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INTERVIEW

Japanese

リリィ、さよなら。

2019年08月号掲載

リリィ、さよなら。

Member:ヒロキ(Vo/Pf/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

-前作でkoma'nさんが編曲した「オーバーラップ」と「素晴らしい旅」も面白いアレンジでしたが、今作はさらにその手腕が発揮されています。「Lovin' you?」なんて特に、男性ヴォーカル・グループが歌いそうなファンク・テイストのポップスですし。

これ、本当にレコーディングの最後にできあがった曲なんです(笑)。実は今作を作ると決めたとき、レコーディングできる曲がなかったんですよ。そこから曲作りを始めたんですけど、なかなか難航しまして......。このアルバムを作り始めた頃、"自分はこういう人間なんだ"や"これしかできないんだ"と思った瞬間に、"自分ってこんなにつまらない人間だったんだ"と愕然としてしまった。

-迷いの中からスタートした制作だったんですね。

リリィ(リリィ、さよなら。)らしい美しいバラードになるリード曲「その手にふれたあの日から」はあるけれど、アルバム曲はないという状況だったんです。リズミカルな曲が、昔のストックの中にあったリリィらしいロック・チューンしかなかった。これから作っても間に合わないからこの曲かなー......という空気になったレコーディングの帰りにkoma'n君と飲みにいって、そこでkoma'n君が"いつも通りメロがきれいで、エッジの効いたリリィのロックをストックから収録することはできるよ。俺もそれをちゃんと形にする。でも、もうそろそろ、ひと皮剥けよう?"、"曲ができなくてストックにあるいつも通りのロックを収録するって、正直逃げだと思わない? 自分の限界を超えた曲を書いてみなよ!"って......。

-(笑)同世代の年下の同業者が図星を突いたと。

ほんとそうで! 俺は自分が好きなことしかしたくないし、それは正しいことだと思うけど、それだけをやっていたらアーティストとして頭打ちになってしまう――それが想像できてしまったんです。僕の大好きなMr.Childrenの桜井和寿(Vo/Gt)さんや、RADWIMPSの野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)さんといった日本の音楽を支えてきた方々は、本人の一番いいところが出た看板となる世界観も持っていて、なおかつアルバムの中にはどろどろとした曲や飛び道具を入れるんですよ。おまけにそれがどちらも素晴らしいし、だからこそ"「Tomorrow never knows」(Mr.Children)最高!"って思ったりするんですよね......。それがようやくわかった!

-ヒロキさんも頭では、"やらなきゃ、どうにかしなきゃ"とずっと思っていたことだったでしょうしね。

これまでディレクターさんたちからも、"もっとこんなチャレンジしてみたら?"と言われてたし、このままじゃいけないよな......とずっと思ってたんです。今までやってきたことだけでは、これ以上の場所には行けないことも、広がらないこともなんとなくわかっていた。でも怠惰癖が出て、結局挑戦しないままいつかやろう、いつかやろうとここまできてしまったので......。それをkoma'n君というプライベートでもすごく仲のいい友達で、音楽家としても信頼し合えている波長の合う人が言ってくれたから、響いたんだと感じます。"あちゃ~!"って思いました(苦笑)。

-ははは(笑)。ヒロキさんはすごく面白いし個性的なキャラクターなのに、そういうところをソングライティングには出さなかったですよね。でも「Lovin' you?」はそういうユニークな面や毒気が見えました。

"感動できるものでないと、一生懸命書かないと!"と考えていたところに、koma'n君からも"きれいなことばかり言わなくてもいいと思うよ"と言ってもらって(笑)、初めてアルバム然とした曲を書けました。しかもノリノリでキーボードを弾く、というか叩くくらいのテンションで作れたんです。そしたら歌詞も"思いついたことをパッと書こう"というモードになって――今までの縦ノリで四つ打ちのリリィにはないような、横ノリのファンクな曲ができました。おかげで"音楽楽しい~!"ってモードになりましたね(笑)。音楽が好きだという気持ちを再確認したり、キープしたりするのは大事ですね。

-「コールドスリープ」もバロック調のパイプ・オルガンの音色や、豊かすぎる讃美歌風のコーラスが印象的な斬新なバラードで、リリィ、さよなら。にとって新機軸ではないでしょうか。

コーラスのリバーブ、じゃぶじゃぶですよね(笑)! たっくさんコーラス歌って重ねました。「コールドスリープ」は超お気に入りの曲なんです。僕はファンタジー要素の強いSF調の歌詞が大好きで、だから過去にも「フラッシュバック」(2015年リリースの2ndオリジナル・アルバム『ハッピーエンドで会いましょう』収録曲)や「シアワセな機械」(2016年リリースの3rdオリジナル・アルバム『どうして君は世界で一人』収録曲)、「ハンドメイド」(『愛する以外になかったからさ』収録曲)という曲を作ってきていて。「コールドスリープ」は今作のリリィのSFシリーズ曲なんですよね。好きな人がいなくなってしまった主人公が、長い眠りについて目が覚めたら、そこはものすごく遠い未来で。目の前には好きな人が昔のままの見た目でいるんだけど、それは本人ではなくロボット的なもので――そういうストーリーが頭の中にずっとあったんです。

-この曲で描かれている"あなた"は、その好きな人とロボットが重なっていると。

そのロボットは、好きな人と同じように名前を呼んでくれたり、涙をぬぐってくれたりするけれど、思い出してしまうのは好きな人。だから"遠いあの日と同じように"という締めくくりなんです。"どうしてあなたはあなたなの?"みたいなことを突き詰めていった結果、"壮大な時の中で、やっぱりあなたはあなたしかいなかった"、"あなた以外誰もあなたにはなれない"ということが裏テーマになっていったというか。だからサウンドも教会的で生死を想起させるものや、祈りのような世界観になったかなと思っています。イチ生命に対する慈しみを曲にしたのは初めてです。

-自分の感情を吐き出すような曲を書いてきたヒロキさんが、大事な人に捧げる曲を書いたんですね。

そう! そういう曲を書けるようになったんです! "祈り"を覚えました(笑)。

-ギター・ソロに挑戦した曲があるとお聞きしましたが、それはどの曲ですか?

自分の引き出しを増やしたいなということで、Amazon購入者特典の「Good morning beautiful」は、初めて自分でギターのメイン・フレーズをレコーディングしたんです。やってみていろいろ気づくことがありました。ギター難しい(笑)! この曲が書けたのは、「Lovin' you?」を作ったことで、"今の俺はなんでも書ける!"というゾーンに入ったからなんです(笑)。配信が当たり前の世の中で、CDを買ってくださった人が特別感を得てくれるようなことをしたいと考えると、古いストックを引っ張り出すのではなく、ほかほかの新曲を入れたかったんですよね。

-おっ、かっこいい!

(笑)ディレクターさんとも"楽曲の鮮度は大事だ"という話をしていたんです。だから実験的な意味で、この曲はあえてレコーディング当日に書いたんですよね。朝に目覚ましをセットして、午前中書いたほっかほかの新曲をすぐ録音してみたかった。一方TOWER RECORDS特典の「猫になる」は、二十歳くらいの頃に作った、念のこもったひりひりした曲で。特典だけでも新旧の対比があって、聴き応えのあるものになりました。

-令和一発目リリース、リリィ、さよなら。として積み重ねてきたキャリア、20代のカウントダウン、全部がぶつかったからこそいろんなことにチャレンジできたのかもしれないですね。

うんうん。変わるなら今だったんだと思います。芯の部分は変わらないけど、新しいこともどんどんチャレンジしようと思うんです。これからもっといろんな曲を書いていかなければいけないし、書いていくと思うので、一番のメインとなるリリィっぽさは残しつつも、メタモルフォーゼしていくわよ、変わるわよ! というアルバムになったと思います。ハニーフラッシュですね!

-来年はデビュー5周年ですし、そろそろフル・アルバムもお待ちしております(笑)。

何よりもファンのみなさんから、それめちゃくちゃ言われるんです! みんな痺れを切らしてて(笑)! 今まではとにかく作品をコンスタントにたくさん出すことに必死だったので、次こそは! 次こそは1stフル・アルバムを出したい! "1stフル・アルバム"って響き、すごくフレッシュでいいですよね......心はいつでもフレッシュですけど! ようやくフリーでの活動にも慣れてきたので、今後はもっといろんな土地にライヴで行けるようにも頑張りたい。まだまだポジティヴな気持ちで音楽活動を続けられるなと思っています。