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INTERVIEW

Japanese

夜韻-Yoin-

 

夜韻-Yoin-

Member:あれくん(Vo/A.Gt) 涼真(Composer/Gt) 岩村 美咲(Pf/Director)

Interviewer:稲垣 遥

-アルバムの幕開けになる「低体温傷」はいきなり怒濤の展開ですね。セクションごとの音像の違いに耳がもっていかれました。この曲はどんなイメージで作っていったんですか?

あれくん:音楽がありふれた世界の中で、どうやったら枠から外れることができるのか。そんなことばかり考えてこの楽曲を作りました。聴き手に、感動を与えるだけでなく、刺激を与えたかったんです。目新しさというか。そういった意味で、中盤あたりのセクションから概念を覆すような進行や、トリッキーなコーラスなどを入れました。

涼真:再生してすぐのインパクトが欲しくて、イントロのピアノはあえて耳に刺さるバキバキのサウンドにしました。アレンジの段階でとても迷ったのですが、やっぱりこの曲は四つ打ちだなと思い、少しエレクトロニックなサウンドのドラムと生のドラムを混ぜています。あとサビの盛り上がりを最高潮にするためにコンガとかも叩きましたね。人生初コンガ。楽しかったですよ。でも、やっぱり歌詞は悲しいんです。悲しいけど、踊れるダンス・チューンってなんかかっこいいですよね。

-美咲さんによる扇情的な、リアルなピアノの音に、さらにサビの裏では目まぐるしい高速のピアノも重ねているのは面白いし印象的でした。複雑な曲ではありますが、美咲さんが演奏面で意識したところはありますか?

美咲:"私のこと何も知らないくせに"という投げやりな気持ちにハマるアプローチはないかと直感で出てきた高速フレーズですが、自分のルーツであるクラシックらしさを入れる遊び心があっても面白いと思って取り入れました。涼真君が言っているように、この曲は今までの夜韻-Yoin-の曲の中で一番耳に刺さるピアノの音作りになっていて、自分の中でもかなり攻めた演奏を意識しています。

-「心綺楼」は完全に涼真さんが作詞作曲から編曲まで手掛けた曲ということで、ギターを前面に出したり、ラウドな要素があったりするのかと思いきや、エレピと打ち込みのドラムを軸にした、どちらかというと落ち着いた音像になっています。今回涼真さんがすべてを手掛けた曲を収録することになった経緯も含めて、この曲がどんなふうに生まれたか教えていただけますでしょうか。

涼真:普段MAKE OWN LIFEでは曲を作っているのですが、夜韻-Yoin-だとまだあまり作ってこなかったので、今回は夜韻-Yoin-のみんなが僕に挑戦の場を与えてくれたんだと思います。僕が完全に僕だけでかっこいいを追求すると、どうしてもMAKE OWN LIFEの楽曲になってしまうので、「心綺楼」はあえてローファイ・サウンドを前面に出したトラックにして、あれくんの歌声が際立つような曲にしました。どんなに願っても叶わない恋ってドラマや漫画の中だけの話ではないじゃないですか? もっとリスナーさんの日常に寄り添うような、誰にでも訪れる失恋のエピソードをイメージして作詞しました。僕も失恋したことあるんですけど、少しそのときの気持ちも入ってるかもしれませんね。"新しい今日がまた始まる/何気ない日々に恋をしていた"君が蜃気楼のように消えてしまっても、時は止まらない。その想いを抱きながらまた朝が来る。めっちゃ悲しいなこの曲。泣ける......。

-あれくんはこれまで自作の曲を歌っていたと思うのですが、涼真さんがイチから作ったこの曲を歌うのは今までと違う感覚でしたか?

あれくん:本当に自分が歌う側としてまったく辿ってこなかった音楽だったので、自分の身体に染みつくまでかなりの時間がかかりました。そういった意味でレコーディングではふたりに迷惑をかけたなって反省してます。それでも、貴重な経験を経て成長できてるなと実感できています。

涼真:ディレクションしていて思ったのは、やはりあれくんの歌声にしっかりマッチしてくれたなということです。さすがあれくん。

-そして、4曲目が表題曲の「pandora」。これまでの収録曲もこちらの予想を裏切ってきたのですが、それが一番顕著に感じられたのがこの曲でした。ちょっとジャジーで怪しい曲調は夜韻-Yoin-のイメージと対極というか、まったくなかったです。みなさんの出自やソロ活動を考えても新鮮で、挑戦でもあったんじゃないかと思いますが、楽しんでやれた感じですか? 苦戦しましたか?

あれくん:「pandora」に関しては、僕が最も歌いたかったダークでアッパーな曲です。こういうのもいけるんだって思わせたかったし、それこそ刺激を受けてほしかった。そんな一心で作り上げた覚えがあります。

涼真:「pandora」はそれこそジャジーなイメージで作ってやろう! って思っていたのですが、さすがにジャズは僕自身が聴いてこなかったので、苦戦しました。たぶん一番アレンジに時間がかかったのがこの曲でしたね。なんとか試行錯誤を繰り返して、最終的にはいい形で夜韻-Yoin-らしさがでたんじゃないかなと思います。難しかった~。

美咲:ピアノに関してもかなりダークに攻めましたね。ヴォイシングに関してもクラシックとはまた全然アプローチが違うので、家でジャズの勉強したり、本読んだり。夜韻-Yoin-の配信ライヴのMCで、どの曲が一番弾いてて難しいかっていう質問をし合うひと幕があったんですが、速攻で「pandora」ですと答えました(笑)。夜韻-Yoin-の楽曲で初めてピアノ・ソロも出てきますし、自分の幅が広がったというよりも、広げてくれた楽曲だと感じています。

-歌詞も"なんだよ、逃げちゃ悪いかい?"という言葉にも表れている通り、エゴイスティックというか、切実で挑発的で、これまでにない主人公像ですよね。何かこういう曲になったきっかけはあったんですか?

あれくん:我慢しながらも、平然を装って耐えていかないといけない日常の中でなかなか言葉にできず、口に出せないで、思いを相手に打ち明けられずに心にしまっている子が多いんじゃないでしょうか? そんな子の代弁をしたかった。この世界での生き方を決められるのは自分自身だけであって、何も無理に型にハマらなくていいんだよと、伝えたかったんです。

-「青 feat. あれくん」は、あれくんの1stアルバム『白紙』の収録曲「青」を、夜韻-Yoin-でリアレンジした曲になるんですかね? 改めて夜韻-Yoin-としてこの曲をやろうとなったのはどうしてだったんですか? また今回ではみなさんどういうところを意識して演奏/歌唱しましたか?

あれくん:僕としては、この作品はもっと日の目を見られてもいいんじゃない? という親のような気持ちもあり、涼真君の洗練されたアレンジで、どこまでも格好良くなるんじゃないかという挑戦的な意味もありますし、一番はこの楽曲への愛です。何より、この曲は"夜韻-Yoin-"として活動するためのきっかけでもあるので。

涼真:「青」という曲は、原曲のほうでも僕はギタリストとして参加しているので、個人的にも感慨深い曲でした。その曲を僕がリアレンジすると決まったときに、原曲がかっこ良すぎて何したらいいかわからなかったです(笑)。もともと壮大なバラードというイメージだったので、それを壮大且つどこか切ないロック・バラードにしようと決めて、まずはドラムのビートの見直しから始めました。ストリングス・パートをギター・ソロにしたり、シンセに差し替えたり、涼真リミックスになるように頑張りました。

美咲:私も原曲で参加させていただいていますが、今回こうして夜韻-Yoin-のリアレンジ・リリースするにあたり、夜韻-Yoin-らしい岩村美咲のピアノを弾きたかったのが一番強いです。力強く、だけど繊細。原曲ももちろん魂を込めて弾かせていただきましたが、あくまでもサポート・ミュージシャンとしての立ち位置だったので、ここまで自分を出すことはなかなかなかったです。迫力を感じてもらえたら。

-そうしていろんな側面を見せたアルバムを、美しいピアノ・バラード「カヲリ」で締めくくります。あれくんと岩村さんによる初の共作曲ですね。

美咲:スタジオ・リハーサルの休憩時間にできた曲です。あの日あの瞬間ふたりでいなかったらできていなかった、奇跡のようなものを感じています。ピアノ・メインの今までになかったバラードで、0から作るってやっぱり楽しいですし、それを聴いてもらえるって幸せなことだなと感じました。

涼真:Aメロでドドンドドンドドンってティンパニが鳴っているのですが、あれは僕が叩かせていただきました。実際はティンパニがなかったので、ドラムのバスドラをビーターでぶん殴ってたんですけど。めっちゃ汗かきましたね。曲の後半でバンド・インしてきてからの、Dメロ("過ごした日々だけ"以降)からの壮大さが個人的にとてもエモいので、ぜひ聴いてもらいたいです。

-初回限定盤には初となるDVDが付属しますが、そちらの見どころも教えてもらえればと思います。

あれくん:見どころは、僕らが今までに表には出していない裏側を覗くことができることです。そして、夜韻-Yoin-や曲への想いをここで綴っています。

涼真:なんといってもZeppのライヴ映像が収録されているところですね。何回も観ましたけど本当に泣けます。僕ら夜韻-Yoin-のライヴ映像はこの初回限定盤でしか観られないので、ぜひ手に取っていただけると。レコーディング風景も入っていますので、夜韻-Yoin-の制作の裏側もぜひ見てほしいです。

美咲:レコーディング風景ってなかなか見られないと思うので、3人が普段どんなふうに喋ってたり、どんなふうにレコーディングに取り組んでたりするか存分に知れる内容になっています。楽しんでいただけたら。そしてZeppのライヴ映像は本当に感動ものです。私たちの原点でありますし、ぜひ手に取って、これからも大切に持っていていただけると嬉しいです。

-全曲お話をうかがいましたが、ミニ・アルバムを振り返って、どんな作品になりましたか?

あれくん:一貫性という言葉を覆すような、ジャンルレスなアルバムだということです。それに尽きます。とても、アグレッシヴで今までにない仕上がりのアルバムになったと思っています。

涼真:夜韻-Yoin-の新しい音楽性。それぞれの個性。新しい挑戦。いろいろなものを詰め込んだアルバムになっています。気になった方はぜひ僕らの"Pandora"の箱を開けてみてください。

美咲:やはり、新しい夜韻-Yoin-を魅せる作品になったと思います。こんな楽曲も作れるんだ! って思っていただけたら嬉しいです。ぜひ前作の『青く冷たく』も一緒に聴いていただけたら。

-個人的には澄みきった、クリーンな印象があったあれくんの歌声が、「pandora」含め幅広い印象の曲にマッチしているのも、完全に新たな一面を開拓した感じがありましたし、楽曲の幅も広がってこれからが楽しみになりました。これだけバラエティ豊かな作品を生み出して、夜韻-Yoin-は今後どうなっていくんでしょう?

あれくん:これからも、感動や刺激。何よりも僕たちの心に存在する共感性、直感を大事にして音楽を紡いでいきたいです。

涼真:10年。20年残る名曲を生み出したいです。夜韻-Yoin-が新しい音楽のスタンダードになれるように。常に新しいものを創造していきたいと思っています。

美咲:私たちが音楽を創造するときに大切にしている直感、そして私たちらしさをこれからも忘れずに、もっと多くの方の心に夜韻-Yoin-の音を響かせられたらと思います。

-さて、全国ツアー"一夜一会"を開催して、夜韻-Yoin-で初めて全国を回るのはどんな感覚でしたか? また、これから夜韻-Yoin-のライヴに来ようとしている方に向けて、意気込みやメッセージをいただければと思います。

あれくん:現在、このコロナ禍ということもありなかなか行きづらい印象がまだまだあると思います。たしかに耐えることも大切だとは思うんですが、それでも、いきなり終わりの見えない世界を前に、そんな世の中に疲弊しきって、僕たちの一度しかない儚くて美しいはずの一瞬が奪われていくのは違和感でしかないです。生でしか伝わらない世界観、感情や音を一度きりの空間で感じてもらいたいです。

涼真:ツアーでのたくさんの地元バンドやライヴハウスさんとの出会いを通じて、改めてライヴの素晴らしさを実感しました。

美咲:1年以上ライヴ開催が難しい状況が続き、ようやくステージに立ったとき、あぁライヴはやっぱり素晴らしいな。この日この瞬間にしか味わえない感動があるなと思いました。まだまだ厳しい状況が続きますが、来てくれる方には来て良かったと思ってもらえるような1日に、そしてまだ会場に行くのは難しいという方にも、いつでもどこでも楽しんでもらえる楽曲をどんどん届けたいと思っています。