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INTERVIEW

Japanese

Mr.Nuts

2020年03月号掲載

Mr.Nuts

Member:ヤハラシュン(Vo/Gt) ヤマギシダイキ(Ba) 館山 翔吾(Dr)

Interviewer:沖 さやこ

札幌発の3ピース・バンド Mr.Nutsが、2年ぶりの新作を完成させた。この期間でバンドは様々なライヴ活動を重ねるだけでなく、様々な制作を試みていたという。そのなかでソングライターであるヤハラシュンが再確認した、"音楽を作る意味"や"歌いたいこと"――『なみだ e.p』はその結晶とも言っていいだろう。より歌詞の世界観を精密に表現することに注力したサウンドは、バンドに新しい風をもたらした。充実の3曲について、メンバー全員に訊く。

『愛しき日々よ』(1stミニ・アルバム)から2年ぶりのリリースですが、まず、あの作品がバンドにとってどのような影響を及ぼしたのか教えていただけますか?

ヤマギシ:僕にとっては初のレコーディング経験で、バンドにとって初の全国流通盤というのもあって、Mr.Nutsの音楽が円盤になって全国へ飛び立っていくことにわくわくしました。ここから始まっていくんだなと実感しましたね。

館山:その前に出した『20歳』(2017年リリースの1st EP)は自分たちの未熟さも含めてパッケージした作品でしたけど、『愛しき日々よ』はそこから少し大人になって。今の僕らの土台を構築し始められたアルバムだったと思います。

ヤハラ:バンドとしても人間としても、1段階大人にしてくれたアルバムだなと感じてます。あの作品を作っていたのが21歳のとき、バンドを始めてから3年くらい経ったあたりで、音楽を人前で演奏する、CDを作って発信するということがどういうことなのか、やっと少しずつわかってきた頃でもあって。好きなことをやるためには、きれいで楽しいことだけではなく、つらいこともあったりするのかなと思うようにもなったんです。そういう気持ちが詰め込まれた作品にもなりましたね。

-たしかに、複雑な感情が多く含まれた作品でもありましたしね。

ヤハラ:そうですね。結局"人はひとりなんだ"みたいに。でも、『愛しき日々よ』を作ったことで"それでいいんだな"と思えるようにもなった。全曲が気持ちの清算みたいな曲だったと思います。

-今作『なみだ e.p』は『愛しき日々よ』とはまた趣向が違いますよね。1曲目の「病室の蝉」と2曲目「手紙」という2曲で描かれているひとつのストーリーに、Mr.Nutsが3曲目の「なみだ」という主題歌を書き下ろしたみたいな印象があって。

ヤハラ:あぁ、なるほど。

-制作にどんな背景があるのかなと思いまして。

ヤハラ:まず、そもそもの話になるんですけど、この2年間、僕らもリリースに備えていろんな方向性の曲を作ってきてたんです。その中には歌詞の意味は度外視してノリの良さに振り切った曲とかもあったんですよね。そうやって制作していくうちに、自分が曲作りで重きを置く点は歌詞なんだなというのを改めて理解したんです。意味なんてどうでもいい歌詞の曲を楽しめない自分がいたんですよね。

-それはソングライターとして重要な気づきでは。

ヤハラ:時間はかかってしまいましたけど、そうですね。映画を観終わったあとや小説を読み終わったあと、心の中には何かメッセージが残ると思うんです。そういう音楽をやっているときに充実してるなと感じることができて。それを再確認してからできたのが、「病室の蝉」と「手紙」です。やっぱり自分が歌いたいことは"命"や"生きていく気持ち"で。それを心に残すためにどうするべきか? と考えて出てきたのが『なみだ e.p』ですね。

-「病室の蝉」と「手紙」で描かれているストーリーに、ヤハラさんの伝えたい想いが込められていると。『愛しき日々よ』の「いってらっしゃい」でも、ヤハラさんは死を彷彿とさせる出来事を歌っていましたよね。

ヤハラ:命の終わりは絶対誰もが経験することだから、それを曲にすることはとても自然だし、当たり前くらいの気持ちだったんです。でも、"重いね"と言われることもあって。僕としては"そんなに......?"って感じなんですよ。とは言っても、軽く受け止められるものではないし、何より"重い"ならばそういうものは歌にするべきだと思うんです。自分の人生や生きていく過程を歌っている人間にとって避けられるテーマではないし、歌わなくてはいけないことだと考えています。

-なるほど。

ヤハラ:自分の身近な人の命が終わりを迎えた瞬間、何も感じない人はいないと思うんです。僕は「病室の蝉」と「手紙」で描いたストーリーを経験していないですけど、聴いた人がこういうストーリーに自分を投影して自分の生活を見つめ直したり、物語の意味を考えたり、感じることはあるんじゃないかなと。このストーリーに対する自分なりの結論はあるんですけど、それを伝えるのが目的ではないので、あえて具体的に描かないようにしてますね。

-聴いた人それぞれが、この2曲のストーリーに対して考えを深めてもらえたらということですね。

ヤハラ:映画も観た人によって印象に残るシーンや感想って違いますもんね。音楽もそうあってほしいと思います。