Japanese
Sori Sawada
2019年03月号掲載
Interviewer:蜂須賀 ちなみ
-そういう考え方なんですね。ということは、ここで描かれている物語は実体験ではないのでしょうか。
そうですね。僕自身は全然恋愛脳ではなくて、むしろひとりでいるのが好きな人間なんですよ。"ご自身の経験に基づいてるんですか?"みたいなことはよく聞かれるんですけど、でも逆に、こういう経験をしてる人間はこういう歌詞を書かないんだろうなぁと。俯瞰で見てるから書けるんだと思うんです。
-なるほど。今回の作品には女性目線の曲も男性目線の曲もありますし、1曲の中にその両方が共存してる曲もありますね。女性目線の歌詞と男性目線の歌詞、どちらが書きやすいですか?
僕、女性目線の方が書きやすいんですよね。自分で言うのもあれなんですけど、恋愛脳ではないにしても、恋愛観自体はかなり女性寄りなんですよ。
-どういうところが?
例えば、女性の方が相手の趣味にめちゃくちゃ影響されません?
-彼氏の影響でタバコを吸い始めたりとか。
まさにそれです。僕もそうなんですよ。
-先ほどまでのお話を聞いてるかぎりだと、完全にそうですよね。野球部の仲間にバカにされたくないからボカロの話は伏せておくし、リスナーからの需要を鑑みてハッピー・エンドには描かない。そしてこういうインタビューの場では、初対面の人とトラブルなく会話するためにカラッと明るい口調で話すという。
これは野球部で身につけた外行きモードですね。野球部って無条件にチヤホヤされるじゃないですか。そこでおちゃらけキャラとしてふざければ、みんなに好いてもらえたというか。
-たしかに、そこで斜に構えたりカッコつけたりするような振る舞いをしたら、チヤホヤされなかった側の人から変な恨みを買う恐れもあるかもしれません。
取り繕うのには慣れてしまったけど、偽ってるわけではないんです。こういうことを言うと"アーティストとして芯がない"って言われるかもしれないんですけど、僕はそうやって生きてきてるので。好きな人の好きなものは好きだし、周りの環境が自分を作ってくれるんです。だから"黙ってついてこい"みたいな歌詞を書ける人はすごいなぁと。その自信はどこから来てるんだろう? って思っちゃいます。
-ちなみに、Sawadaさんの書く歌詞は体験談ではないのだとしたら、何か参考にしてるものが他にあるんですか?
大学のとき、男2人、女19人みたいなクラスだったんですよ。そしたら、その人たち(女性)から見たら人畜無害っぽく見えたというか、"こいつは手を出してこないだろう"みたいな感じがあったみたいで。そのころ、恋愛相談をされたり、失恋したときのサンドバッグ代わりにされることが多かったんですよね。
-それって一番損をする役回りじゃないですか。
いや、僕はそれが好きなんですよ。そういう話を聞いてると、自分も悲しくなってくるじゃないですか。"悲しい"っていう感情を貰って、僕も一緒に落ち込んで。僕はそれをうまく楽曲に流すことができるっていうメリットがあるから、ありがたく頂戴してたところが正直あって。それで聞き役に徹することが結構多いですね。
-それは面白いですね。
だからやっぱり生々しい感情を貰ったときが一番(曲を書くのが)捗りますね。"別れちゃったけど友達に戻ることができて良かった"みたいな話を聞いても"そういうのじゃない"って思っちゃうというか。"次に会ったときは刺してやる!"みたいな話を聞くと"それそれ!"、"人間ってそれよ!"っていう気持ちになるんですよ。恋愛の歌詞でリアリティを出すためには実体験が必要なんですけど、僕自身は恋愛に対して前向きじゃないから、どうしても齟齬が生まれちゃう。それを埋めるために、人からちょっとずつ恋愛の話を頂戴してるんです。
-実体験に基づいた曲を書いてみようと思ったことはないんですか?
実は2年ぐらい前に失恋したのですが、そのエネルギーでアルバム(2016年リリースの『フラワーガール』)を1枚作れたんですよ。どの曲も会心の出来で、今でも名盤と思える作品なんです。それを経験したときに、失恋のエネルギーのすごさに気づいたんですよね。だから結局、自分で失恋するのが一番効率的なんですよ。でもそのためにはそもそも恋愛をしなきゃいけないじゃないですか。
-すればいいじゃないですか。
全然前向きになれなくて......。まず相手と出会うために、街コンに行ったりマッチング・アプリをやったり、自発的に動くしかないじゃないですか。それが面倒くさいというか。恋愛は面倒くさいけど失恋はしたい。こういう話を仲間内ですると、もう"ビジネス失恋"みたいなものがあればいいのにねっていう話になるんですけど。
-例えば、カタログの中から自分好みのお相手を選択したら、その人とデートをすることができて――
それで、ある程度仲良くなった段階で遠ざかっていくんです。すごくいいと思いません?
-嫌ですよ(笑)。クリエイターとしては効率的かもしれませんけど、それ以前に、人間として傷ついてしまいます。
でも、曲を作るためには落ち込む必要があるから失恋はしたいんですよ。
-そもそも、その前提が変わることってないんですかね。それこそ自分がフロントマンとして前に出ていくような活動をし始めて、Sawadaさんの歌う歌を求める人が増えるようになったら、自信がつくかもしれないし、雄々しい歌詞を書けるようになるかもしれないですよ。
ならないと思いますね~。いや、なりたいんですよ。(歌詞の)一人称を男性にしようとも、結局、女々しい女だったのが女々しい男になるだけで。ライヴのことを考えたら雄々しい曲をやれたらカッコいいなと思うし、そういうのを書きたいとは思うんですけど、どうしても書くことができない。だからきっと、僕は底なしに女々しいんだと思います。
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