Overseas
IMAGINE DRAGONS
2021年10月号掲載
Writer 石角 友香
9月9日からGalaxy初の折りたたみスマートフォンのCMに「Believer」が起用され、ファンからは"「Believer」がテレビから流れて驚いた"とか、そうでないリスナーも"ずっと誰のなんて曲か知りたかったのがやっとわかった!"など、テレビ視聴者の間でも話題になっているIMAGINE DRAGONS。同曲は音楽配信サイトのチャートを急上昇し、音楽検索アプリ"Shazam"で一時、検索ランキング1位を獲得。CMで起用されている部分のヴォーカル・リフのキャッチーさや、シンセ・ベースのうねるような感覚など、今聴いても新鮮なアレンジだ。2017年リリースのアルバム『Evolve』に収録されており、彼らのナンバーの中でも広く人気が高く、YouTubeの公式ミュージック・ビデオの再生回数は20億回超え。2018年1月に東京体育館で開催された日本公演のハイライトでも演奏されている。「Believer」に限った話ではないが、R&B/ヒップホップがチャートを席巻するアメリカの音楽シーンにあって、2010年代もオルタナティヴ・ロック・バンドの進化や他ジャンルの吸収、昇華を体現し、存在感を堅持する貴重な存在と言える。2018年の時点で、Billboardの年間チャートにおけるバンド・ミュージックはQUEENの再評価など、クラシック・ロックが改めて聴かれる傾向にあり、現役バンドではかろうじてIMAGINE DRAGONSやPANIC! AT THE DISCO、 TWENTY ONE PILOTSらが健闘していたというのが事実だろう。だが、サブスク全盛になり、バンドもEDM以降のポップスも並行して聴くリスナーが増えたことを考慮すると、IMAGINE DRAGONSが常に現状のロックを再定義するかのような音楽性を生み出してきたことは、同時代人として理にかなったものだったのだ。
くだんの「Believer」をきっかけに知ったリスナーにさらっと彼らの業績を説明すると、2012年の初のスタジオ・アルバム『Night Visions』がBillboard 200で2位を獲得し、以降、本国アメリカでは2015年の『Smoke+Mirrors』がプラチナ、2017年の『Evolve』はダブル・プラチナを獲得。グラミー賞にも4度ノミネートされ、2014年の第56回グラミー賞では"最優秀ロック・パフォーマンス賞"に輝いている。リリースも2010年代後半はコンスタントで、『Evolve』に続き2018年には『Origins』をリリースするなど、パフォーマンスでグラミーを獲得するワールドワイド・クラスのバンドとしては、破格の制作スパンだったと言えるだろう。だが、周知の通り2020年以降、全世界的にパンデミックの影響を受け、ライヴ活動の制限を余儀なくされたアーティストの中でも、特にバンドにとってはさらに厳しい状況だったに違いない。だが、前作から約3年の歳月を経たことで、バンドは生々しい表現を発見したようなのだ。
ニュー・アルバム『Mercury - Act 1』からは先行シングル「Follow You」、「Cutthroat」、「Wrecked」がリリースされたが、際立って耳を引いたのが、かのRick Rubinをプロデューサーに迎えた「Cutthroat」の、かつてないハード且つヘヴィな音像と多彩なアレンジのアイディアだ。"過酷"を意味するこのナンバーは、強いピアノの打音とクラップにモダンなセンスを感じるが、ジャンル感としてはヒップホップでもあり、ハードコアでもある。しかもヴォーカルのエモーションと暗闇に飲み込まれるような音像処理は、Freddie Mercury meets Billie Eilishといった趣き。しかもRubinと言えばいの一番に想起される、RED HOT CHILI PEPPERS的なミクスチャーなパートもある。なんでもバンドはRubinに100曲ほどデモを送ったそうで、ここまで突き抜けたナンバーに結実したのも原曲に光るアイディアがあったのだろう。
ミクスチャーからチャートのヒットランカーまで、手掛けるRick Rubinを鼓舞した新鮮なアイディア
アルバムはDan Reynolds(Vo)の苦悩や不安がほぼ全編を覆っているが、音数を絞り、グッと歌の主人公にフォーカスできる振り切ったアレンジが印象的だ。ピアノ・リフと空間系のシンセが静かな歌い出しを生かし、さらにはサビで横溢する感情もろとも爆発するバンド・サウンドが堪能できる、1曲目の「My Life」に始まり、ビートとブリープ音とうっすらしたシンセのトラックがどこか危うさとファニーさを醸し、後半に至るとゴスペル調の声の重ねで情景が変わる「Monday」、同じくゴスペル調のコーラスが登場するが、ビート自体はレイドバック気味なエレクトロ×ソウルな「#1」や、メロウなギター・フレーズと緩めの16ビートの「Easy Come Easy Go」で、一瞬安堵するものの、再びトラップ・テイストの「Giants」では自分を見つめつつ、思わず叫びもする。それがDanの個人的なものなのか、この時勢、誰もが抱える先行き不透明な不安から来るものなのかはわからない。だが、直感的に組まれたアレンジやフレキシブルな楽器や音響の使い方で、ただ一元的に不安になったり、歓喜に包まれたりというベタな印象にならないのが、非常に今日的だ。
後半は"鈍いナイフ"という切れ味の悪いナイフを意味する「Dull Knives」で、文字通りいつまでも延々と苦しませられる様子を歌い、久々にハードなバンド・サウンドがここぞと感覚とシンクロする。このあたり、一曲一曲を研ぎ澄ませた結果なのだろう。そこから神聖なオルガンが印象的な先行シングル「Follow You」、そして急転直下の「Cutthroat」へと一筋縄ではいかない人生を描き、しかし同時にその起伏を最大限、メロディやアレンジで表現しつくす、ある種の楽しみも感じられるのだ。ラスト(※日本盤ボーナス・トラックを除く)は歌とシンプルなギター・リフ、そしてカホンのようなオーガニックな打楽器を使った、控えめなレゲエ・ビートの「One Day」で、いつの日か穏やかな気持ちで過ごせることを祈る。それも強く祈るというより、"そんな日が来ればいいな"ぐらいの、リアリティのある表現だ。
迫力のあるヴォーカルや泣けるメロディを曲のどこでどう生かすかによって、モダン・ロックは大げさにもなるしリアリティを失う。言葉、メッセージが前面に立ち、そのぶん引き算のトラックがまだまだ多いポップ・ミュージック・シーンにおいて、今作でのIMAGINE DRAGONSはトレンドに迎合することなく、しかし新しい自らのやり方でバンドの価値を更新した。レコーディング作品として、またアルバム・スケールで聴く一貫したストーリー性のある作品として、これは時代を射抜いたなかなか稀有な結実なのではないだろうか。
常に現状のロックを再定義してきたIMAGINE DRAGONSの歴代アルバムもチェック!
▼リリース情報
IMAGINE DRAGONS
ニュー・アルバム
『Mercury - Act 1』
NOW ON SALE
UICS-1377/¥2,750(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
※歌詞、対訳、解説付、ボーナス・トラック収録
[UNIVERSAL INTERNATIONAL]
1. My Life
2. Lonely
3. Wrecked
4. Monday
5. #1
6. Easy Come Easy Go
7. Giants
8. It's OK
9. Dull Knives
10. Follow You
11. Cutthroat
12. No Time For Toxic People
13. One Day
14. Follow You (Summer '21 Version) ※日本盤ボーナス・トラック
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