Overseas
MANIC STREET PREACHERS
2021年09月号掲載
Writer 山本 真由
UKを代表するバンドのひとつでもある、ウェールズの3ピース・ロック・バンド MANIC STREET PREACHERS。"THE MANICS(マニックス)"の愛称で親しまれている彼らは、初期のころからほぼメンバー・チェンジもなく、堅い結束力と芯のあるメッセージ性を持ち、まさにロック・バンドの鑑とも言える信念を持った活動で支持されてきたバンドだ。そして、比較的多作なバンドにもかかわらず、スランプや古臭さを感じさせない新作を常に作り続けてきた、人々を魅了するとびきりのメロディメイカーでもある。
そんな彼らが、通算14作目、前作から3年ぶりとなるスタジオ・アルバム『The Ultra Vivid Lament』をリリースする。昨年はパンデミックの影響で、楽曲制作と同じくらいライヴ活動も精力的に行ってきた彼らにとっては、バンド史上最長のライヴ休止期間となってしまったが、今回はそんななかで生まれたニュー・アルバムを紹介しつつ、改めてTHE MANICSというバンドについて考えていきたい。
MANIC STREET PREACHERSは1986年、いとこ同士のJames Dean Bradfield(Vo/Gt)とSean Moore(Dr/Tp)、そして同級生のNicky Wire(Ba/Vo ※結成当時はGt)とMiles "Flicker" Woodward(Ba)の4人で結成された。その後、初代ベーシストのFlickerが脱退すると、Nickyがベースにシフトするかたちで、3ピース・バンドとして活動、1988年には1stシングル『Suicide Alley』をリリースする。それから、バンドの手伝いをしていたRichey Edwardsがリズム・ギターとして正式にメンバーとして加わり、初期メンバーの4人が揃うこととなる。このメンバーで制作されたデビュー・アルバム『Generation Terrorists』(1992年)から3rdアルバム『The Holy Bible』(1994年)という初期の3作は特に、THE MANICS特有の洗練されたメロディと知的なメッセージ性はありつつ、さらに多感な青年期の精神性が強く出た内容で、当時のロック・シーンのどこにも属さない唯一無二の存在感を示すものだった。そのどこか危うく挑戦的なバンドの精神性の軸となっていたのが、作詞を担当していたRichey Edwardsなのだが、自傷行為やドラッグ、アルコールの問題を抱えていた彼は、1995年のツアー中に失踪してしまう(現在も行方不明のまま、法的には2008年に死亡と処理されている)。
この事件によってバンドは大きなショックを抱え、一時は解散も考えられたが、Richey Edwardsの家族も活動の継続を望んだため、MANIC STREET PREACHERSは再び3人体制で歩みだすこととなる。そして、そんな困難を乗り越えてリリースされた4thアルバム『Everything Must Go』(1996年)は、メロディに哀愁を湛えながらも、スケール感のアップしたロック・スタイルで、一皮むけて成長したバンドの音楽に対する前向きな姿勢を感じとることができる。その後の彼らは、コンスタントなリリースとワールドワイドなライヴ活動で、さらにファン層を広げていく。
THE MANICSの一番の魅力は、ずっと自分たちの核を見失うことなく、ロックし続けていることだと思う。30年以上、第一線で活動し続けているというだけで驚異的なのに、さらに必ず4年以内には新作アルバムをリリースし、なんなら1年と空けずにフル・アルバムを出してしまっていたりする。アルバムのコンセプトや楽曲の方向性は毎回異なるが、文学的で独自の哲学や美学のあるロックという軸がブレることはない。UKオルタナティヴ・ロックの尖った部分を代表していた彼らは、英国の国民的バンドとして、また世界的なバンドとしてその地位を確立していったのだ。
知的でアイロニックなロックは、美しいポップ・サウンドを纏い、聴く者を陶酔させる
そして、今回リリースされる新作『The Ultra Vivid Lament』。前作『Resistance Is Futile』(2018年)が、THE MANICS流のギター・ロックの集大成だとしたら、今作は、その世界観をさらに広げ自由な表現に飛び出したドラマチックな作品となった。初めて"ギターよりもピアノで当初の着想を得た作品"であるという今作は、THE MANICS特有のひねくれたギターよりも、むしろ鮮やかで健康的な鍵盤の奏でるサウンドが印象的だ。
冒頭を飾る「Still Snowing In Sapporo」は、本当に札幌の真っ白な雪景色が瞼に浮かぶような、ドリーミーで美しいナンバー。それにしても、『Journal For Plague Lovers』(2009年)でも日本語のセリフがサンプリングされていたし、単に親日というだけでなく、日本語の響きに何かインスピレーションを感じているところがあるんだろうか......。そして、リード曲でもある「Orwellian」は、George Orwell(SF小説"1984年"の作者)が書いたディストピアのような世界を、美しいメロディに乗せてアイロニックに描いた楽曲。文学的な思想や哲学を、きちんとポップに聴きやすく消化してくれる手腕はさすがだ。そして、NYのロック・バンド SUNFLOWER BEANの女性ヴォーカル Julia Cummingをゲストに迎えた「The Secret He Had Missed」はシンセを用い、ABBAを思わせるようなポップなナンバーとなっている。また、「Blank Diary Entry」ではゲストのMark Laneganが渋い歌声で華を添えている。その他にも、David Bowieを彷彿とさせるメランコリックな楽曲など、軽やかで深みもあるバンド・アンサンブルとJames Dean Bradfieldの歌唱力のレンジの広さを味わうことができる楽曲が並ぶ。
リリース後には、そんな本作を引っ提げての全英ツアーの開催が予定されている。久々のヘッドライン・ツアーは大いに盛り上がるに違いない。羨ましい限りだ。国境を越えるツアーはしばらくの間は難しいかもしれないが、近いうちにぜひ日本へも来て、東京/大阪だけと言わず、札幌でも「Still Snowing In Sapporo」のメロディを響かせてほしい。
まだまだパンデミックの収まらないなかで戦いながらも、少しずつ動き出した世界。音楽シーンも大きな変化の季節を迎えているが、そのなかにおいても、折れない、そして枯れないMANIC STREET PREACHERSの音楽世界は、聴く者の心を満たし、変わらず支持されるのだろう。
コンスタントに新作を発表し、第一線で活動し続けるTHE MANICSの歴代アルバムも要チェック!
▼リリース情報
MANIC STREET PREACHERS
最新アルバム
『The Ultra Vivid Lament』
![]()
2021.09.10 ON SALE
【完全生産限定盤】(2CD)
SICP-6398~9/¥5,280(税込)
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・トール・サイズ・ハード・カバー紙ジャケ
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[CD]
1. Still Snowing In Sapporo
2. Orwellian
3. The Secret He Had Missed
4. Quest For Ancient Colour
5. Don't Let The Night Divide Us
6. Diapause
7. Complicated Illusions
8. Into The Waves Of Love
9. Blank Diary Entry
10. Happy Bored Alone
11. Afterending
12. My Drowning World ※日本盤CDボーナス・トラック
13. These Dark Road ※日本盤CDボーナス・トラック
[CD] ※完全生産限定盤のみ
1. Still Snowing In Sapporo(Demo)
2. Orwellian(Demo)
3. The Secret He Had Missed(Demo)
4. Quest For Ancient Colour(Demo)
5. Don't Let the Night Divide Us (Nicky Wire Home Demo)
6. Don't Let the Night Divide Us (Demo)
7. Diapause(Demo)
8. Complicated Illusions(Nicky Wire Home Demo)
9. Complicated Illusions(Demo)
10. Into The Waves Of Love(Demo)
11. Blank Diary Entry(Demo)
12. Happy Bored Alone(Demo)
13. Afterending(Demo)
「Orwellian」配信はこちら
「The Secret He Had Missed」配信はこちら
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