Japanese
ももすももす
2023年12月号掲載
Writer : 石角 友香
共同プロデュースに真部脩一(ex-相対性理論)、ナカシマ(おいしくるメロンパン)。歌川菜穂(ex-赤い公園/THE 2)や森 夏彦(THE 2/ex-Shiggy Jr.)らも参加
シンガー・ソングライター、ももすももすがソニー・ミュージックレーベルズ移籍後初となるフル・アルバム『白猫浪漫』をリリースした。アーティストとしてのキャリアの第1章をロック・バンド メランコリック写楽、第2章が2018年からのソロ活動のうち、ソロ・デビュー曲「木馬」(2019年リリースのシングル表題曲)から1stアルバム『彗星吟遊』(2020年リリース)の頃までの、作品のほぼすべてを彼女ひとりで制作していた時期だとすると、様々なアーティストを迎え入れ、共同プロデュースも行うようになった現在は第3章と呼べるのではないだろうか。
改めてソロ・デビュー以降の彼女の作品性を振り返ると、デビュー曲である「木馬」からして唯一無二の世界観を持ったアーティストであることが理解できる。オルタナティヴ・ギター・サウンドのムードの中に、キャッチーと呼んで差し支えないメロディを浮上させ、繊細で幼い、聴きようによってはアニメの登場人物のような声でありつつ、日常では使わない難しい熟語だったり、意表を突く形容や比喩が頻繁に出てくる歌詞をごく当たり前のように歌う。自分という、かけがえのない存在が感じる特別な情景。共感というよりは、一瞬の共鳴のような感覚を誘う歌詞を辿ると、人と人のわかり合えなさ、でもどこかに感じることのできる共通点が垣間見えて、一度彼女の音楽に光を見た人は離れられなくなるのだと思う。
ももすももす「木馬」(mokuba) music video
アルバム『白猫浪漫』に先駆けて、移籍第1弾シングル「エソア」(TVアニメ"魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~"エンディング・テーマ)、同シングルのカップリングでもある「宵待花」(TOKYO MXドラマ"恋活"挿入歌)、「犬飼いたい」が2023年2月にリリースされ、4月には「まともじゃないのがちょうどいいの」(MBSドラマ特区"墜落JKと廃人教師"エンディング・テーマ)、9月に「エソア」のバラード・バージョン、10月に「6を撫でる」(TVアニメ"帰還者の魔法は特別です"エンディング・テーマ)、アルバム・リリース直前の11月15日には「猫とメリケンサック」(読売テレビ"川島・山内のマンガ沼"エンディング・テーマ)がリリースされている。いずれも新しいリスナーにもリーチするタイアップばかりなので、オンエアで耳にした人も多いかもしれない。これまでもあったものの、これほどアニメ・タイアップが増えたのは音楽性も少なからず関係しているように思える。言わずもがな、現在のアニメ・ソングはもはやポップ・ミュージックのみならず、音楽シーンでクリティカルな楽曲揃いだ。いよいよ、ももすももすの個性がより広いフィールドで発揮される時が来たのだ。
実際にアルバムを曲順通りに聴いていこう。アルバムの幕開けは新鮮なファンク/ネオ・ソウル・テイストの「十二単と猫と宇宙。」。ひとりで重ねたスキャットのコーラスが少し気だるく、ストリングスの洒脱なフレーズとグルーヴするベースラインが相まって、シティ・ポップのニュアンスすらある。こんな新しいアプローチの曲で綴られる歌詞は"僕には来世がないから/今の君しか興味ないし"とか、"何度でもやり直せる/人生なんてないと分かった"という生身を感じるフレーズによって、アーティストとして退路を断った彼女の意志表示に聴こえてならない。アルバム・ジャケットのももすももすの衣装も十二単で、周囲を宇宙めいた猫たちが囲んでいる。アルバムに通底しているイメージがこの曲にあるのかもしれない。また、この曲でのベースはライヴでのバンド・メンバーでもあるかーすけが担当している。一転、ハードでソリッドな「エソア」。アニメのテーマともシンクロする"戦い続ける"ことのモチベーションが描かれている感じだ。インタビューなどでこのタイトルの所以は"絵空事"と"愛"だと語っているももすももす。諦めの現実主義を凌駕するような力強さを彩るのは、前作『彗星吟遊』にも参加していた弓木英梨乃のスキルフルでイメージを拡張するギター、ドラムは矢尾拓也、そしてアカシックや可愛い連中、Lilubayのベーシスト、バンビだ。続く「6を撫でる」はドラムをex-赤い公園、THE 2の歌川菜穂が担当。この曲もアッパーでギター・バンドらしい曲調だが、ほんのり歌謡的なマイナー・メロディが顔を出すあたりがフックになっている。運命を信じているのに、なぜかサイコロを振って同じ目が出ることを祈っている。来世じゃなくて現世で逡巡する心の揺れなのだろう。
【「魔王学院の不適合者 II」EDテーマ】ももすももす「エソア」Music Video
【「帰還者の魔法は特別です」EDテーマ】ももすももす「6を撫でる」Music Video
4曲目の「猫とメリケンサック」はおいしくるメロンパンのナカシマ(Vo/Gt)がアレンジとギターで参加しているのも注目だ。バンド時代から切磋琢磨してきた仲で、音楽性に注目してきたというナカシマがボサノヴァ風のニュアンスを彩り、猫を溺愛する彼女を持ち、どうやっても猫には勝てない男子の心情を猫語(?)を交えて歌うユーモラスな1曲。もはやももすももすの"勝てにゃい"とか"愛せにゃい"を聴きたいがために聴くぐらいクセになってしまう。リズム隊は森 夏彦(Ba/THE 2/ex-Shiggy Jr.)と諸石和馬(Dr/ex-Shiggy Jr.)。愛らしい曲が続く。5曲目「まともじゃないのがちょうどいいの」はももすももすがかねてより制作してみたかったと言い、最も好きな音楽家であるという真部脩一(ex-相対性理論/Ba)が作曲、アレンジでももすももすと共作している。オーセンティックなマイナーのポップ・ロックだが、ももすももすの愛らしいヴォーカルで描く禁断の恋、もしくは恋の禁断症状は少しパラノイアックだ。続く「怪傑ヒロイン☆」は真部の作詞/作曲/アレンジによる、ももすももすへ捧げられた1曲。清々しいまでに孤独なヒロインを無機的なアンドロイドのように描き、ももすももすのヴォーカルも感情を抑え、器楽的なコーラスも相まってキャラクターが際立っている。この曲も現在のももすももすを象徴するナンバーだと言えそうだ。
ももすももす「まともじゃないのがちょうどいいの」Music Video
シンプルなアレンジだがモダンでもある「僕のなかの悲しみ」はももすももすのエアリーなコーラスの重ねの真髄が堪能できる1曲。素の側面というか、彼女の柔らかい心に触れる感覚だ。柔らかい曲は次の「宵待花」も続いていく。珍しく素直に切ないラヴ・ソングで、その切なさを温かみのあるストリングス・アレンジがふわっと包み込むような良質のポップ・ソングに仕上がっている。同じくストリングスがポイントの曲でも少しダンサブルな「UKINE」では風や、歌詞に登場する外に出たいシェパードの疾走感などが効果音的な役割を果たす。恋愛なのか人生なのか、何物にもとらわれたくない心の自由を求めている様が伝わる曲だ。
ソロでは初めて複数のミュージシャンと制作している本作だが、ひとりで完結する以前のスタイルは10曲目の「曖昧模糊」で聴くことができる。彼女のイマジネーション溢れるギター・リフ、四文字熟語がハマっているこの曲は、登場当時からの音楽性を愛するファンにはグッとくることだろう。そして弓木の豊かなアコギの響きと繊細なストリングスが作る美しいアレンジの上を、ひたすら"犬を飼いたい、でも......"という状況を歌う「犬飼いたい」のシュールさ。でも取りようによっては御しがたい愛情のわかりやすい例でもある。どの曲もももすももすしか作りえない曲だが、この曲はシュールさで言えば真骨頂だ。もう1曲のももすももすひとり完結スタイルが「植物戦争」。シンセとギターの反復するリフがグルーヴを、声のレイヤーが景色を作り、ももすももすの未来の世界の中にいるような体感を得る。これはやはり彼女ならではの手腕だ。ラストはピアノを軸にバラードにアレンジされた「エソア -Ballad ver.-」。そのスケール感と飾らないヴォーカルの対比がむしろ彼女の生身を際立たせる。歌い上げないバラードのリアルとでも言えばいいだろうか。
複数の音楽家のアイディアや具体的な演奏との化学反応を経たことで、今この時代におけるポップネスを、オリジナリティを損ねないまま更新してみせたももすももす。様々な女性アーティストが日本の音楽シーンで刺激を与えてくれているが、彼女の個性は稀有だ。もっと知られ、語られてほしい。
▼リリース情報
ももすももす
NEW ALBUM
『白猫浪漫』
ESCL-5888/¥3,300(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[EPIC Records Japan]
NOW ON SALE
1. 十二単と猫と宇宙。
2. エソア
3. 6を撫でる
4. 猫とメリケンサック
5. まともじゃないのがちょうどいいの
6. 怪傑ヒロイン☆
7. 僕のなかの悲しみ
8. 宵待花
9. UKINE
10. 曖昧模糊
11. 犬飼いたい
12. 植物戦争
13. エソア -Ballad ver.-
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