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FOALS

 

FOALS

Writer 石角 友香

今夏の"SUMMER SONIC"への出演が決定し、ニュー・アルバムへの、そして今のFOALSがどんなバンドで、そしてどんなライヴ・アクトであるのか? という期待値を上昇させているファンも多いだろう。なんと言っても、日本公演の記憶は2013年の"FUJI ROCK FESTIVAL"のGREEN STAGE、そして翌年の単独来日と、いずれもアルバムで言えばひとつのピークを迎えた『Holy Fire』(2013年リリース)期で、次のアルバム『What Went Down』(2015年リリース)時にライヴを体験した日本のファンはほぼいないと思われるからだ。

00年代のイギリスはオックスフォードのカオスなハウス・パーティーから出現したFOALSは、初期のポスト・パンク期を経て、今でも人気の高い1stアルバム『Antidotes』(2008年リリース)で、シンプルなポスト・パンクとマスロックの融合に踏み出した。さらに、作品を重ねるごとにプログレッシヴな側面と、フロントマン Yannis Philippakis(Vo/Gt)の持ち味であるプリミティヴなリズム感覚やヴォーカリゼーション、そのリフでバンドの独自性を押し上げるリズムの概念の上に立つJimmy Smithのギター、UKのロック・バンドの中でも屈指の足し引きの美学を持つリズムとシンセで、オリジナリティを極めていった。だが、前作『What Went Down』期の終焉後の2017年8月、結成メンバーでベーシストのWalter Gerversが脱退。彼に代わる存在はいないとバンドが判断し、ニュー・アルバムではYannisがベースも担当している。

さて、肝心のニュー・アルバム『Everything Not Saved Will Be Lost Part1』だ。アナウンスされているとおり、"Part2"は今秋リリースという2部作である。直訳すると"保存されていないものはすべて失われる"というこのタイトル。先行配信された「Exits」はシンガロングしたくなるメロディを持ちつつ、常に監視され、出口のない心情が歌われている。Yannisいわく"世界がもう昔みたいに暮らすことができない場所になっているという確固たる考えがあるんだ。不吉な危険のようなもの、予測のできなさ、それから対峙する問題の大きさに圧倒されてしまうような感覚。反応はどんなものになるのか? そしてひとりの個人がし得る反応の意図はなんなのか? ということだね"とのこと。この言葉はこの2部作全体を覆うテーマでもあるように感じられる。それはブレグジットに揺れる当のイギリスはもちろん、リアルな人間のコミュニケーションの後退、環境問題など、安穏とはしていられない近未来に対する真っ当なヴィジョンだ。アルバム全体は、ディストピア的な思考に覆われた逃げ場のなさをリリックに託しているが、そこは現在のFOALS。起こり得そうな近未来を、時に怒りをこめ、時に逃避的に具体的なサウンド・プロダクションに落とし込んでいくセンスの前進が随所に見て取れる。

ほぼセルフ・プロデュースの本作だが、興味深いことにコ・プロデューサー兼エンジニアとして名前を連ねているのはFLORENCE + THE MACHINEの近作やDAUGHTERらを手掛けているBrett Shawであることだ。アルバム導入部のメランコリックなエレクトロが印象的な「Moonlight」やハウシーな「In Degrees」などに、Brettが手掛けるアーティストとの共通点を見いだす。と同時に、前作でダンス・ミュージック的な側面を担ったJames Fordもアディショナル・プロダクションとアシスタントとしてクレジットされており、彼のセンスも残っている。前半の「Exits」は一音一音のソリッドさとブレない配置、民族性とポスト・パンクという、FOALS節全開のナンバー。サブベースまでは鳴っていないが、低音重視で空間が歪むようなエレクトロの「White Onions」、生ベースが前面に出た作りが面白い「Syrups」と、強めのサウンド・プロダクションが続き、中盤以降はシンセとギター・サウンドの足し引きが聴きどころの「On The Luna」や、『In Rainbows』期のRADIOHEADを想起させるリズムの構築が印象的な「Cafe D'Athens」、そして生ピアノとエレクトロニクスに乗る疲れ果てた心情が歌われるラストの「I'm Done With The World (& It's Done With Me)」。"この物語の行方はどうなるんだ?"と、自分ごととして捉えられる感覚に陥る作品を、20年代を前に、FOALSは作らざるを得なかったのだろう。テーマ然り、サウンド・プロダクションの今日性然り。ギター・サウンドがヒップホップ経由で再定義されるシーンの中、ロック・バンドとして戦える具体物を完成させた彼ら。ロック・バンドとしても、純粋に新しい音楽としても、2019年、外せない作品であると言えるだろう。

"SUMMER SONIC"のタイミングでは本作を軸に新装したセットリストで臨むのか、それともベスト選曲で久しぶりの来日を盛り上げてくれるのか。いずれにしても、00年代からリアルタイム感を失わずにバンドが成し得る最新型を世界に発信し続けるFOALSを、今無視することはできない。


▼リリース情報
FOALS
2部作アルバム第1弾
『Everything Not Saved Will Be Lost Part1』
foals_jkt.jpg
2019.03.08 ON SALE
SICX-122/¥2,400(税別)
[Sony Music Japan International]
※歌詞、対訳、解説付
amazon TOWER RECORDS HMV
 
1. Moonlight
2. Exits
3. White Onions
4. In Degrees
5. Syrups
6. On The Luna
7. Cafe D'Athens
8. Surf Pt.1
9. Sunday
10. I'm Done With The World (& It's Done With Me)

■国内盤 購入者特典
・TOWER RECORDS:FOALS特製ステッカー

 
2部作アルバム第2弾
『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』
2019年秋リリース予定

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