Japanese
十五少女
2023年03月号掲載
Writer : Satoru [COCKPITS]
トータル140分を超えるそのコンセプト・アルバムを聴き終えたとき、こう思った。
"どうやら我々は、このプロジェクトに関して大きな勘違いをしていたようだ"
十五少女をまだ知らない人のために、ここに至るまでの経緯を簡単に説明しておくと、このメディア・ミックス・プロジェクトはバーチャル・アーティストとしての音楽活動から始まった。白神真志朗をプロデュースに迎え、歌声を担当するmzsrz(ミズシラズ)が逸脱したスキルで歌唱したデビュー曲「逃避行」は、瞬く間にLINE MUSICリアルタイム・ランキングで2位を獲得。
その後も、ichica、かいゑ、平牧 仁(シキドロップ)といったボカロPを含む新進気鋭のクリエイターから、BTSなどを手掛ける岡嶋かな多、CHARLI XCXやRina Sawayamaなどを手掛けるDanny L Harleといった国内外の人気プロデューサーまで、素晴らしい作家を起用した独創的且つ青く痛い作風で順調に楽曲ファンを増やしてきた。
十 五 少 女(15 Voices)/// SILENT E.P. 」クロスフェード // Cross Fade
しかし、そんな彼女たちに対して最近よく聞くのは"わからない"という感想だ。十五少女を少しでも知っている人からすると、それは"まさに"な言葉なのだ。嬉々としてそう言う人もいれば、正直、同じくらいネガティヴな感情を持っている人もいる。
"わからない"という感想が頻発する理由はただひとつ。
十五少女(の運営)が、とにかく複雑で難解な世界観や設定を打ち出し続けているからだ。
例えば、オフィシャルのプロフィール欄にはこうある。
"彼女たちが生きる世界は、このセカイの形をしたまた別の世界。/彼方の大人たちは口を揃えて言う/「大人になるには、必ず、あのバスに乗らなければいけない」/(中略)私たちの所にも、ついにお迎えがやって来た。"
どこをどうすれば、そうなる(笑)?
さらに謎を深めるティーザー映像たち
十 五 少 女(15 Voices)/// 十五少女 / CV:15 animaの場合 」Voice Video
十 五 少 女(15 Voices)/// 火具鎚十二号に関する報告. 」Leak Video
わけのわからなくなった新規ファンが、音楽の次に辿り着くのが、講談社からリリースされているWEB連載小説だろう。しかし、ここでも上記の世界観にはほぼ触れられず、主要キャラの生い立ちが前日譚という形で描かれているだけだ。
語弊のないように言っておくが、"ルヴォワール"シリーズなどで人気を博す円居 挽やメフィスト賞の受賞作家である望月拓海が書いた小説は言うまでもなく素晴らしく、わけがわからないなんてことは一切ない。
前日譚小説は『tree』から無料で読める
講談社による十五少女/表紙ビジュアル+前日譚小説ページはこちら
しかし、素晴らしい前日譚小説を読めば読むほどキャラへの理解度が深まる一方で、十五少女はいったい何がしたいんだ? という謎が深まっていく。そこに反感を覚える人がいるのは当然のことだ......。
そんな状況にもかかわらず、
歌唱以外のキャラクター・ヴォイス(声優)として
佐藤日向、芹澤 優、富田美憂、戸谷菊之介、
日原あゆみ、前田佳織里、Machico、水野 朔 他
ペルソナという謎設定のゲスト・ヴォーカルとして
綾瀬志希(CYNHN)、楠木ともり、水槽、
菅原 圭、セツコ(空白ごっこ)、ファイルーズあい
という素晴らしいキャストが決まり、より注目を集めた結果、これまで以上に多くの新規ファンが十五少女の"わからない"現象に巻き込まれている。
CV発表時のニュース記事はこちら
そんな矢先、この原稿のオファーがあり、3月22日にリリースされる初のCDアルバム『SILENTHATED』の資料が届いた。通常、アーティストの紙資料は多くて20ページ程度だが、十五少女のそれはテーマであるジュブナイル(大人と子供の間の世代=ティーンネイジャー向けの小説や映画を指す言葉)に対する説明だけでもすごい文字量だ。
以前、当サイトでも紹介した十五少女とジュブナイルについて
正直に告白すると"だから、わからないって言われるんだよ"と思ったが、まずは音源を聴くことにした。140分超のそれを聴き終えたとき、(冒頭にも書いたように)こう思い直した。
"どうやら我々は、このプロジェクトに関して大きな勘違いをしていたようだ"
十五少女の音楽と物語は、このアルバムから始まる――いつか物語が終焉を迎えても、決して終わらない"僕らの歌"になることを目指して
十五少女の初アルバムは、CD 2枚組。DISC.1は、今作のタイトルの由来となった『SILENT』と『HATED』に加え、豪華ゲスト・ヴォーカルを迎えた『LISTEN』という3枚のEPがコンパイルされた17曲入りのアルバムだ。
全体をブルーで通貫したEP『SILENT』は、多様な時代を多感に生きる人々の"言い様のない不安"や"行き場のない焦燥"を6曲6色で表現。すべての曲に、楽曲制作のインスピレーションとなった物語を持つ"ペルソナ"と呼ばれる少女がおり、オフィシャル・サイトではその物語を読むことができる。
上記のペルソナのキャラクター・ヴォイスとして、6人のゲスト・ヴォーカリストが『SILENT』の6曲を再歌唱したのが『LISTEN』だ。同じアルバムで同じ楽曲を別の声で聴くというのは、かなり特殊な体験だが、曲順の妙やリアレンジがそれを感じさせない。なお、アルバムのブックレットにはQRコードがプリントされており、そこからはペルソナにまつわるデジタル・コンテンツを入手することができるという仕掛けが施されている。
十 五 少 女(15 Voices)/// LISTEN E.P. 」クロスフェード // Cross Fade
EP『HATED』のほうの5曲では、死に対する本質と嫌悪が時に冒涜的なほど痛烈に綴られている。本当の死とは、肉体がこの世から消え去ることではなく、残された人々の心の中から忘れ去られること。それは、先立った死者が残された生者に与えた赦しなのかもしれない。誰ひとりとして抗えない"忘却"という残酷な真実の前で空に祈るような歌詞が切ない。
それらすべてが緻密な曲間構成によって、ひとつの孤を描くようにコネクトされ合っており、何度も何度もループして聴いてしまう没入感が凄まじいアルバムだ。
一方、DISC.2には、ピノキオピーの名曲「ノンブレス・オブリージュ」のカバー、今作には収録されなかったEP『ASTRONOTES』から「Alien」、さらに未発表の2曲がボーナス・トラックとして収録されている。
しかし、その大部分を占めているのは、オーディオ・ムービー(音声ドラマ)だ。そして、このドラマこそ、十五少女が理解不能なひねくれコンテンツではないことを我々に教えてくれる重要な存在なのだ。
ネタバレには十分考慮するが、まず驚いたのは冒頭でいきなりラスト・シーンが明らかになる点。そのおかげで、無軌道だと感じていた十五少女の物語には明確なエンディングがあることがわかった。謎でしかなかった世界観や設定の意味も、おぼろげながら少し理解できるようになる。
十 五 少 女 - Audio Movie(音声ドラマ)Teaser 001
十五少女は、理解不能なんかではなく、まだ始まっていなかっただけなのだ
想像してみてほしい。例えば......ある日、突然、連載はおろかタイトルさえ決まっていない漫画の主題歌や劇中歌だけがリリースされ始めたら。......まだアニメ化もされていないのに声優が話したセリフだけが、前後の脈絡なく断片だけで発表されたら。
いずれも、何がなんだかわけがわからないはずだ。しかし、それこそが今の十五少女の状況だ。十五少女は、決して難解なコンテンツなのではなく、発表される順番が著しくおかしいコンテンツだったのだ。
異常に長い例の紙資料にも、きちんとこう書かれている。
"十五少女の音楽と物語は、このアルバムから始まる。
そして、いつか彼女たちの物語が終わりを迎えても、
いつしか僕らの歌になった音楽はずっと終わらない"
幼い頃に大好きだったアニメや映画のテーマ・ソングは一生ものだ。残念ながら、そのストーリーはいつか必ず終わりを迎える。でも、それがきっかけで好きになった音楽は、自分の人生をずっと一緒に並走してくれる伴奏歌、いわば"永遠の相棒"となる。
十五少女が目指しているのは、きっと、そういう"エモさ"なのだ。終わる物語と終わらない音楽という関係から生まれる永遠に青いままの部分。
-----(もう一度、紙資料にあるプロフィールを読んでみよう)
彼女たちが生きる世界は、この世界の形をしたまた別の世界。
彼方(アチラ)の大人たちは、口を揃えて言う。
"大人になるには、必ず、あのバスに乗らなければならない"。
彼方では、然るべきときが来れば、どこからともなく"子供都市行き"の"大人バス"がお迎えに来るのだ。17才で迎えの来る子もいれば、早い子は14才で来たり、19才になってもまだ、やって来ない場合もある。そして、誰ひとり自分の"お迎え"が、"いつ来るのか?"を知らない。
それは、毎年、夏の終わりの8月31日に現れ、そのドアが開いたら最後、必ず乗り込まなければならない。
虚数的な8月32日を経過し、9月1日に至る二泊二日の旅......生まれ育った町に戻り大人として生きる人もいれば、永遠に子供都市から帰らない人もいる。そして、前者は、一様に後者のことを語りたがらない(法律で禁止されている部分もある)。
主人公である仮想少女たちのもとにも、ついに"お迎え"がやって来た。
今回、この寂れた地方都市からは、少女ばかりが選ばれたようだ。
車内で唯一の大人である運転手の"隼(ハヤブサ)"は、大人バスの制帽を目深に被り、口数少なく謎に満ちている。
走り出した車内に鳴り響く"終わらない夏の終わりへようこそ"という、さめたアナウンス。
途中"仮想県"、"葉来間市"、"遠凸町"、"合法投棄村"、"再恋島"といったバス停を経由するたび、運転手が用意する"SIFT"という名の様々な試練によって、車中は徐々に非常なドラマに支配されていく......そして、本人が望む望まないに限らず、仮想少女たちの多くが"子供都市"に辿り着く前に途中下車する運命にあるのだ。
たったふた晩のはずが、永遠にも感じられるバスの旅。
最後に辿り着く"子供都市"とはいったいなんなのか?
十五人の少女それぞれが、選択する"大人"とは?
-----
十五少女は、15人の少女を取り巻くロード・ムービー的作品で、すべての音楽はそのテーマ・ソングや挿入歌という位置づけだ。物語の中で、彼女たちが今を生きるために未来を犠牲にしたり、未来と引き換えに今を犠牲にしたりしていく様子を通じて、多感な時期に誰しもが通過する(あるいは通過した)誰でも理解できる"青くて痛い感覚"を共有するためのプロジェクトだ。
▼リリース情報
十五少女
1st ALBUM
『SILENTHATED』
【CD Only】2CD
CTCM-65128~9/¥4,180(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
【CD+Blu-ray】2CD+Blu-ray
CTCM-65126~7/B/¥5,830(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[maximum10]
2023.3.22 ON SALE
[CD - DISC.1]
1. 逃避行
2. 被投降拒否
3. ハンドメイド流星雨
4. キミノイル世界線 feat. another anima
5. 八月三十二日
6. 大人疑惑
7. 君が死んだ日の天気は
8. 今日だけは。
9. 何度死んでも構わない。だから
10. 還る
11. 死にたいと言ってくれ。
12. ハンドメイド流星雨(皐月ソラの場合 / CV:楠木ともり)
13. 被投降拒否(空木ムギの場合 / CV:ファイルーズあい)
14. 八月三十二日(葉月ケイの場合 / CV:菅原圭)
15. 逃避行(如月モネの場合 / CV:水槽)
16. キミノイル世界線(文月ランの場合 / CV:綾瀬志希 from CYNHN)
17. 大人疑惑(色取ネムの場合 / CV:セツコ from 空白ごっこ)
[CD - DISC.2]
・AUDIO MOVIE - 音声ドラマ
・BONUS TRACKS
[Blu-ray - Music Video] ※CD+Blu-rayのみ
※CD - DISC.2、Blu-ray収録曲詳細はこちら
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