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THE SMASHING PUMPKINS

2012年12月号掲載

THE SMASHING PUMPKINS

Writer 伊藤 洋輔

1995年――アメリカのロック・シーンは“何か”を探していた。それはKurt Cobainの自殺でグランジ・ムーブメントが衰退したシーンの活性化となる新たな決定打を模索していたのかもしれない。振り返れば、グランジの中心にいたドラマーはギターを持ちFOO FIGHTERSとなりカムバックし、一方、“俺は負け犬”と叫んだBECKの登場は新世代の台頭を予感させた。GREEN DAYは前年にリリースされた『Dookie』でMTVに夢中のキッズを虜にしロング・ヒット、WEEZERは後に数多くのアーティストに影響を与える名盤『Weezer(The Blue Album)』でデビュー。RED HOT CHILI PEPPERSは『One Hot Minute』でバンド崩壊危機を乗り越え、ノイズを掻き鳴らし続けていたSONIC YOUTHは『Washing Machine』で新境地を切り開いた――多種多様なロックが鳴り響いた1995年。そんな時代にこのアルバムは放たれた『Mellon Collie And The Infinite Sadness(邦題:メランコリーそして終わりのない悲しみ)』。Billy Corgan(Vo/Gt)、James Iha(Gt)、D'arcy Wretzky(Ba)、Jimmy Chamberlin(Dr)のオリジナル・メンバーからなるTHE SMASHING PUMPKINS、通称スマパンの人気を不動のものとした傑作ダブル・アルバムである。このバンドの冠となる、“90年代オルタナティヴを象徴する”とは本作の成功が齎したもの。全米アルバム・チャート1位を獲得、セールスもアメリカのみで1000万枚を記録し全米レコード協会(RIAA)のダイヤモンド・ディスクに認定、グラミー賞も7部門にノミネートされた、バンド史上最大のヒット作となった。とにもかくにも、1995年のロック・シーンを射抜いたのは、他でもないこの大作だったと言っても過言ではないだろう。

昨年末からスマパンの動向は活発だ。まず91年リリースのデビュー・アルバム『Gish』と93年リリースの2ndアルバム『Siamese Dream』がデラックス・エディションとしてリイシューされ反響を呼んだ。そして記憶に新しい今年の6月、スマパン完全復活を宣言するように約5年振りのオリジナル・アルバム『Oceania』をリリース。翌月にはファン垂涎の94年にリリースされたレア・トラック&B面集となる『Pisces Iscariot』のリイシューと、バンド初期から現在までを総括するような流れとなった。そんなタイミングで多くのファンが待ち望んでいたこの時がついにきた。スマパンが時代を射抜いた金字塔『Mellon Collie And The Infinite Sadness』がリイシューされるのである。全編リマスターはもちろん、2CD、デラックス・ボックス・セット(5CD+DVD)、LP(輸入のみ)と3フォーマットでリリースされる。とりわけこのボックス・セットに注目したいが、デモや初期ミックス、アウト・テイクからライヴ音源と、アルバム制作の裏側を捉えた64曲もの貴重な未発表音源を追加した5枚組CDであり、さらにDVDでは96年にロンドンのブリクストン・アカデミーで行われたステージと、同年ドイツのテレビ番組ROCKPALASTに出演した際のパフォーマンスを収めている。この時期はまさに飛ぶ鳥を落とす勢に乗ったスマパンであり、音源と映像でバンドの魅力を余すことなく堪能できるだろう。

『Gish』のリイシュー時に、米Rolling Stone誌のライターはこんなコメントを寄せた。“Billy Corganは90年代のロックに映像作家の如き繊細さを持ち込んだ。ギターを叩き壊すのではなく、恍惚の境地に達するまでひたすらストロークし続け、そして文学青年風に歌詞を紡いでゆくのだ”――そのコメントを引用するなら、Billy Corganの恍惚としたストロークの極北が『Mellon Collie~』だ。完璧主義者として有名なBillyなだけに、自身のイメージを細部にまで具現化した結果アルバムは2枚組とまで膨らんだが、感情の起伏を想うがまま吐き出した世界観は、繊細さと大胆さが同居したアート・ロックとして屹立している。壮大なストリングスに彩られた「Tonight, Tonight」、ヘヴィでエッジーな「Bullet With Butterfly Wings」に「Zero」、優美なセンチメンタル・ソング「1979」と、本作に連なる数多くの名曲は今もってまったく色褪せない。皮肉なことにスマパンはその後、この成功の代償のように波乱な時期に突入してくが、これも時代を射抜いてしまった性だろうか。

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