Japanese
CYNHN
2020年12月号掲載
Member:綾瀬 志希 月雲 ねる
Interviewer:吉羽 さおり
4曲全部ちがうメッセージがある。CYNHNが、次のステップにいっているなと感じてもらえたら
-それぞれの個性が生きたからこそまた、強い曲になったようですね。今回はたくさんのアーティストが楽曲提供をしているんですが、mol-74の「氷菓」(読み:アイスクリーム)はまた全然ちがった、CYNHNとして新しいタイプの曲ですね。
綾瀬:この曲は、自分は俯瞰して、物語を読んでいる感覚で。そういうインプットの仕方をしたんですけど、きっとこれを書いている人は、曖昧なもの、甘いけどあやふやで、自分にあまりない感覚のことを書いているなと思っていました。すごく好きな場所があるんですけど。"青い矢印の標識は/現在に訴えている"という歌詞で。一方通行で、後戻りするとか、どこか別のところに行くとかがたぶんできなくて、そういう物語的な面白さを感じて歌えるかなって思いました。難しいなって。もともとmol-74さんの「エイプリル」という曲がすごく好きなので、個人的には"やったー!"ってなりました。
-じゃあ、これもきたなっていう感触じゃないですか。
綾瀬:もうこれは、mol-74さんにセルフ・カバーで出してほしいですもん。デモ段階で完成してたよね。
月雲:デモ時点で、mol-74さんの曲になっていたので。
綾瀬:それをいかに壊さずに歌えるかみたいなところは、すごく考えました。
月雲:デモを聴いたときは、自分が歌うとか関係なしにめっちゃいい曲だなって。でも、いざ自分が歌ってみるとものすごく難しかったです。単純に自分にとっては、キーが低めな部分が多い曲なので、そこが難しくて。あとはDメロを自分が歌っているんですけど、ここでちょっと空気が変わる瞬間みたいなものがあって、そこを自分に任せてもらえたのは嬉しかったですね。また、2番の"あの頃もピンとこなかった/あの頃も欲しくはなかった"っていう不器用な感じは、CYNHNに合ってるなって──
綾瀬:たしかに。
月雲:"幸せになるための法則を/僕は解けないままだ"っていうところは、法則が解けないのとアイスクリームが溶けないがかかっていて、個人的にお気に入りポイントです。
-mol-74のデモからCYNHNにしていくにあたっては、歌でどう塗り替えていった感じですか。
綾瀬:めっちゃ考えました。この曲は、あまり技巧的な歌ではなくナチュラルに刺さるようなものにしたいなって思って。こういうメロディアスな感じって、エッジをかけたりとか、しゃくりあげたりとか、そういうことをすることが多いんですけど。それをせずに、切なさや情景をどうやったら歌に込められるだろうって悩んだんですよ。答えは出ないままレコーディングになったんですけど(笑)。今回この曲や「夜間飛行」はあまり歌のヒントがなかったので、結構大変だなっていうのはありました。君はいいよ?
月雲:なんで(笑)。
綾瀬:もうその声を持ってるんだから。そんなこと考えずに歌ってもいい。
-(笑)綾瀬さんはパワフルに曲を回転させていくようなヴォーカルが多いですしね。こうした情景の描写はまたちがう力を使うような感じですか。
綾瀬:でも、やったことで成長になったというのはあります。
-でも今言うまで、そういうことを感じさせないくらいCYNHNの曲としてハマっていましたよ。
綾瀬:じゃあ良かったです(笑)!
-「夜間飛行」は、元ねごとの蒼山幸子さん作詞、トオミヨウさんが作曲&編曲です。
月雲:女性の方が書いている歌詞というのもあってか、すごく詩的で、語尾も女性的なんです。それは今までにないところで。
綾瀬:そもそも、CYNHNでこういう恋愛ソングを歌うことがなくて。"あなた"とか、そういう特定の相手に恋をするというのを歌ってこなかったので。これまた新しいなって思いました。"目を閉じた闇の中/心だけは/どんな場所へも行けるから"というところは、恋をしている気分になりながら歌いましたね。
-いつもレコーディングする前は、歌詞を読み解いたり、自分なりに映像を思い浮かべたりという作業は多いですか。
綾瀬:私は想像をしますね。曲を聴くと映像が思い浮かぶというか。それが正しいとか正しくないとかは関係なしに、自分で表現したいものがパッと出てきて。それをいかに表現するかというのはあります。この曲だと......言い表せるうまい言葉を持っていないんですけど。
月雲:私は曲を聴きながら歌詞を読んだり、歌詞だけを読んだりしていると、志希ちゃんじゃないですけど、景色が浮かび上がってきて。この「夜間飛行」だったら、宇宙の中で──
綾瀬:あ、同じ!
月雲:手漕ぎのボートが浮かんでいるイメージで、そこで歌っている感じ。
綾瀬:そうそうそう!
-こういう曲が増えてくるのは、CYNHNの幅として面白いですし、もっと聴いてみたくなります。またタイプがちがうのが草野華余子さん作詞作曲の「インディゴに沈む」です。この曲は草野華余子さんがヴォーカル・ディレクションもしてくれたそうですね。
綾瀬:すごく好きです、この感じが。実は、涙を流しながらスタッフさんにお願いしに行ったんですよ。"私は草野華余子さんが好きで、草野さんに曲を書いてもらいたいんです"って、大泣きしてお願いしたんです。そしたらスタッフの方が動いてくださって、曲までいただけて......。
-これは念願叶っての曲だったんですね。草野さんの曲のどういったところが好きなんですか。
綾瀬:一番は歌詞が好きで、運命感みたいなものを感じるんです。言い回しとか、泥臭さというか......きれいに風景や物語を描くというよりは、聴く人の心にダイレクトに刺さる歌詞を書かれるんですよね。いろんな考えをお持ちの方なんだなっていうのもわかるし、共感もできるし。言葉もたくさん持っていて。まっすぐ前に向かせてくれるような楽曲を書いていらっしゃったときは、いつも"これ!"ってなるんです。
-"これ私の気持ちだ"っていう。
綾瀬:そういう運命感というのがあって。
-今回の「インディゴに沈む」はCYNHNのために書き下ろした曲だけに、さらに気持ちが入りますね。
綾瀬:感動でした......。
-実際レコーディングの現場はどうでしたか。
綾瀬:草野さんはきっと音楽しかない人で、それを背負って一生やっていく方なんだなって。お会いして、それを感じました。会えて良かったなって(笑)。
-そうやって自分が共鳴した人に会える、このタイミングで会えたって大事ですよ。
綾瀬:そうですね。
月雲:すごいLINEきたよね。"今、泣いてる"って(笑)。"大好きな人が自分たちのために曲を書いてくれるなんて"ってことを、泣きながらLINEしてきて。良かった良かった、幸せなことだね、となりました。
-抑えきれない思いが(笑)。月雲さんは、レコーディングはどうでしたか。
月雲:最初に曲を聴いたときに、2番の"痛みだけがスローモーションだ"のところは絶対に私が歌いたいって思っていたんです。そこをいただけたのは、嬉しかったですね。レコーディングのときも、草野さんにディレクションしてもらって歌ったんですけど。今までにないくらい褒めてくださって。自分の中で、レコーディング史上一番褒めてもらって、緊張で手汗が出ました。あとは、歌ったあとに"洋楽とか聴く?"って聞かれて。海外のアーティストを聴くことが多いですって言ったら、"K-POP好きでしょ"と、私がK-POP好きなのが、歌い方でわかったみたいで、見抜かれました。それでまた意気投合しました。
-綾瀬さんのヴォーカルに対する、草野さんのディレクション・ポイントは。
綾瀬:特になかったんです。いつもディレクションしてくれる方は、言葉ひとつひとつ、細かいところを詰めてくださるんですけど。でも、これはすごい早く終わって。何回か歌ったら、OKって感じで。最初はすごく不安だったんですけど。
-それはたくさん草野さんの作品を聴いてきたからこそわかる部分でもあるのでは。
綾瀬:でも、この曲はめっちゃ難しかったです。歌詞がすごく好きで、"かたく瞳 閉じたって/朝は未だ、来ない"とか"眠れない夜越えても/朝は未だ、来ない"って、眠れない夜はもう越えているのに、自分の中の朝が来ないってことあるじゃないですか。嫌なことがあったりして、日が沈んじゃって眠ろうと思っても全然眠れなくて朝になっているみたいな......でも、今日も生きなきゃいけないなって、ギリギリを生きているような。何度かたく瞳を閉じようが、自分の中の次の日みたいなものが来ない、そういう思いっていうのをやっぱりわかっていらっしゃるんだなって。歌っていても共感しました。これを聴いてくれた人、これから聴いてくれるファンの方にも届くといいなって。同じ気持ちになってくれたらいいなって思います。これを聴いて、前向きに、みんなにとっての次の日が救われるといいなって思いました。
-一見、朝がこないことってネガティヴなのかなって思いきや、全体を聴くとそうではない感じなんですよね。前を向きながら変わっていこうとする、気づきがある曲です。この曲がアルバムの最後にくるのもいいなと思いました。今回の4曲は、ファンの方が驚くのでは。
月雲:変わろうとしていることが伝わってくれたらいいなと思いますね。初のEPで、4曲全部ちがうメッセージがあるので。CYNHNが、次のステップにいっているなと感じてもらえたらいいなと思います。
-アルバムのタイトルは、毎年PANTONEが発表するテーマ・カラーで、2020年のテーマ・カラー"クラシック・ブルー"のカラーコードとなっています。これまでの作品も、青をテーマにした曲を歌ってきたCYNHNですが、今作の色合いをどう捉えていますか。
綾瀬:これまでは正解のない青というか、明確じゃない青を表現したものとか、そういう楽曲をいただいていたんですけど、今回は色がついているなって思っていて。青っぽい紫だったり、淡い青だったり、暗い青だったり、インディゴだったり、表面は美しいけど、その裏にいろんな想いがあるようなものだったりとか。それが1枚になっていろんな人に届くのは嬉しいし、これを聴いてよりCYNHNの物語を感じ取ってもらえたらいいなって思います。
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