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INTERVIEW

Japanese

(sic)boy

2020年11月号掲載

(sic)boy

Interviewer:TAISHI IWAMI

-1曲目から3曲目がダイレクトにロックを感じさせる曲になっています。特に1曲目の「HELL YEAH」は(sic)boyさんならではのモダンなミクスチャー感覚が躍動する曲で、ここは宣誓的な意味合いがあるのではないかと思ったのですが、いかがですか?

そうですね。「HELL YEAH」は、おっしゃったように宣誓的な意味合いで1曲目にすることは早い段階で決めていました。ギターにかなりこだわった曲で、入りはちょっとUKのインディーやオルタナティヴっぽくて、ヴァースにRED HOT CHILI PEPPERSのようなハンマリングがあって、そういう曲ってあまりないように思うんですよね。そこにクラブのノリの低音やリズムがあって、全体的には戦闘的なインパクトもありますし、頭にはぴったりなんじゃないかと。そこから3曲目の「BAKEMON(DEATH RAVE)」まではラウドなギターで統一されていて、そこがノイジーだけど意外と聴きやすくて、自分でも気に入ってるポイントです。

-2曲目の「Set me free feat.JUBEE」は90年代~00年代のラップ・メタル/ニューメタル直系の曲。(sic)boyさんがやることに違和感はないんですけど、意外と今までにはなかった曲です。

この曲はアルバムをリードする1曲になるんじゃないかと思います。フィーチャリングで入ってもらったJUBEE君は、CreativeDrugStoreでの活動も含めて気になっていたんですけど僕は面識がなくて、KMさんがこういう歪みのあるギターとラップのかけ合わせはJUBEE君がいいだろうって、繋いでくれたんです。そうですね、まさに90年代とか00年代、LIMP BIZKITのようなサウンドなんですけど、実は僕、そのあたりのシーンにはそこまで詳しくないんです。かたやJUBEE君はDragon AshやTHE MAD CAPSULE MARKETSがルーツの真ん中にあるから、書いてきてくれたヴァースや声の出し方、彼自身から発せられるグルーヴなどかなり効いていると思います。ああいうファットなラップからハイトーンのメロディって、定番と言えば定番ですけど、その中でも個性的ないいものができた自負はありますね。

-5曲目の「Heaven's Drive feat.vividboooy」を受けて、「Pink Vomit interlude」があって7曲目の「Pink Vomit feat.LEX」に繋がる。この中盤の流れは粋で痺れました。

この3曲の流れと「Pink Vomit interlude」というインタルードがあることは完全にKMさんのこだわりですね。"ここだけは譲れない"って。めちゃくちゃかっこいいですよね。

-既発の「Heaven's Drive feat.vividboooy」は(sic)boyさんの転機になった曲だと思うんですけど、いかがですか?

vividboooy君の力を借りたことも大きくて、僕のことをいろんな人たちに知ってもらえるきっかけになった曲であり、今回のアルバムを出すにあたっても、いいスタートになった曲です。ああいう明るい曲と言うとあれですけど、性格上難しいことを考え込むことも多くて、精神的な葛藤があるなかで現実逃避的なリリックが書けたことは、面白い出来事だったと思いますし、vividboooy君のラインもすごくお気に入りです。

-「Pink Vomit feat.LEX」は、都会の闇的なダークさを孕んだ曲調とタイトルのワード・センスに想像力をかき立てられました。ピンクの嘔吐物って、かなりリアルな酩酊の末期症状のようでもあり、心情や状況を表すためによく蛍光色で描かれているイメージもあります。

イメージ的には二日酔いのカオスな感じです。僕は結構お酒が好きで、吐いたらヤバい色をしたものが出てきたんだけど、もうしょうがないかって。そんなときに自分が聴きたい曲。それって、お酒をよく飲む人には共通してあることのような気もするんで、煽るように飲んで後悔しているときに聴くといいと思います(笑)。

-「Kill this feat.Only U」は、"君は君の life/俺は俺の life"と謳われているように、ここにきてようやく活路が見える希望的な曲だと感じました。

そうですね、周りの友達が就活とかしているなかで、僕は大学を辞めたんですけど、みんなとは変わらず仲良くて、自分も頑張んなきゃなって。"俺はこうだけど、お前はどう?"って、そんな気持ちになれたときに書いた曲です。

-人は人、自分は自分。間違いないんですけど、なかなかそう思えるところにまで辿り着けないじゃないですか。私自身、振り返るとかなりの時間を嫉妬や憎悪、コンプレックス、すなわち自分自身との戦いに割いてきた人生だったように思うんですけど、(sic)boyさんはどうですか?

僕もそうですよ。他人のやっていることや自分が憧れていることに対して、"なんで俺はこんなにうまくいかないんだ"って毎日のように思います。

-そこがラストの曲「Akuma Emoji」の"日々悪魔に餌やり"というフレーズと繋がったんですよね。

雑念との戦い、これはもう永遠の宿題ですよね。

-そんなご自身は醜いですか? 好きですか?

どっちとも言えないですね。でも自分を好きになれるように努力はしていますし、好きになってきたと思います。自分のスキルやリリックの世界観を突き詰めていくことで、自分のことをちゃんと見てやれるようになりましたし、最悪なときもあれば最高なときもあるけど、そこが曲や歌詞と繋がっているうちは、まぁ大丈夫な気がします。

-では、レンジを広げて、東京ひいてはこの世界についてはどう思いますか?

この作品で描いた自分や世界はちょっとマイナスな要素が強くなったと思うんですけど、それも含めて面白いと思います。でも、ちょっと話はズレますけど、"エモ"という言葉には思うところがあって......。

-どういうことですか?

僕にとって"エモ"って、なんでも"エモい"で片づけられる便利な言葉ではないんです。単に嬉しいとか楽しいとか、そういうことじゃなくて、繊細な部分とかなよなよしたところとか、そういう曖昧な部分の核というか、そこから自分の表現力を広げてくれる起点のようなもの。だからなんでもエモで片づけちゃうと本末転倒な気がして。またマイケミの話になりますけど、彼らもそういう感情があって「Cancer」のような死を覚悟する曲を作り、死後の世界を想像したアルバムを完成させたんだと思うんです。ちょっと重い題材を、時には皮肉を交えて歌ったり、時にはそれと向き合う自分を鼓舞したりしたからこそ、素晴らしい作品が生まれた。だから、僕が本来エモだと思っている音楽やそこにある概念を取り戻せるようにはしたいですね。

-となると、今のメイン・ストリームに対するカウンター的な指針もあるんですか?

いえ、ひっくり返したいとか塗り替えたいとか、そういう気持ちはないですね。メイン・ストリームに対するカウンター、すなわち売れる売れないとか数字的なことも大切だとは思いますけど、そこは結果的なこととしてそうなるのもひとつカッコいいこと、くらいの感覚です。とか言ってますけど、まだそこまでの現象を起こせるだけの存在にはなれていないと思いますし、できるだけ"満足"という感情に近づきたいだけですね。そのうえで、いろいろ試行錯誤して継続していれば、何かしらいい未来があるように思います。

-(sic)boyさんは、ラッパーなのか、ロックのフロントマンなのか、肩書きが難しいと思うんですけど、これからはどうなっていきたいと思いますか?

肩書きがわからないと言われるのは嬉しいです。いろんな顔があって、そのなかで僕は何者なのか、答えを無理に探す必要はないですし、やりたいことをやればいい。まぁ、世間的には"ラッパーの(sic)boy"だと思うんですけど、特にそれに対してどうこう不快に思うこともないです。それは僕の周りのラッパーと呼ばれる人たちにも当てはまることで、リリックとかラップのスキルだけではなく、もっとトータルでカッコいいことも、いい音楽を作っていることも知ってるんで、それぞれが思う世界観を作り上げていけばいいんだと思います。そんな人たちを指す、何か適切な新しい言葉があればいいですけどね。

-KMさんとの完全な共作は今回でひと区切りになると聞いていますが、音楽的にはこの先どんなことをしたいですか?

KMさんとは今後も一緒に作っていくのですが、ふたり名義でのリリースをいったんこのタイミングで終わりにしようかなと思ってます。僕はバンドの音楽がルーツなので、ライヴも含めてバンド・サウンドをもっと打ち出したいと思っています。でも、ヒップホップやトラップも、同じように大好きだから、そこからは逃げたくないというか、まさに今、やるたびに楽しくなってきている最中。バンド編成でやっていくことは視野に入れつつ、今の"ギターの入ったロック色の強い"みたいなイメージに縛られずに、ヒップホップももっと追求していきたいです。例えば、今はわりとパンクのように展開のある曲が多いんですけど、もっとミニマルな曲にも目を向けるとか、やりたいことはたくさんあります。