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INTERVIEW

Overseas

BLEACHERS

2014年10月号掲載

BLEACHERS

Member:Jack Antonoff

Interviewer:新谷 洋子

FUN.のギタリストであり、Taylor Swiftを始めとするアーティストの作曲なども手掛けるJack Antonoffが新プロジェクト、BLEACHERSを始動。FUN.のワールド・ツアー中にひっそりと制作を始めたというデビュー・アルバム『Strange Desire』をリリースする。FUN.の楽曲でもお馴染みの、疾走感溢れるピアノ・ロック・サウンドとキャッチーなメロディで話題を呼んだ「I Wanna Get Better」をはじめ、Jackのソングライティング・センスが光る多彩な楽曲たちを収録した今作について、Jack Antonoff本人にたっぷり語ってもらった。

-すでに何度かBLEACHERSとしてライヴを行なっていますよね。フロントマンとしてステージに立つのは久しぶりだと思うのですが、楽しんでいますか?

うん、いい感じだよ。すごく興味深い。異なるバンドで異なる役割を務めるのは、エキサイティングなものだからね。

-BLEACHERSはFUN.のツアー中に書いた曲を発端に始まったそうですが、どの時点で、アルバムを構成できるという手応えを得たんでしょう?

そういう段階に行き着くまでに、かなり時間がかかったよ。というのも、そもそも僕は常に曲を書いているんだ。毎日のようにね。で、曲を書くこととアルバムを作ることの間には、大きな隔たりがあるんだけど、ある時点で何かが変わった気がしたんだよ。今から1年半くらい前、「Like A River Runs」という曲を作っていたときだね。美意識の観点から言って、ずっと僕の頭の中で聴こえていたのになかなか形にできずにいた曲が、ようやく生まれたんだ。あの曲を完成させた時点で、"アルバムを作ろう!"と思った。単に曲をたくさん書くだけじゃなくて。

-実質的にソロ・アルバムでありながら、バンド名を名乗ったのはなぜ?

今回BLEACHERSの名前で発表したアルバムは、ひとつの世界に完結した音楽であって、どうしようかといろいろ考えていたとき、独自の名前が必要だなと感じたんだ。独自のアイデンティティを持った、完全に独立したプロジェクトだからね。それに、もし自分の名前で発表したら、ちょっとトゥー・マッチになりそうな気がした。"さあ、これが僕のソロ・プロジェクトです!"みたいなノリだろ?でもこのアルバムのヴァイブはそうじゃない。どっちかっていうと"ここにもうひとつ新しい作品ができました"って感じだよね。だからソロ・プロジェクトではなくて、自己完結した作品と位置付けるべきだと思ったんだ。

-じゃあ、この先またソロ・アルバムを作るにしても、BLEACHERSと名乗るとは限らない?

そうだね。その時々、瞬間に生きるべきだと僕は思うから。これらの曲を書いて、アルバムを作っていた時、"bleacher"という言葉がすごくしっくり馴染んだんだ。どこかすごく郊外を想起させるところがあって、歌詞で取り上げている自分の人生の一時期と、深いコネクションがあると感じた。だからぴったりフィットする名前だったし、まさにこのアルバムを作っている"瞬間"において、完璧に機能する言葉だったのさ。

-結果的に非常にバーソナルな自伝的アルバムになったのは、意図したこと?

っていうか僕は、アーティストとして何が自分をユニークな存在にしているのか、早いうちに見極めるべきだと思っていて、自分が他人のストーリーを伝えるタイプのソング・ライターじゃないと気付いていたんだ。例えばBilly JoelやBruce Springsteenみたいにね。僕はいつだって、自分の体験を歌うことしかできなかった。それを悟った時に――随分前の話なんだけど――自分が可能な限り多くを表現できる場所に留まるべきだと思った。だからこのアルバムでも、1番深い意味がある部分、1番インパクトが強い部分は、まるで僕の日記みたいな内容で、極めてパーソナルで率直なんだ。そういうパーソナルな部分にこそ、聴き手もみんな共感できるんだと思うよ。

-じゃあ、例えば「I Wanna Get Better」があんな風にヒットして、大きなリアクションが返ってきたことをどんな風に受け止めていますか?

すごく奇妙なんだよね。人々の反応って決して予測できないから。何か作品を世に送り出したら、それはもう僕の手を離れて、コントロールが効かなくなる。作っている時は完全に自分がコントロールしていて、どんな小さなことだろうと操作できるわけだから、作業に可能な限り没入するようにしてるんだ。そんなわけで一旦手放したら、あとは次の、また新しいことに集中して、気分を切り替えるのさ。そして、今僕が目を向けているその新しいことっていうのは、BLEACHERSのライヴ。「I Wanna Get Better」をリリースして、アルバムも送り出して以来、僕は最高にエキサイティングなショウを作り上げることに専念して、全てのエネルギーをそこに注いでいるんだ。だから「I Wanna Get Better」へのリアクションに関しては、今ステージから実感しているわけだけど、あの曲をプレイするとめちゃくちゃ盛り上がって、すごくスリリングだよ。あんなにもパーソナルで、得てして極めてダークな曲に、あんなにも多くの人が共感を寄せてくれるなんて、驚くべきことだからね。

-慣れない異国で曲を書いたという環境についてはどうでしょう? 何か影響はありました?

曲を書く上で、自分の心を掘り下げることを容易にしてくれた気がするよ。ほら、例えば地元の慣れた環境にいると、別のヴァージョンの自分、"そうあるべき自分"を演じてしまいがちなんだ。2年前の僕、だったりね。その時々の最新のヴァージョンの、真の自分を見つけるのが難しい。でもしょっちゅう旅をしていると、いつも地元から遠く離れたエキゾチックな場所にいて、それゆえに自分が本当に感じていることが見えたりするんだ。どういう自分を演じるべきか、環境に左右されたりしないからね。家にいると、自分がよく知ってる人たちに囲まれていて、まるで鏡を見ているような気分になる。"こう行動するべきだ"と思い込んで、それを演じているような感じで。その点、遠い外国で独りきりでいると、正直になれる。そういう意味で、旅先で、完全に日常から切り離された環境で曲を書くのは非常にスペシャルな体験だった。それに、ツアー中の僕は本当にくたびれ果てていて、時差ボケに苦しんでいて、すごくエモーショナルになっていた。それも、自分の内面をより深く覗き込んで、より多くを発見することを可能にしたと思うんだ。