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INTERVIEW

Japanese

亜沙

2021年03月号掲載

亜沙

Interviewer:杉江 由紀

時代が変わってきている今だからこその"令和イデオロギー"なんです


-それから、今回のアルバム『令和イデオロギー』には昭和歌謡の名曲である沢田研二さんの「TOKIO」がカバー曲として収録されております。オリジナル曲を主体としたこの作品において、亜沙さんはなぜこの曲をカバーされることになったのでしょうか。

このアルバムから新しい制作チームと組むようになって、アルバムに向けての打ち合わせをしていたときに、スタッフ側から"古い曲のカバーをやってみたらどう?"という話が出たんですよ。案としては中森明菜さんの「飾りじゃないのよ涙は」とか、工藤静香さんの「嵐の素顔」とかいろんな曲も出てきていたんですけど、最終的には沢田研二さんの「TOKIO」がいいんじゃない? っていうことになりました。というのも、僕も10年くらい前にはヴィジュアル系のバンドで活動をしていたことがありますし、当時ジュリーと呼ばれていた沢田研二さんはメイクや派手な衣装で人気だったわけじゃないですか。ある意味ではそれって、ヴィジュアル系の走りなのかなと感じたんですよ。

-日本の歌謡界の中で初めて、グラム・ロック・スターとしての存在感を強く打ち出した方であったのは間違いないでしょうね。

今この時代に映像で観ても、当時のジュリーの姿ってセクシーですからねぇ。かっこいいいなと思って、それで「TOKIO」を歌わせていただくことにしたんです。

-ただ、今作でのアレンジはなかなか斬新ですね。メロディ・ラインこそ原曲のままですが、コード感などの印象はもととかなり違います。

今っぽいですよね。この曲ではYockeさんというアレンジャーの方が参加してくれていて、その方いわく"亜沙っぽい感じも意識した"らしいです(笑)。たぶん、マイナー調でロック感がある、っていうことなんだと思います。

-このアレンジでの「TOKIO」を歌ってみての感触はいかがでした?

気持ち良かったですよ。曲のアタマでTOKIOっていうフレーズが繰り返されてるところとかも、俺が好きだった90年代ヴィジュアル系の王道パターンみたいなノリがあってちょっと楽しかったし。実を言うと僕自身もこの原曲を知ったのは意外と最近で、たまたま行ってた居酒屋さんで独り晩酌をしているときに有線で流れてきて"なんだこれ、すごくいい曲だな"って思って知ったんですよ。だから、このアルバムを聴いてくださる方たちの中には原曲を知らないよっていう人もいると思うんですけど、これを機にこの曲の存在を知ってもらえたら嬉しいですね。

-そんなロックな曲が聴ける一方、今作には「just close to you」のようにアコギ1本でのバラードというシンプルな聴かせ方をされている曲もありますね。

普段、ソロでのレコーディングでは広末 慧さんとか、ギターはいろんな方に手伝っていただきながらレコーディングしているんですけど、今回はギターも含めて1曲すべて自分だけで完結する曲も入れたかったんです。自分の弾き語りだけでどのくらい聴き手に伝わるか、挑戦したかったんですよね。だから、アレンジ的にもこの曲は思い切ってここまでシンプルにギターを1本だけにしたんです。増やすことはできたんですけど、あえてそれをしませんでした。

-メロディメーカーとしても、ヴォーカリストとしても、問われるところは相当に大きかったのではありませんか。

このくらい多くのものを削ぎ落としたうえでいい曲を仕上げていくというのは、実に難しいものだなと感じましたね。特にギターの音に関して言えば、自分の本職ではないのもあって納得しきれていない部分もありますし。ただ、それでも人の手を借りずにここまでやったという達成感はあります。

-ものにたとえるなら、ここで聴ける音はカッチリした工業製品ではなく一点もののハンドクラフト作品のようなものなのかもしれません。温かみを感じます。

あぁ、まさにハンドクラフト作品っていう言い方はしっくりきますね(笑)。

-そして、ここは意図的にこの曲順にされているのでしょうか。「just close to you」とその前の「あの八月に帰れたら」は、曲調こそ違えど、いずれも夏を描いた楽曲ですよね。

夏ゾーンにしました、このくだりは。そして、さらに最後の「桜の歌が流れる頃に」まで続く流れはどの曲も叙情的なんですよね。

-アルバムのリリース時期を考えると、「桜の歌が流れる頃に」はちょうど季節にはまりそうです。しかも、この曲題の雰囲気は小説のようですね。

桜っぽい曲が作りたかったし、それこそ小説みたいな世界観の曲を作りたかったんですよ。時間としては4分くらいの長さですけど、そこに物語を持たせたかったんです。

-かと思うと、このアルバムには「労働者のバラッド」という妙に現実味のあるタイトルと歌詞のついている楽曲も収録されております。これはもしや、亜沙さんの実体験にもとづいたものなのですか?

これに関しては物語としての詞を書いたわけではなくて、実体験がベースになってる詞ですね。昔バイトをしてたときの話を思いながら書きました。

-差し支えなければ、当時どのようなバイトをしていらしたのかうかがってもよろしいでしょうか。

僕、コールセンターでバイトしてたんですよ。あれって髪形とか格好とかについてあんまうるさく言われないんで(笑)。バンドをやりながらするバイトとしてはわりとアリなんですよね。当時は夜間勤務をしてたので、これはそれが明けて家に帰る場面なんです。

-この詞の中の"思い描いてた「未来」"に、今の亜沙さんは生きていることになりますか?

いつかは音楽で生活したいって当時はずっと思ってましたから、その点ではきっと思い描いていた未来にいるんでしょうね。25歳くらいまでバイトをしてたんで、当時は不安だったんですよ。それを思うと、今は自分がなりたかったものになれたんだなと感じます。

-そのほかにも今作にはモダンなサウンドが堪能できる「Automata Love」や、ここまでに亜沙さんが生み出してきた楽曲たちの特徴を受け継ぎながらもそれを最新形にブラッシュアップさせた「紡縁 -bouen-」や、アグレッシヴなロック・チューン「幻想リアクション」、ボカロ曲としても人気の「茜色フッテージ」など多彩な楽曲たちが収録されておりますし、ボーナス・トラックとしては「懐古的モダニスト Acoustic ver.」と「茜色フッテージ IA ver.」(※共に丙-hinoe-盤のみ収録)も楽しむことができるのですけれど、アルバム『令和イデオロギー』の冒頭を飾っているのは「遊郭跡地」となります。この曲を最初に持ってきた理由を、ぜひお聞かせください。

1曲目っぽいから、って言ったら言い方としてはつまんないですかね(笑)。やっぱり、アルバムの最初は勢いのある曲を入れたかったんですよ。とはいえ、昨今はサブスクでみなさん聴くことも多いでしょうから、アルバムを曲順で楽しむっていうのはそんなに多くないことなのかなぁ。でも、僕なんかはどうしてもCD世代なんで自分がCDで聴くとしたら......って考えてこのアルバムの曲順を構成したんです。できたら、サブスクでもアタマから再生してみてほしいですね。

-最後に、これだけの大作に"令和イデオロギー"というアルバム・タイトルを冠した理由についても解説をいただけますでしょうか。ひとつには、この作品を作っていらしたのがちょうど時代の境目であったということも大きいのですかね。

平成から令和にかけて作ったアルバムである、という意味ではそうですね。それと、これまで亜沙ソロでは漢字+カタカナというタイトルを付けることが多かったので、そういう既存のスタイルはここでも意図的に残すようにしました。このアルバムの場合は音の面では新しいことをいろいろやっているぶん、今までのファンの方々を安心させたかったというのもちょっとあるんですよ。あと、イデオロギーっていう言葉に関しては世間だと政治的な場面で使われることが多いみたいなんですけど、僕としては価値観とか考え方を意味しているものだと解釈してます。令和の価値観、みたいな。これからはその新しい価値観を大事にしながら活動していきたいなと思うし、これはいろんな面で時代が変わってきている今だからこその"令和イデオロギー"なんです。