Japanese
Qaijff
2016年12月号掲載
Member:森 彩乃(Vo/Pf) 内田 旭彦(Ba/Cho/Prog) 三輪 幸宏(Dr)
Interviewer:沖 さやこ
-ははは。レゲエ調になる箇所もありますし、いろんなアイディアがふんだんに盛り込まれていますね。"ポップミュージック"という言葉もシンボリックです。
内田:僕はデモを結構作り込んじゃうんですけど、最近はそれが良くも悪くもあるなと思うんです。だからちょっと自分の中で"余白"みたいなものを作るようにしていて。そのあとみんなで、スタジオでコミュニケーションを取るなかで生まれたアレンジがツーバスだったり、レゲエの音だったりするので、最初に描いた青写真から変わってるんですよ。昔の俺にとっては、それが"ちゃんとしたデモを作れなかった、何をしていたんだろう"という良くないことだったんです。でも今は、バンドで音楽を作る以上はそういうことがバンドのクリエイティヴィティというか、醍醐味かなと思っていて。「universe」はそういう余白が多かったのかな、と思いますね。歌詞はとにかく僕のポップスに対する愛を書きました(笑)。今は憂鬱な気持ちを抱えているとしても、それをろ過してポジティヴなものを書きたいなと思っていて。僕発信のただの憂鬱が、音楽を通じてお客さんにとっての希望になることがポップスのいいところ、無限大、宇宙みたいなところだなと思っていて――そういう中学生みたいなことを書きました(笑)。根暗だから明るい部分を欲しているところはあるのかもしれないです。
-「snow traveler」はQaijff初のクリスマス・ソング。なぜ内田さんは冬の失恋をテーマに曲作りを?
内田:"女性ヴォーカルで、女性にしか歌えない曲があったらな"と思っていたので、こういう雰囲気の曲は前から作りたかったんですよね。ただ、それはバンドらしくないなと躊躇してたんです。でも"バンドらしい/らしくない"というのは、そういうことじゃないなと。作るものに対してもっとピュアでいたいし、それでいいと思うんです。だから原点に戻ってる感じがするんですよね。男の子でも女の子でもない、"僕"のヒーロー感がある曲はこれからも作り続けるんですけど、そうじゃない角度から作った曲も聴いてもらいたいなと思って。
森:この曲は何回も相談しまくって、ぎりぎりまでアレンジして。歌詞もレコーディング直前まで推敲を重ねて、変わった瞬間に歌う......という感じでした(笑)。
内田:歌詞はすごく難しかったです。これまで作ってきた曲のなかで一番具体性のあるストーリーなので、どれくらい具体的にして、何を表現のために使うかというチョイスに悩んじゃって。どうしたら伝わるかなー......ってわかんなくなっちゃったんです。わかんなくてどうしようもなくて、最終的に徹夜して仕上げました(笑)。やりたい感じの曲ではあるんですけど、やってみたらすごく難しかった。だから勉強にもなったし、それを作り終えられたから超えられた部分もあったのかな、と思います。
森:このバンドを組む前、私はシンガー・ソングライターだったので、そのときはこういう具体的なストーリーの恋愛の曲を歌ってたんですよね。それがバンドを組んでから、"女だからってナメられたくない! 男ヴォーカルに負けたくない!"という気持ちがめちゃくちゃ強くなって(笑)。でも、それを通り越して"そんな意地を張っていてもしょうがないし、女性にしかできないものがあるな"とだんだん思えるようになってきたんです。そんなときに内田がリアルな失恋ソングを持ってきて、"今までこういう曲をこのバンドでやってこなかったから、(リスナーから)どう映るんだろう?"と思ったので、そこはみんなで相談して。結果やってみて、良かったなと思っています。女性の恋愛観はもともと自分にあるものだし、これはあえてやってこなかっただけで。女の私が表現するリアルさもあると思うんですけど、男の内田が女々しい失恋ソングを書いて(笑)、それを私が歌う――そこが面白いと思うんですよね。
-最初にクレジットを見ずに曲を聴いたんですけど、森さんが書いたにしてはひ弱な印象があったので、歌詞を書いていらっしゃるのは森さんではないのだろうな......と思っていたのですが(笑)。
森:あははは! それみんな言う(笑)。
内田:(笑)精神論なのかもしれないですけど、僕らは自分たちを"ポップス・バンド"だと思っていて。......例えばイルカさんの「なごり雪」(1975年リリースのシングル表題曲)はもともとかぐや姫の伊勢正三さんの曲なんですよね。でもイルカさんという女性が"僕"という男の失恋ソングを歌っていて......それがすごくいいと思うんです。音楽で自分たちのストーリーや生き様を表現するバンドもいるけれど、俺らのなかのポップス論ではそういうことをする必要がないんです。自分たちでそれを音楽にしなくても、(バンドのストーリーや生き様は)感じ取ってもらえるようになるべきだと思うし、それが一番健全な姿な気がしてるんですよ。だから僕が書く女性の失恋ソングというものを、"森 彩乃"という肉体を通して、語り手としてリスナーさんに届けるというのは、イルカさんの「なごり雪」と同じように"ポップスとして素敵な形"だと思うんです。
-たしかに、今も昔もポップス界では女性シンガーの楽曲を作っているのは男性が多いですし。
内田:男が作ってるのかよ! と思う人もいるかもしれないですけど、脚本家のような立ち位置から物語を伝えるというのは大事な役割だと思うから、これからはそういうことも提示していきたい。それをやることは"ポップス・バンド"としての役割だとも思うんですよね。だから、男が好きというわけではないです(笑)。
三輪:誰もそう思ってないよ(笑)。
内田:いや、一応言っておこうと思って(笑)。
森:私が作る"私"の曲、私が作る"僕"の曲、内田が作る"私"の曲......いろんなパターンができて面白いなと思いますね。
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