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INTERVIEW

Japanese

Rei

2019年11月号掲載

Rei

Interviewer:石角 友香

卓越したプレイヤーは鳴ってない音を想像させる力がある。今回、そこに挑戦してみたかったんです


-そして、サウンド・プロダクション的に面白かったのが「DANCE DANCE」で。歌とギターとタップ・ダンスの音、このアイディアはどこから出てきたんでしょうか。

私、すごくリスナーさんの想像力を信じたいってところがありまして、卓越したプレイヤーやミュージシャンというのは、鳴ってない音をリスナーに想像させるっていう力があると思うんです。ギターだけ弾いているんだけど、ベースとかドラムが聴こえてくるとかっていうのを想像力で勝手に埋めてくれる場合もある。でも、それをできるのは素晴らしいプレイヤーだから。ちょっとそこに挑戦してみたくて。想像力でアレンジが完成されるアレンジになっています。あと、今年の夏に初めてスペインのジャズ・フェスに出たんですけど、そこでフラメンコを生で観る機会があったんです。振付の中で手拍子とか足踏みがあって、それが自然と音楽になってるのが素敵な光景だったので、"DANCE DANCE"っていうタイトルということもあって、ダンスしてる人の情景が浮かぶような楽器を入れたいということで、タップ・ダンスの音をリズム・セクションに見立てて録音しました。

-たしかにフラメンコって手拍子とかも含めて、すごく音が鳴ってますよね。

そうなんです。すごくにぎやかで。実際は鳴ってる楽器は少ないんですけど、すごくにぎやかな印象が得られますよね。

-ところでスペインのフェスはどんなフェスだったんですか?

"Heineken Jazzaldia"っていう、54年の歴史を誇るサンセバスチャンという海辺の街で開催されているジャズ・フェスです。過去にCHICK COREAとかB.B. KINGとかMiles Davisとか、そういう方々が歴代で出演してきたフェスで、3日間ライヴをするために行ってきました。

-本格的なジャズ・フェスなんですね。ところで最近、Reiさんは田島貴男(ORIGINAL LOVE)さんとの共演もされていて。田島さんの"ひとりソウルツアー"もひとりと思えない演奏で。

そうですねぇ(笑)。

-プレイヤーとしてのルーツはジャズやブルースの人ではないけれど。

そうですね。最近すごくジャズのギターの勉強とかをされていて、先輩なのに本当に自分をアップデートしていく感じがすごくかっこいいです。弾き語りの世界を広げてる方だなと思います。弾き語りだから地味なんじゃないかという固定観念にとらわれがちですけど、本当は究極の形というか、いいシェフにいい卵とバターと塩を渡したらどれだけのことができるか、私たち素人にできないことができるわけですから、そういう人ですね、私にとって。

-奇しくも料理の例えが出ましたけど、最後の「Bon Appetite!」は"召し上がれ!"という意味です。最初からアップルパイをモチーフにするアイディアがあったんですか?

先に曲がありました。ちょっと硬派な歌詞を乗せるのは予定調和かなと思って、Aメロのリズムが結構淡々としてたので、レシピの材料を読み上げるような感じで歌詞を乗っけたら面白いかなと思いまして。

-たぶん、この歌詞の通りでいくとできると思うんですけど(笑)。

はい、できます(笑)。恋心とアップルパイを重ね合わせて、書きました。

-この曲が最後に来ることで、ちょっとピリッとする印象があります。

そうですね。ガツンと締める感じで。

-さらに「Little Heart」の歌詞が素敵です。"自分の純粋さを守るためには?"という内容で。

人のことを大切にするには自分のことを大切にするところから始まっていくと思います。様々なしがらみの中で自分を優先順位的に、優先できないシチュエーションもあると思うんですけど、そこは何を言われようと自分のことを愛してあげるっていうことが、最終的には人を愛することとイコールなんじゃないかなと思います。

-Reiさんのヴォーカルと演奏がすごい熱量のはずなのに、するっと入ってくるんですよ。

ありがとうございます。この「Little Heart」はアルバムの中では低カロな曲です(笑)。想いもこもっているけど、気軽に聴けるサウンドを心掛けました。

-アレンジ面でもいろんなことが試せたアルバムなんじゃないですか?

はい。よく絵描きの方がおっしゃるんですけど、絵が上手い人っていうのは濃淡の幅が広いって言うんですよ。一番濃い黒から白までちゃんと使って、例えば白黒の絵を描くとか。下手な人は60パーセントのグレーと80パーセントのグレーの間で彷徨ってるって。音楽の中でも極端に、その編成で一番ミニマルなところからマックスなところまで使い分けられたらいいなっていうのは思って、アレンジしています。

-Reiさんの頭の中で、アレンジ脳と、プレイヤーとしての脳、言葉を紡ぐ人としての脳って、今すごく自由になってきた感覚がありますか?

いえ、まったく。言葉の不自由さはずーっと感じています。帰国子女で言葉に関するコンプレックスが強いんです。だからこそ執着があって、SNSのツイートひとつでもすごく精査してからします。言葉は毛布にもなるし凶器にもなると思ってるので、もっと追求したいし、慎重に扱わないと、と思いますね。自分の語彙のなさにがっかりすることがあるから(苦笑)。"あ、これはほんとに伝わってないな"とか"勘違いされてるな"とか、普段の会話の中でも当たり前にありますけど、歌の中でもあるので、そういう部分はもっと勉強したいなと思います。

-めちゃくちゃボキャブラリーあると思いますよ。このインタビューだって、今のところ曖昧な表現ないですよ?

それは良かったです! 余談ですけど、私、おしゃべりというか口語を苦手としていて、書き言葉は何回も精査できるから。最近は原稿になったものを想像しながら喋るようにして、ちょっとマシになりました(笑)。

-(笑)ところで12月から1月にかけて開催されるアコースティック・ライヴ[Rei Acoustic Tour "Mahogany Girl" 2019-2020]は全公演ソールド・アウトしましたね。

はい。おかげさまで。そのあと、バンド編成でのリリース・ツアー[Rei Release Tour 2020 "7th Note"]が控えています。『SEVEN』がパワフルで偏りのある作品になったと思うので、そういう部分を十二分に表現するライヴにしたいと思っています。で、その一方でライヴの醍醐味ってCDとの違いをどういうふうに魅力的に見せていくかというところだと思うので、"あ、この曲、こういうふうに料理してきたんだ"というところを見せたりとか、逆にものすごく聴き込んできた曲を一緒に歌ったりとか、今回もたくさん取り入れられたらいいなと思ってます。