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INTERVIEW

Japanese

キリンジ

2010年09月号掲載

キリンジ

Member:堀込泰行:(Vo&Gt) 堀込高樹:(Gt&Vo)

Interviewer:道明 利友


-僕らが生きてる一日にも、時間が過ぎていくなかで色んなことがあって……。いいことも悪いことも、たくさん。それこそ、大人になればなるほど、一日の中でいいも悪いも色んなことに襲われますし(笑)。現実離れしているようで、じつは現実とものすごくリンクしているリアルな物語じゃないかと思います。“明日があるさ”って歌詞もありますけど、いろんなことがあるなかでも前向きに生きなきゃなみたいな、そういうイメージもなんとなく汲み取れますし。

泰行:“明日があるさ あしたがある またあした”って歌詞がありますね。それは、なんか……。言い聞かせてるような感じですよね。

高樹:でも、“石のように弾む心”だから、そんなに弾んでないっていう(笑)。
泰行:(笑)ボールじゃないんだよね。

高樹:そう。そこはわりと、工夫したかな。そんなウキウキではないっていう、ね。

-“明日があるさ!”って声が、大きく響いてはいないんですよね。メッセージを声高に叫んでるわけじゃなくて。それこそウキウキなことばかりじゃ人生ないけど、でもやっぱり前向きに生きなきゃいけないよなみたいな気持ちに、僕はこの曲を聴いてなったんですよね。ファンの皆さんもこのアルバムから色んな気持ちを汲み取るはずですけど、その作者としては、このアルバムからどんなものが聴き手に伝わったらいいなと思いますか?

高樹:それは、やっぱり……。汲み取る側がどう感じるかっていう話なんで、難しいところですよね。“こう聴いてくれ”って僕らが言うのも、違うかなって気がするけど……。

泰行:うん。でも、やっぱり、なにかしら……。まぁやっぱり、現実ってそんなに面白いことばかりではないと思うんですよね。普通に暮らしてたら、誰でも。よっぽどいい暮らしをしてる幸せな人なら別でしょうけど(笑)。だから、そういう、現実の中で、“楽しみの種”を探していくっていうか。例えば『Round and Round』とかも、ちょっとネガティブな歌詞ですけど、自分の感情が色々回ってる状態を、犬が自分のしっぽを追いかけてグルグル回ってる姿に例えると、ちょっと滑稽で面白くなるっていうか。そうすると、心がちょっと軽くなったり。だから、要は……。現実のとらえ方だったり、そういう現実の中でも面白いものを探せたり、どっかしらにロマンを見つけられるかとか、そういうことなんじゃないかなって気はしてて。キリンジの歌詞って、わりと、“何か探してやろう”みたいな。何もない生活をなにかで彩ってやろうみたいな、そういう意志は表れてると思うんですよね。

-ウキウキばかりじゃない現実でも、自分から何か面白いものを探せればポジティブになれるかもしれないっていう。とらえかた次第で、ツラいなって感じる状況でも気持ちが楽になることはあるでしょうし。

泰行:そうですね。絵にならないものを絵にする、っていうか……。写真とかもそうですけど、切り取りかたで、ちゃんと絵にできるし。普通の、何気ない商店街でも。富士山みたいな名所が写ってなくても(笑)。キリンジの音楽はそういうものなのかなって気が、僕はしてるんですけど。

高樹:音楽を聴いてるときぐらいはめんどくさいこと忘れようよ、っていうことかなっていう気はしますね、僕は。現実をこういうふうに変えようとか、こういうふうに生きようとか、そういうことを明確に歌ってはいないけれど……。ただ、そういう状況っていうのは生活の中でいやがおうでも差し迫ってくるわけだから、音楽を聴いてるときぐらいは楽しい気分になっても別にいいんじゃないの? ってことですよね。『温泉街のエトランジェ』って曲もありますけど、このアルバムには。温泉の歌なんて歌ってどうするの? って話ですけど(笑)、でもこういうのってなんとなく楽しいんじゃない? っていうことですよね。『台風一過』じゃないですけど、台風が来たりしたらそりゃあ水害とかで大変なことになるけど……。でも、子供のころの台風の記憶って、なんかちょっとしたイベントって気がしません? 傘持って外に出て、その傘吹っ飛ばされるみたいな(笑)。

泰行:(笑)なんか楽しかったね。

高樹:そういうところで、台風のことを歌うとしたら、じゃあ例えば水害とか土砂崩れのことを歌えばいいのかっていったら、それは違う話になるじゃないですか。現実にはもちろんやっかいなものが山積みなんだけど、そうじゃない瞬間を曲にすることもできるはずじゃないですか、きっと。だから、なんていうか……。音楽の世界では、音楽を聴いてるときだけは楽しい気分でいてもいいんじゃないかな、みたいな。サウンドだったり歌詞を少しでも楽しんでもらえたら、っていうことかもしれないですね。僕らの音楽を聴いてどんなものを感じてもらいたいか、って言ったら。

-そういうことって、なんか……。アルバムのタイトルにつなげてもいいような気も、なんとなくします。『BUOYANCY』って、“浮力”とかっていうのがあるんですよね? キリンジの音楽で気分がちょっとでも上がったら素晴らしいな、みたいな。

高樹:そうですね。なんか、歌詞がわりと“浮遊感”があったり。サウンドも、『セレーネのセレナーデ』とか『空飛ぶ深海魚』はわりとそういう印象があると思うんで。そういうところで、例えば“Flow”とかの“流れる”だと、意志があんまり感じられないような気がして。“浮力”なら意志が感じられる気がしたんです。“Flow”だと、“漂う”。それに対して“浮力”は、自分から浮き上がる力が大きいですから、そっちのほうが面白いと思ったんですよね。あと、なんか……。景気が良くなる傾向、みたいな意味もあるらしく。

-そうみたいですね。辞書を引いたら、“(株価などの)上昇傾向”って意味もありました。

高樹:そうそう。じゃあ、そういった状況も何かといいことだから、そういう意味もちょっと込めて、ね(笑)。

泰行:(笑)いいねぇ、そうなったら。

高樹:(笑)沈んだ気持ちが浮かぶ、ちょっと前向きになるとか上向きになる、とか……。そういう作品になっていたらうれしいですね。

-キリンジの音楽で景気回復、ですね(笑)。ここ数年は、おふたりそれぞれソロ活動も活発にされてますけど(泰行:“馬の骨”、高樹:“ザ・グラノーラ・ボーイズ”)、このアルバムのリリース以降はキリンジの活動がメインになっていきそうですか?

泰行:そうですね。キリンジでしばらく長いツアーをやるんで、ソロはまたその先の話になると思うんですけど。僕の“馬の骨”の場合は、自分の個人的なものというか、ミュージシャンとしての美意識とか哲学を実践していく場所で。それに対して、キリンジは、なんかこう……。兄と僕の曲を合わせたときとか、お互いがお互いの曲に対して意見したときに起こる化学変化って言ったらアレですけど、そういう場所を試していく場というか。そういう感じで僕は分けてるんですけど、ここしばらくは、キリンジとしてまた面白くになっていければなとは思ってます。