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INTERVIEW

Japanese

(sic)boy

2020年11月号掲載

(sic)boy

Interviewer:TAISHI IWAMI

故LIL PEEPや故XXXTENTACION、MACHINE GUN KELLYといった、大きく言えばロックとヒップホップがルーツにあるなかで、ラッパーとしてソロでフロントに立つことを選択し、ジャンルの概念や形式を塗り替えたスターたちと重なる大器、(sic)boyがアルバム『CHAOS TAPE』をリリースする。プロデューサー KMとタッグを組んだEP『(sic)'s sense』に続く作品であり、ふたりの完全共作によるストーリーを締めくくる12曲。エモやラップ・メタル、00年代ヒップホップ、トラップやR&Bなどを、独自のミクスチャー感覚で練り上げたその音楽性を、彼は"東京"と呼ぶ。自身が生まれ育った土地での揺れ動く感情を生々しく描いたその魅力を掘り下げることで見えた、乱用される"エモ"本来の力とは。

-(sic)boyというアーティスト名の"(sic)"は、見たままSLIPKNOTの曲名から取ったものですか?

もちろんSLIPKNOTも「(Sic)」という曲も好きなんですけど、あの曲が僕の音楽的なロール・モデルということではなく、もっと大きな意味というか、「(Sic)」って、もはやラウドな音楽が好きな人たちの共通言語的なところがあるじゃないですか。

-そうですね。

字面もすごくカッコいいし、そこでちょっと"おっ"って思ってもらえたらなって。今年の2月に出した『(sic)'s sense』(KMとのコラボレーションEP)もそうなんですけど、表記に対しては、視覚的なことや見た人それぞれの想像力への働きかけみたいなことを、よく意識しますね。

-"(sic)"という"sick"が持つあらゆる意味を含む言葉の意図と、(sic)boyさんの表現の関係性についてはどうですか?

おっしゃるように"sick"には"病んでいる"とか"うんざり"とか"ヤバい奴"とか、いろんな意味や捉え方があると思うんですけど、その核たる性質みたいなものは、僕という人間そのものに繋がっていて、それがなんなのかを表現したいという気持ちは常に持っているように思います。

-サウンド的には、例えばMACHINE GUN KELLYのようなポップ・パンクやエモがルーツにあるラッパーや、LIL PEEPやNOTHING,NOWHEREのようなエモ・トラップと呼ばれるラッパーが比較対象として上げられることが多いと思うんですけど、それについてはどう思いますか?

僕自身、純粋に彼らのファンなので、嬉しいと言うのも少し違いますけど、まったく嫌じゃないです。実際に、LIL PEEPやNOTHING,NOWHEREも、曲作りのプロセスはそれぞれあるにせよ、ソロでトラックを選んで歌やラップを乗せ配信するスタイルと、ロック・バンドのフロントマン的なイメージが両立しているという意味では、共通するところがあると思います。

-そもそもバンドを組まなかったのはなぜなんですか?

高校生のときに一度バンドを組んだんです。そこで固定した仲間と音楽をやる楽しさも自分なりには理解しつつ、同時に個人として融通を利かせなきゃいけないとか、そういう部分をできる限り削ぎ落したいとも思いました。その流れで、曲作りをひとりで始めて、今年はトラックメイカーのKMさんとふたりで作品を出すことにしたんです。だから、バンドを組んでライヴをしたい気持ちは今も強いですし、たぶん、エモ・ラッパーと呼ばれる人たちの多くも、今この瞬間、一番いい音楽を作れそうなのがソロだってだけのことなんじゃないかと思います。

-タイムリーな話題だと、MACHINE GUN KELLYのポップ・パンク・アルバム『Tickets To My Downfall』が全米ビルボード・チャートで1位を獲得したように、ロックの巻き返しや劇的な進化が、ラッパー・サイドから起こったことはすごく興味深いですし、(sic)boyさんは、日本発でそういった現象が起こるかもしれない可能性そのものであることに、すごくワクワクします。

先にも言ったように、その文脈で語られることは嫌じゃないですし理解もできます。そこで、あえてその話に乗って強気なことを言うならば、僕の場合は、そのような音楽を日本人が日本語でやっているということは強みだと思っていますし、誰にも負けられないですね。

-その日本人たるルーツはどこにありますか?

幼い頃から父がプログレッシヴ・ロックやハード・ロックが好きで、YESやKING CRIMSON、DEEP PURPLEなどがふつうに流れている環境で育ち、家族でよくライヴにも行っていたことは、当時そういう音楽の良さを理解していたかどうかとなると、プログレとかって1曲10分とかふつうにあるから"長いな"とか思ってましたし、また別の話ですけど、経験としては大きかったと思います。日本の音楽となると、中学生の頃に出会ったL'Arc~en~Cielが決定的でした。

-L'Arc~en~Cielのどんなところに惹かれたんですか?

最近改めていろんな動画を観たり作品を聴いたりして思ったのは、曲が素晴らしいことはもちろんなんですけど、視覚的なことや姿勢的なところも含めて魅力的だということ。その時々によって衣装やステージングが違うから、同じ曲でも新鮮に感じられますし、そこには並々ならぬこだわりがあると思うんです。カリスマたるを更新し続けているからこそ、僕自身今も好きでいられるし、海外でも活躍できるんじゃないかと思いますし、ラルク(L'Arc~en~Ciel)という存在から受けた影響はかなり強いです。

-海外のオルタナティヴ・ロックやポップ・パンク、エモなどからの影響ついてはどうですか?

ラルクに出会ったすぐあとくらいに、NIRVANAとかGREEN DAY、RED HOT CHILI PEPPERSなどのCDを友達と貸し借りしあっていたことが始まりで、最も大きかったのはMY CHEMICAL ROMANCEです。

-MY CHEMICAL ROMANCEはどこが魅力的だったのですか?

いわゆる"エモの"激昂するというか、静かなところと胸が張り裂けそうな感じが紙一重で成り立っているバランス感覚が、マイケミ(MY CHEMICAL ROMANCE)は飛び抜けていると思うんです。あとは、GREEN DAYの『American Idiot』とかもそうなんですけど、特にマイケミの『The Black Parade』は、アルバム自体がコンセプチュアルでミュージック・ビデオの進め方にもストーリー性があるところですね。

-癌を患った若者が死後にブラック・パレードに参加する話。

その危うくて不思議な世界観に惹かれたんですけど、キャッチーなところはめちゃくちゃキャッチーじゃないですか。当時はまだせっかちな中学生だったから、アルバムを1枚通して聴くことって、退屈と言えば退屈で、でも『The Black Parade』は何度も何度も繰り返し聴いていました。

-個人的には収録曲中でも「Cancer」が衝撃的でした。癌で死を悟った主人公の肉体的な様と心情を生々しく描いた歌詞と美しいメロディ。希望なんてひとつも見いだせないのに胸が熱くなって涙が溢れて止まらなくなるような。

おっしゃることはわかります。「Cancer」はTWENTY ONE PILOTSもカバーしていましたけど、やっぱりエモの影響を受けたバンドやアーティストにとっては教科書的な曲なのかなって、思いますね。

-では、そんなオルタナティヴ・ロックやエモとヒップホップ/トラップを融合しようと思ったきっかけはなんですか?

ヒップホップを聴くようになったのはロックよりあと、高校に入ってからなんですけど、"ロックとヒップホップをクロスオーバーさせよう"って、頭で考えると結構難しいんです。だから特に最近は、何かと何かを混ぜ合わせるという感覚はなくて、自分の好きな感じをただやっているだけというか、ロックっぽい曲を作りたいとか、ヒップホップに寄せたいとか、好評だった曲がどっち寄りだったとか、そういうことも考えていません。そんな折に、KMさんと出会って『(sic)'s sense』というEPを作ったことで、表現の幅がかなり広がりました。それまでに自分でSoundCloudにアップしていた曲はかなり荒削りだったというか、KMさんのミックスやマスタリングの作業を通すと格段に良くなるし、トラックのアイディアも本当に面白いんです。

-どんなところが面白いのですか?

例えば、僕の中では太いギター・リフにタイプ・ビートが乗っているようなイメージしか持てなかったものに対して、そこが悲しい感じのピアノになっていたり、00年代のヒップホップ的なアプローチになっていたり、本当に変幻自在。KMさんと組むことで、曲ができあがっていくプロセスの楽しさを、今まで以上に実感できました。

-そして今回のアルバム『CHAOS TAPE』の制作に至ったわけですね。

『(sic)'s sense』は僕自身もすごくいいものができた感触がありましたし、反響もいただいたんで、その後半戦って感じですね。

-曲作りはどのように行うのですか?

KMさんがトラックを作って僕がラップや歌を乗せた曲、僕のアカペラをKMさんに渡した曲やトラックから一緒に作った曲など、いろいろあります。

-先ほどGREEN DAYの『American Idiot』やMY CHEMICAL ROMANCEの『The Black Parade』といったコンセプチュアルなアルバムからの影響について話してくださいましたが、初めてのフル・アルバムということで、作品全体としてはどんなことを意識しましたか?

パンクやミクスチャー・ロック、トラップやポエトリー・リーディングのようなものまで、いろんな曲調があって、音楽的にひとくくりにするのは難しいんですけど、"東京"という言葉をひとつのジャンルとして置くとわかりやすいように思います。僕は、東京という様々なカルチャーが混在しながら時代とともに景色が移り変わりつつ、変わらないものもある土地で生まれ育ちました。だから、僕にとって東京は、心の中にうごめくひと言では割り切れないあらゆる感情と寄り添い合える存在であり、僕の趣味嗜好や心のカオスをひとつの集合体として映し出してくれているようなイメージなんです。

-そんな東京での(sic)boyさんの物語ということですか?

特に、順を追って聴いていくことで意味のある物語にすることは意識していません。作品の聴き方みたいなことを話すのはおこがましい気持ちもありますけど、家にいるときや、外を出歩くときなど、聴いてくれる人がそれぞれのシチュエーションによって順番を組み替えたり、その瞬間にハマる曲を切り取って聴いたりできることが、面白味だと思います。

-曲調の流れがいいグラデーションになっていて、様々なスタイルの曲をシームレスに聴くことができるので、気がつけば異なる時間や世界にいるような感覚になりましたし、歌詞を追ってみてもひとつの物語として成立しているように思えたのは、東京がテーマにあったからなんですね。

そうだと思います。曲順も、なんとなくしっくりくる感じくらいの感覚で、そこまで時間をかけて熟考したわけでもないですし。