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INTERVIEW

Overseas

BLEACHERS

2014年10月号掲載

BLEACHERS

Member:Jack Antonoff

Interviewer:新谷 洋子

-ラストの「Who I Want You To Love」は東京のホテルで生まれたそうですね。3回来日してますが、いつの話ですか?

2回目に行った時だよ。あの時の僕は、自分が病気なんだと思い込んでいた。本当に具合が悪くて絶対に何かがおかしいと思って、ホテルの部屋で悶々としていたんだ。それでお医者さんを呼んでもらったんだけど、診察の結果、何も異常はないと分かった。単なるパニック発作だった。そのあと彼と話をして、素晴らしいひとときを過ごしたんだよ。多分70歳くらいだったと思うけど、"人間が自分の肉体を完全に理解するには何十年もの年月がかかるものなんですよ"と言ってくれてね。その言葉が、僕の心に本当に深く沁みた。30歳になって、それなりに人生体験を積んだからといって、自分の肉体を理解したことにはならないし、自分がいったい何者なのか、自分の心と肉体がどういう成り立ちなのか、僕はちっとも分かってないんだなって思い知らされたよ。世界の反対側にある日本で、自分が死にかけていると信じ込んでいて、実はパニック発作に過ぎなくて、この医者さんと出会って本当に深遠なことを説いてくれて......という一連の体験は、僕に深い印象を刻んだ。最終的に大きな意味を持つことになった。その夜、「Who I Want You To Love」を書いたんだよ。渋谷のセルリアンタワーでね。

-それは日本人のお医者さんだったんですか?

そうだよ。

-サウンド・プロダクションの話に移りますが、今回は全面的に80年代半ばのシンセ・サウンドを取り入れていますよね。以前からこの時代の音楽が好きだったんですか?

いや、ハマったのは最近のことだよ。僕は1984年生まれだから、80年代の記憶はないし、人生最初の記憶っていうと90年代初めになる。そして、90年代初めの音楽に夢中になった。ずっとあの頃の音楽が好きなんだ。でも、あれは4~5年前だったはずだけど、知り合いが僕にYAZOO(ヤズ)の存在を教えてくれた。アメリカの外では"ヤズー"って呼ぶんだよね。で、彼らが鳴らすサウンドにすっかり魅了されてしまったんだよ。僕がポップ・ミュージックに求めているもの全てが、彼らの曲には詰まっていた。それは言うなれば、深い悲しみを湛えたスケールのデカいポップ・ソング。つまり1曲の中に、笑える要素と踊れる要素と泣ける要素が同居しているんだ。以後、彼らを出発点に色んなアーティストを発見したのさ。DEPECHE MODEやらERASUREやら、80年代の偉大なアーティストたちをね。そのへんの作品を夢中で聴き始めた。サウンド自体も素晴らしいんだけど、美しくてアンセミックでありながら、どこまでも哀しいってところに、何よりもグっときたよ。

-あなたにとってのこの時代のベスト・アルバムというと?

そうだな、僕のフェイヴァリットはやっぱりBruce Springsteenの『Born In The U.S.A.』だね。あのアルバムの、シンセ・サウンドとロックンロールのミクスチャーが大好きで、完璧だと思う。

-そういう非常にアップビートでアンセミックなサウンドに、喪失感や成長の痛みを歌う詞を乗せているところが面白いですよね。そうすることで暗鬱にならず、逆に聴き手を力付けるような曲に仕上がっていて。

何かパワフルで、人を力付けることができて、心を動かすものを生むには、まずドン底まで落ちて、そこから這い上がらなくちゃならないと思うんだ。そして深く落ちれば落ちるほどに、自分が誠実であるほどに、伝えるストーリーが悲劇的であるほどに、それを伝えることに伴う苦痛が大きいほどに、這い上がる意味合いも大きくなるし、たくさんの希望のメッセージを与えられる。このアルバムは、そういったことを実践しているんだよ。可能な限り深いところまで落ちて、それでも必死に帰り道を探している。「I Wanna Get Better」はまさにそういう曲だよね。それでも帰り道を探して、"僕は立ち直りたい!(I Wanna Get Better)"と叫んでいるのさ。

-じゃあアルバム作りから得たカタルシスも大きかったでしょうね。

うん。大きなカタルシスを得た。というのも、僕はセラピストと話したりするのが苦手だったし、日記も続かなかったんだけど、音楽作りだけはずっと続けてきて、特にこのアルバムに関しては、自分のためになるんだなって実感できたよ。

-あなたはバイオの中で、"このアルバムは自分が体験できなかったハッピーなティーン時代を惜しんでいる"と綴っている上に、「You're Still A Mystery」では"自分が若かったことなんかないような気がする"と歌っています。そういう意味では、自分の青春時代を取り戻すようなアルバムでもあった?

まさにそうだね。僕がティーンエイジャーのころは妹が病気だったこともあって、本来は誰もが自由を謳歌して、一切不安を抱かずに、将来の無限の可能性を感じながら人生を楽しむべき時期なのに、全然そういう気分を味わえなかった。だからアルバムには、自分が体験することができなかった子供時代を嘆いているようなところがあるんだ。

-ちなみに、音楽的にFUN.とは差別化しなければという意識は働いたんでしょうか?それとも自然に全く違うものになった?

ごく自然に差別化されたよ。っていうか、あまりにも容易に差別化されたからこそ、僕はこのプロジェクトをやることに決めたんだ。もし似通った部分が多かったら、そもそもプロジェクトとして面白みがなかったと思う。BLEACHERSは全く違う世界を追求するものだという、初期段階で得た手応えが、僕をインスパイアしたのさ。