっしゃいますけどね。

タクヤ:裏方として作家をやるか、アーティストとしてやるかに分かれますよね。

エンドウ.:でも、僕らは常にバンドとしても表に出てるので。自分たちの長所はどこだろうって考えたときに、ずっとステージに出ているプロデューサーっていうところで、差別化を図れる。他にいないんじゃないかな、と思ったんです。

-全員がプロデューサーでもあり、それぞれがバンド経験も持ってるからこそ表に立つことのできるメンバーが集まった。それが月蝕會議ということですね。

タクヤ:そうですね、今も全員現役でやってますからね。エンドウ.さんのアイディアはユニークだし、先をいってると思う。

エンドウ.:特許取っといたほうがいいんじゃない(笑)?

Billy:コライトのチームを作るって、人を集めるところから大変だと思うんですよね。僕は、前に活動していたグループが一区切りという時期にKING RECORDSのプロデューサーさんと会ったことが後に月蝕會議への参加に繋がるんですが、コライトがブームになりそうなタイミングでもあったので乗っからせてもらった感じです。

-鳥男さんは、月蝕會議のアイディアを初めて聞いたとき、どう思いましたか?

鳥男:当時、僕は別のユニットをやってて。バッティングしないように顔を出さなければ、大丈夫です、みたいな話だったんです。エンドウ.さんとはすごく長い付き合いで。お互いにできることがわかっているなかで、新しい化学反応が生まれそうだなって。そういうのを欲した時期でもあったんですよね。

-こうやって全パートのメンバーが上手く集まったのもラッキーだったのかもしれないですね。

エンドウ.:そうなんですよ。いつも言うけど、ドラムがムズいから。ドラムで作家、プロデューサーをやってる人って、なかなかいないですからね。

Billy:ドラムで詞とメロディも書くってね。

タクヤ:いつもピエール中野(凛として時雨/Dr)君に羨ましがられてます(笑)。

-メンバーはこの4人以外にもいらっしゃいますよね?

エンドウ.:楽曲制作にはもうひとり非常勤の岩田アッチュ(Key)がいます。今は子育て中で離脱してますけど、メンバーなのは変わらないので。今回のアルバムでも歌ってるんです。あとはキリンっていう女性ヴォーカルがいるという感じですね。

-ここからは今回リリースされる"議事録"のことを聞かせてください。セルフ・カバーだけではなく、オリジナル曲がぐっと増えましたね。

Billy:一番大きな変化で言うと、2020年の6月からオンラインサロン("月蝕會議室")を始めたことですね。サロン会員さんには、音楽が好きな方、中にはクリエイターの方も何人かいらっしゃるので。それきっかけで、いろいろな人を巻き込むかたちで生まれた曲があって、それがオリジナル曲っていうことですね。

-"月蝕會議室"は会員の人たちと楽曲制作をすることが目的で作ったものですね。

エンドウ.:本来の目的はそういうことです。"みんなで曲を作ろうね"って。ただ、そうじゃない、見てるだけでいいっていう人も入りたいだろうから、もちろんいろんな人がいていいよねっていう感じですね。

タクヤ:ま、かなり楽曲制作の様子を垂れ流してますよね。

-曲作りの裏側ってクリエイターとしては見せたくないところもないですか? 失敗したり、行き詰ったりして進まないときもありそうですし。

タクヤ:僕らはないですね。その気持ちは。

エンドウ.:作り途中の曲もたくさん公開してますからね。昨日もキリンの歌録りを丸1日ずっと垂れ流してましたし。

-どうしてそういうことができるんでしょう?

タクヤ:そこは僕らがプロデューサーだっていうのが大きいと思うんです。判断がめっちゃ早いんですよ。間違っても、それが面白いかもね、もう1回やってみる? やってみたよね、比べたよね、こっちだね、とか。理路整然とやっていくんです。

Billy:これは前、鳥男さんが言ってたんですけど。楽曲だけじゃなくて、楽曲の制作過程がそのままエンターテイメントになる。

鳥男:うん。エンタメだと思ってやってますね。コライトは相手も楽しんで終わってほしいじゃないですか。このバンドに限らず、いろいろコライトをやったりするんですけど、"今日、最高にいい曲ができたね。楽しかったね"って終れるにようにする。これはイコール、エンタメなので。

エンドウ.:それを共有できたら、さらにいい。

Billy:"あのとき、楽しかったね"っていう思い出までも含めて、エピソードとして楽しめるっていう。

鳥男:アルバムとして完成したものを聴いて、"あ、このAメロ、突然出ちゃったね"みたいなのを思い出しながら聴いたら、ひとしおなんですよ。

-たしかにインタビューとかで、"これはサビが全然違ったんですよ"っていう話を知るだけでも、"そうなんだ!"って面白かったりします。

エンドウ.:その違ったサビを聴かせたいんですよ。

鳥男:そうそう。そこのブラック・ボックスになってるところ。どっちも聴けたら、もっと面白いんじゃないかなって。いろいろ見ていただくっていうところでは、社会科見学って言って、レコーディングにサロンのメンバーを招待して、一緒にレコーディングをしたり、見てもらったりっていうのもやってますね。

-そのサロンで最初に作ったオリジナル曲が「眞夜中サロン」だったそうですね。怪しくて不思議な世界に迷い込んでいくような曲だなと思いました。

タクヤ:怪しげな曲は好きですね、このバンド。

鳥男:ティム・バートン感というか。

Billy:これも、デモからガラッと変わってるんですけど、それもサロン会員だけが知っているんですよ。鳥男さんが最後にアレンジを変えて。

鳥男:この曲はまずエンドウ.さんがラフトラックを使って、構成をBillyさんがやったのかな。トップライン(メロディ)をタクヤさんが作って。分担でリレー方式にやってたんです。で、アッチュさんとキリンちゃんがサロンのメンバーが集めた言葉を紡いで歌詞を作っていって。僕が最終的にボンってまとめる。工場みたいな感じですね。

タクヤ:これはとても時間をかけましたね。悩み抜いて、とかじゃなくて。みんなでバトンを渡したので。月蝕會議だけでやってる普段の工程だと、3日ぐらいでいくと思うんですけど、サロン会員さんが初めて触れる音楽制作なので。"歌詞を考えよう"っていうのに、10日ぐらい時間を置いて出してもらったので。

エンドウ.:その都度インターバルを置いてね。

-歌詞の他にも、サロン会員の人たちには何を出してもらうんですか?

タクヤ:音の素材ですね。

エンドウ.:猫の鳴き声、すず虫の鳴き声。

鳥男:ミュージシャンの方はシンセサイザーとかコーラスを入れてくれたり。

Billy:映像もサロン会員が作ってくれてます。

エンドウ.:映像に関しては、制作進行もサロン会員に丸々投げてますね。

Billy:そしたら"楽器の写真ください"って逆にオーダーされてね。

エンドウ.:"ここで必要だから、各メンバーさん、楽器の写真撮って送ってください"ってオーダーされるんですよ。

Billy:"はい、わかりました"って、僕らのほうから素材を提供したりして。

-そういったコライト制作をやることによって、どんなことを感じましたか?

鳥男:僕らは、"サロン・メンバーがせっかく作ってくれてるから"っていうよりも、ちゃんとしたジャッジで作るようにしてるんですね。いろいろなデータが来ても、"あ、これは使えないね"みたいな。クオリティは担保しながら作れたので。単純に意見が増えたっていう感じですね。

タクヤ:音楽を作ることって、挑戦すれば、誰でもできることでもあるんですよ。だからこそ、"プロってすごい"って思ってもらえる部分もあるのかなって。

鳥男:(サロン会員は)我々と直でDiscordっていうSNSで繋がってるので。いつでも質問できるんです。そこで"弟子入りさせてください"って言う人もいて。自分の意志があれば、なんでもできる。良いか悪いかは判断しますけど。そのアプローチができるだけで相当すごいことかなと思いますね。

Billy:あとは実際に(サロン会員の)声が入ると、力をいただいてるなっていう気持ちにもなりますね。ひとりで作る音楽もいいんですけど、関わる人が多いほど、そのときの想いも共有できるし。サロン内には掲示板もあるんですけど、そこで楽曲を添削してみますっていうのもやってるんです。そこから自分のいつもの手癖とは違うコード進行がきたりとかして。"あ、なるほど"みたいな新しい気づきがあって。

-月蝕會議の側から"与える"だけじゃないというか。

Billy:そう、自分も刺激になってます。

-同じくサロンで作った「シュワーガール」のほうはまったく違う雰囲気になりましたね。爽やかなポップ・ナンバーですけども、どんなふうに作ったんですか?

エンドウ.:これは流行ってるネット音楽みたいなのをやってみたいなっていう。"夜好性"っていうのがあるじゃないですか。

-ヨルシカとずっと真夜中でいいのに。とYOASOBI。

エンドウ.:そういうふうに売れたいなと思って(笑)。まんまできるかはわからないけど、そういうのを意識して作ってみるのも、みんな楽しいんじゃない? っていうことですね。サロンのみんなに出してもらったメロディを組み合わせて作ってます。

タクヤ:こうやって"議事録"で集まったのを聞いてもらうと、月蝕會議が手掛けた曲って振り幅が広いんですよ。多様性に対応できるのがプロデューサーの重要なポイントのひとつだよねっていうところで、そういうのを証明するものになってる。自分たちに課題を与えて、それをクリアするっていうのをやってみた曲ですね。

鳥男:基本的にコンセプトとかないんでね、我々は。

タクヤ:月蝕會議としてね。

鳥男:アルバムもコンセプチュアルなものを作ってるわけじゃなくて。毎回毎回、あれ面白そうだ、これ面白そうだっていうので始まってて。もしくは提供依頼があった楽曲に関しては、ある程度リファレンスがあるなかで作っていくので、それで自ずと幅が広くなっていくというか。そういう意味では聴き応えがあるアルバムになってますよね。