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LIVE REPORT

Japanese

月蝕會議

Skream! マガジン 2022年06月号掲載

2022.05.18 @下北沢ろくでもない夜

Writer 稲垣 遥 Photo by 粂井健太

メンバー全員が作詞/作曲/編曲を手掛ける音楽プロデューサーであり、それぞれアーティストとしても活動しているクリエイター集団 月蝕會議が、"月蝕會議 音楽クリエイター夜會"なる新たなイベントを開催した。同企画は、そんな月蝕會議が普段楽曲制作時に行っている"コライト"(=複数人で作曲すること)を、外部からゲストを迎え、共に楽曲制作していくことで、より音楽を楽しんでいこうというプロジェクトだ。会場となった下北沢ろくでもない夜は満席。何せ初の試みということもあり、フロアには待ちきれないといったようなそわそわした空気が充満していた。

"はいどーもー!"とエンドウ.(Gt)を筆頭に、Billy(Gt)、鳥男(Ba/Key/Gt/Dr)、楠瀬タクヤ(Dr)がジョッキ片手にステージへ登場。この日は"夜會"ということで、お酒も飲みながらラフにトークやコライトをしていく趣のようだ。"マジで仕込みなしで、何が生まれるか決まってません!"と楠瀬が説明したが、2時間という時間の中で、果たしてどんなふうに曲ができあがっていくのか? 本人たちも予想がついていない様子である。

ここでゲストとして、"ラブライブ!"の人気曲であるμ'sの「Snow halation」の生みの親、山田高弘を呼び込む。メンバーとも親交があり、月蝕會議に入りたいと飲みの席で直談判したものの断られ、"じゃあ俺は「日蝕サミット」作る!"と放っていたと明かされ笑いが起きた。そんな和気あいあいとしたムードのまま早速曲作りへ。今回は山田の案で"音楽クリエイター夜會"のテーマ・ソングを作ることに。するとエンドウ.が"せっかく山田御大がいるので「スノハレ(Snow halation)」みたいなのがいい"と提案し、この日だけの特別感に期待させる。さわりのコードは、鳥男がEとAの響きをキーボードで鳴らし、観客の多数決でAに決定。鳥男が弾くコードに合わせて山田が適当な歌を乗せてみたり、"テンポどうする?"と楠瀬が叩いてみたり、まずはセッション的にパーツを作る。そしてAメロの概観ができると、それに繋がるようにとBillyがギターでBメロのコードを紡ぎ、またそこに楠瀬がドラムでアクセントをつけて......と瞬く間にそれぞれの部品が組み立てられて曲になっていく様に、気づけば目耳が吸い寄せられていた。

ちなみに、コライトということもあり会話や説明をしながら進行していくおかげで、合間に出てくる話題がいちいち興味深い。分数コード(=和音に通常のコードとは違うベース音を足したコード)を使うと"プロっぽい"サウンドになるとか、テンション・コードを入れるとエモくなるとか、PPPH(パンパパンヒューともいうオタ芸のパフォーマンス)ができるリズムが求められる時期があったこと、E7は青春感が出るコード......などなど、実演しながら解説してくれるので、専門知識がなくとも頷きながら学びになる時間だ。

開始45分でBメロまでの大枠ができあがり、"これ売れるでしょ! 僕細田 守さん(の作る映像)見えましたよ"と山田が確かな手応えを口にするなか、次はバンマスのエンドウ.が主導してサビのコード展開を構築していく。ものすごいスピード感だが、なんとなくの流れだけで作業していたり、どこかで聴いた曲になったりするのではなく、"このコードは入れたい"、"ここにフィルが欲しい"など要所要所で議論が行われ、メンバーのこだわりは譲らない。サビまでのコードができあがった時点で、鳥男がDAWを操りキーボードとドラムを打ち込んでRECを行ってみると、その時間は89秒。偶然にも彼らが普段手掛けるアニメのOP/EDにぴったりの長さになっていたのは驚きで、一同"89秒の魔法だ!"と盛り上がるひと幕も。

ここで、音源に鳥男がベースなどを打ち込んで整えている間、質問コーナーへ突入。"曲を作るときに大切にしていることはなんですか?"という質問には、山田は"自分の心がぐっとくるかどうか"を大事にしていると答え、エンドウ.は"クライアントが納得するかどうか"を重視すると答えていた。一見対照的だが、ハイクオリティな曲を作り上げて提供するプロの作曲家として、どちらも正解なのであろうと納得させられる。

そうこうしているうちに音源が完成。まさに意識していた「スノハレ」のフレーヴァー香る、山田高弘と月蝕會議のコライトならではの、ピュアでポップど真ん中を貫きつつ切なさも纏う楽曲に仕上がり、フロアからは大きな拍手が湧き起こった。さらに、ここからは即興でこの曲に歌を乗せていくのだが、スキャットでいいという話だったのに、山田や楠瀬がその場で歌詞を乗せて歌っていくため、曲の世界観が変わっていき笑いに包まれる場面や、月蝕會議のキリン(Vo)に電話を繋いでヒントを貰うシーンもありつつ、見事時間内にメロディづくりまで走り切った。

最後は"月蝕ショッキング"と題し、某お昼の番組の1コーナーさながら、今後のゲストとして呼びたい知り合いの音楽クリエイターへその場で電話することに。そしてこのとき楠瀬の電話に応答したのはなんと、BiSやBiSHらWACK所属グループのサウンド・プロデューサーを務める松隈ケンタ(SCRAMBLES)だった。またその場ではこの日できた曲を松隈に聴かせたのだが、一聴しただけで(しかもLINE電話で)、詳細に各セクションの感想を述べる手練れぶりにも舌を巻いた。そして、今後のゲスト出演も快諾! 豪華なサプライズにメンバーも観客も興奮したままこの日のイベントは幕を閉じた。

まるでひとつのスポーツの試合を観るような、エキサイティングなエンタメを届けてくれたメンバーたち。終演後感想をうかがってみると、"化学反応みたいなものなので、ライヴなエンターテイメントとして面白かったですね。マジっすか? みたいなのが多くて"(鳥男)、"馴染みのあるゲストを迎えて、僕らがどんな球でも受けられる状態でやれたことが面白く作用してたなと思います"(楠瀬)、"松隈さんに意見をいただけたり、濃い内容でお届けできて大成功です"(Billy)、"ゲストが普段作ってるあの曲に準じたジャンルを作ろうとか、いるだけで僕らも普段と違うことができるんで、定期的にこういう新しい風を入れていくことは大事だなと思いました"(エンドウ.)とそれぞれに感触を語った。

さらに、Skream!読者へのメッセージとして"曲を作ってる誰かがいることに注目して、その人がどういう考えでその曲を生み出したのかとかに注目できたら、音楽をより楽しめると思うので、後ろにクリエイターがいることに気づいていただければ"(エンドウ.)、"音楽を作られる方は、人に聴いてもらうことで学びがあったり幸福度が上がったりすると思うので、そういう機会に僕たちにもぜひ聴かせてほしいです"(Billy)、"音楽って作ることも聴くことも、ライヴで一体感を得られることも楽しいし、どういう方向からでも音楽を愛していただければ僕らも幸せです"(楠瀬)、"曲を作ることのハードルって技術が発達して下がっていると思うので、リスナーとして楽しむのはもちろん、もう一歩踏み込んだ状態で向き合うことによってより音楽を好きになるきっかけになれたらなと思います"(鳥男)と話してくれた。

実際に作曲のスペシャリストたちがトラックを紡ぎあげていく場に参加できる貴重なイベント。彼らの言う通り、さらに掘り下げた音楽の楽しみ方ができる契機に間違いなくなるはずなので、第2回が行われた際にはぜひ、現場を目の当たりにして濃厚な時間を過ごしていただきたい。

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