Japanese
月蝕會議
Skream! マガジン 2022年11月号掲載
2022.10.02 @池袋 Absolute Blue
Writer 稲垣 遥
プロの作曲家たちが0から曲を"コライト(=共に作曲すること)"していく様を目の前で(もしくは配信で)、リアルタイムで観られるイベントがある。それが月蝕會議主宰による"月蝕會議 音楽クリエイター夜會"だ。5月に行われた第1回が成功裏に終わったこともまだ鮮明に記憶に残るなか、今宵第2回が行われた。
この日のゲストは、作曲家としてBiSH、BiSらの立ち上げから携わり、そのほかにも柴咲コウ、Kis-My-Ft2らへの楽曲提供も手掛ける本誌読者ならお馴染みであろう希代のクリエイター、松隈ケンタ。月蝕會議メンバーが松隈を呼び込むと早速曲作りを始めていくようだが、やはり今回も"進行は何も決めてない"とのこと。しかし、それでもきっと実のある時間になるというのは前回で証明済みのため、ワクワクするほかなかった。
松隈も日頃コライトで曲の制作を進めていくことが多いそうだが、基本はトラックを別のメンバーが作り、松隈は"トップライナー"としてメロディを生み出していくそうだ。そんな普段の制作方法についてのトークで、松隈が"コードとかはあとからがいい。リズムがジャンルを作るので"と言うと、月蝕會議エンドウ.(Gt)や楠瀬タクヤ(Dr)は新鮮な様子で、改めて同じ作曲作業でも人によってやり方が様々であることが窺えた。
また松隈の好きなアーティストがU2という話が出たことから、鳥男(Ba/Key/Gt/Dr)も"スタジアムっぽいロックを作りたい"と提案。エンドウ.も"普段A→B→サビの曲ばっかり作るからBメロのない音楽にチャレンジしてみたい"と賛同し、そういった洋楽ライクな方向性で進めていくことに決定した。山田高弘をゲストに迎え、アニソンの趣のあるポップ・ソングの制作に向かった前回とはまったく違う方向性であるが、この何気ない会話からテーマが決まっていくのが、ライヴ感があって面白い。
鳥男が直近イギリスでCOLDPLAYを観たということで、ドコドコとした生命の息吹を感じる、まさに広大な会場で大勢の観客が盛り上がる様子が目に浮かぶようなリズムを、打ち込みで鳴らす。ちなみにこの日、"VIP席"とされた観客の目の前のディスプレイには鳥男のDAWが映されており、随時音が構築されていく様が見られる仕様になっていたため、オーディエンスもまじまじとディスプレイや目の前の作業を見つめていた。
鳥男のリズムに続き松隈がギターでコードを乗せ、Billyも同時に付点8分ディレイのギター・フレーズを紡いで、イントロからAメロへとあっという間に曲の基盤ができあがっていったのだが、順調にある程度できてきたところで楠瀬が"若干反町隆史の「POISON」みたいな......"と発言したことにより一同の脳内が「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」に支配され、"頭から離れなくなるからしばらく反町禁止(笑)!"(Billy)と会場が笑いに包まれる場面も。さらにサビのリズム決めはVIP席の観客が参加するなど、真剣でありつつ楽しく和やかな空気でトラックメイクは進み、メロディ以外のベースとなるものがワンコーラス完成。一度それを流してそれぞれ頭の中でトップラインを考えてみようとなったのだが、これが聴きながら一緒に考えてみると、作曲素人な筆者でもなんとなく自分なりに鼻歌を歌えそうな感覚で、驚いたと同時に、彼らが伝えたいのはこういうことなんだろうなと実感した。(もちろん出来の差はあるだろうが)作曲、コライトというものへのハードルを上げずに楽しんでやってみようよ、意外とそんなに難しいことじゃないかもよ、と言われているように思えたのである。
メロディを生む段階では、松隈から"みんなが入れたくなるものは入れない。そうするとみんながこっちを見るので"、"悩んだら歌メロを減らす"という金言も飛び出して月蝕會議メンバーを唸らせる。未来のクリエイターへ向け音楽セミナーも定期的に開催し、フックのあるナンバーでヒットを生む松隈ならではの、納得しかない発言だ。そんな松隈の意見も取り入れつつ月蝕會議メンバーと考えたメロディを繋げていき、鳥男いわく"1回ダウンしたあと最後5秒くらいでめっちゃ殴られたみたい"な、ひと筋縄ではいかない強力なメロディに仕上がった。そして曲のラストには「Viva La Vida」(COLDPLAY)さながらの大合唱パートを据え、できあがったデモ音源は、まさに洋楽のテイストのあるスタジアム・ロックでありながら、日本人の感覚ならではのエッセンスも盛り込まれた、この日にしか生まれないナンバーになっており、会場は拍手に包まれた。
濃厚な2時間を終え、感想を漏らす5人。やはりリズムを大事にした松隈の制作手順や前述の発言は月蝕會議には刺激的だったようで、エンドウ.は、以前小林亜星と話したときに、"サビの中の一番高い音は1回しか鳴らしちゃダメ"と言われたことを思い出したと言い、"今日松隈さんが言ってたことも、今後メロディ考えるときに絶対に影響が出ちゃうなと思いました"と語る。松隈も"作曲家って、よく「メロディ降りてくるんですか?」と言われるんですけど、降りてくるんじゃなくて考えながらやっているので、それが5人同じレベルで喋れたっていうのがすごく楽しかったです"、"たまに「このAメロとこのBメロをくっつけてほしい」とか言う人もいるけど、いろんなものが重なり合ってできているので、そんなんじゃないってわかってくれたと思いますしスッキリしました"と話していたが、たしかに今回のイベントでは、すべてのパートが全体的なバランスを考えて緻密に組み合わせられ、ハイクオリティな楽曲となっているということがひしひしと感じられた。
前回に引き続き、学びの非常に多い有意義な2時間となった"月蝕會議 音楽クリエイター夜會"。次はどんな楽曲が、どんな工程でできあがっていくのか? 今回の第2回を経てますます楽しみになったのは間違いない。
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