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INTERVIEW

Japanese

セックスマシーン

2017年02月号掲載

セックスマシーン

Member:森田 剛史(Vo/Key)

Interviewer:山口 智男

"人類ゲスト・ヴォーカル化"を着々と進める神戸の4人組、セックスマシーンが5thアルバム『はじまっている。』をリリース。森田剛史の手痛い失恋から制作が始まったことを、まず笑ってもらおうという節はあるものの(?)、できあがったアルバムそのものは、バンドの持ち味のひとつであるけれんみに頼らず、いい歌とまっすぐなバンド・サウンドで勝負する、とても聴き応えあるものになっている。聞けば、制作の過程で詞曲共に精度を高めながらバンドは新境地にも挑戦したという。そんな新作を、筆者は呼ぶことをためらわない。

-新しいアルバム、とても良かったです。正直言うと、1回目はそうでもなかったんですけど、何回か聴いていくうちにどんどん良くなっていって(笑)。

うわ、良かった。嬉しいな。自分たちでも地味な曲が多いかなと思ったんですよ。

-まっすぐな作品ですよね。けれんみがさらに薄れてきたせいか、みなさんが根は真面目なんだってことが赤裸々に――

出ちゃいましたか(笑)、真面目っぽい感じが。遊び心は入れておきたいと常々、思っているんですけど、歌詞の面で個人的なことを歌うんだってことにこだわるのをやめたというか。やっぱり歌とか歌詞とかってコミュニケーションですから、人間と人間を橋渡しするものなんです。それで、この1年ぐらいわりと和歌とかを勉強するようにしてまして。ツアーの移動中、ヒマなので、百人一首を順番に読んでいって、解釈するみたいなことをやっているんですよ。そうすると、平安時代から連綿と続いているものの流れのうえに自分もいるんであれば、そういうところに対しても恥ずかしくないように歌詞として完成させなきゃいけない。新旧問わずに、この人の歌詞はすごくいいなと自分が思ったら、それに対して素直に、もっと吸収できる部分はないかなと30歳を超えてから結構考えてまして。結果、ギャグでいっぱい詰め込んだりするところはあるんですけど、言葉の数は減らした方が、わかりやすくていいんじゃないかと考えるようになったんです。当たり前のことと言えば当たり前なんですけど、わかる人だけがわかればいいではなくて、ひとりでも多くの人にこのイメージを伝えるためのものだからという努力というか、完成度のハードルを設定するようになったと思います。昔はスタンダードであってたまるもんかという気持ちがあって、歌詞もパーソナルなことによりこだわっていこうと考えていたんですけど、歌単体として、自分の手を離れて、どこかの誰かが歌ったときに、それが意味を成すものにしなきゃいけない......したいと思うようになったのが一番の違いかなと思います。

-今回のアルバムは森田さんが7年付き合っていた彼女にフラれたことをきっかけに制作が始まったそうですが......。

そうなんです! 青天の霹靂でした。それが昨年の2月。すごく打ちのめされて、そこからいつまでかな、9月ぐらいまで精神状態は良くなかったですね。だから、そのときのことがきっかけでできた曲もいくつか入ってます。手放しで明るいものでもないんですけど、打ちのめされた人間が立ち直っていくまでの部分がリアルタイムで入っているかなって感じはあります。

-ただ、パーソナルなものよりもスタンダードなものを目指すようになったというさっきのお話を考えると、今回はその個人的な体験を表現するにあたって、個人的な体験を普遍的な表現にする作業があったわけですか?

あったわけなんですよ。それにめちゃめちゃ苦労しました。失恋した直後から、"曲ネタいっぱいあるからアルバム作ろう"ってメンバーに言って、"わかった。やろうな"って言ってもらって(笑)、スタジオに入り始めたんですけど。この間、うちのベースの日野(亮/Ba/Key/Cho)が言うたんですけど、"あのときはどうしようかと思いましたよ"と(笑)。"週ごとに持ってくる曲、持ってくる曲、本当に暗い曲ばかりで、これどないなってしまうんやろ? どこに行ってしまうんやろ?"というふうに思ってたそうです(笑)。でも、どうしても呪詛の言葉というか、自分が感じたまま出そうとすると、呪いの呪文になってしまうんです(笑)。それはポップスになっていないものだった。さっき言ったように普遍的な歌にしようとは思っていたので、"これじゃダメだ。人に聴かせたって、どんな気持ちにさせたいんだ"って思いました。そこから......例えば「たったひとつの冴えないやりかた」(Track.3)だったら、君に恋し始めたときのことを思い出していた方がラクやということを書いていて。ずんずんずんと暗いことを言いながら呪いの深さを伝えるみたいなものになりそうなところを、ちょっと待て! とぐっと押しとどめて、もっと一瞬の感情にしてしまおう、と。そこで曲の方向性が転換して、シャッフル・ビートで、少しラクになった瞬間を......その背景にあるものは、それを想像させる言葉や場面を提示するだけで、メイン・テーマではそれだけを歌えばいいと考え、最終的には悲しいことも多くなってしまったけれども、出会ったときのことは良かったとしか言わないことに決めて、そこから先は呪い続けることをやめたんです。「別れの合図」(Track.6)も最初、ギターの弾き語りでメンバーに聴かせたときは、"このままやとアカンな"となったので、タイムスパンを短くして、何かをなくした瞬間だけを描くことにしました。それで、電車が離れていく、逆の立場で見送った人もいると思うんですけど、そういう情景だけを描くというふうに縮めていきました。そこでどんなことを感じるかは聴いた人それぞれに、どこまでも深くしていっていただけたらいいと思うんですけど、そんなふうに僕自身のストーリーの中の一瞬だけを端的に表現することで変わっていけたかなという感じはします。

-じゃあ、「悲しくて眠りたい」(Track.8)もそういう作業があった、と?

あれも言葉をだいぶ減らしました。ぶっちゃけると、裏切られたと言うよりも自尊心を傷つけられたと思うんですよ。ライヴの移動中、僕だけ起きていたとき、もう思い出すだけでふらふらするぐらい腹が立ってきて、"今、こういうことを考えてしまってるねん"と起きてきオガタ(ケン/Dr/Key/Cho)に言うたら、"森田君、それは人殺しの第一歩だから今すぐそれを考えるのはやめなさい"と言われて(笑)。夜中に腹が立って目が覚めることもあったんですけど、それを人に見せても仕方ない。僕がその気持ちを処理していくのを手伝ってくれるのは友人であり、バンドのメンバーであって、この経験や自分の心に起こった波紋を曲にするのは、そういうところまで昇華させてからなのかなって思ったんですけど、丑の刻参りのような曲しかできなかったときに変化のきっかけを与えてくれた出来事がありまして。このままじゃアカンなと思ってたとき、ガガガSPのギターの山本(聡)君に"行き詰まっているんだ。男が立ち上がって、先を見据えることに関しては、「新世界へ」(Track.2)という曲でひとつ達成感があったから、それと同じような曲を作るのも違うし"と相談したら、"君はもっと端的でええ"と言ってもらえまして。端的と言っても、必ずしも「サルでもわかるラブソング」(2005年リリースの1stアルバム『ふられ気分のロックンロール』収録曲)の"おれ、おまえ、好き!"のような究極のひと言である必要はないんじゃないか。もっと状況が限定的であっても、そういう状況に人が陥ったときに、それをたったひと言で説明しきるものであれば、それは何かを経験したうえで自分の中に取り入れた場面なんだから、"森田君の中の一場面を歌ったらいいんじゃないの"ということを言われて、なるほどねと目から鱗で、その3日後ぐらいには「始まってんぞ」(Track.1)ができて、そこから言いたいことを削ぎ落としていったら、わりとポンポンポンと進んでいったんですよ。

-「始まってんぞ」、いいですよね。何が始まっているのかわからないけど、とにかく何かが始まっているっていう(笑)。そのあと、様々な経験を経て、最後は「胡蝶の夢」(Track.10)で本当の旅立ちが始まるみたいなストーリーがあるようなところも良かったです。

曲順は結構悩みました。前のシングル(2016年リリース)の『新世界へ』はシングルの表題曲になりえるものを意識して3曲作ったんですけど、今回は、自分たちがやりたい曲調や好きな曲をどんどん足していくみたいな感じで作っていったので、いわゆるシングルっぽい曲はひょっとしたら少ないかもしれない。だから、並べるときはライヴを意識して、このアルバムを1曲目から再現するライヴがあるとしたらと考えて、こういう順番になりました。