Overseas
THE KOOKS
2011年09月号掲載
Writer 伊藤 洋輔
約3年振りの新作『Junk Of The Heart』を手にTHE KOOKSが帰ってきた。デビュー・アルバム『Inside In/Inside Out』は100万枚を超える驚異的なロング・セラーを記録し、前作『Konk』では並みいる強豪を抑え全英チャート1位を獲得した。そんな流れから、いやが上にも新作の期待は高まっていたが、やはり彼らは裏切らない。確かな成長を感じる素晴らしい内容だ。
ここであるエピソードを話そう。ぼくがこの新作を聴いて良かったことを友人に伝えると、“KOOKS?ああ……ARCTIC MONKEYSの二番煎じだろ、まだ活動してたんだ?”なんて言葉が返ってきた。ちょっと待て!THE KOOKSは決してARCTICの二番煎じではない。しかし、デビュー当時を想えばこの勘違いも否定できない。同期であるARCTICとTHE KOOKSは、性急でメロディアスなロックンロールから、比較されやすい対象になっていたと思う。だが、アルバム毎に大胆な変化をみせるARCTICに対し、THE KOOKSは気取りのない堅実な歩みをみせる。そこに確固たるオリジナリティがあり、ハデさはないものの、その一歩一歩から紡ぎ出されたメロディ、ビート、言葉のひとつひとつに、あくまで自然体の音楽愛を実感できるのだ。そのかっこ良さに大袈裟な宣伝文句も過剰な祭り上げもいらない。新作で心底実感したが、フロントマン&ソング・ライターのLuke Pritchardは本当に唯一無二の表現者に成長した。もう“おかえり!”と叫び力強く抱きしめたい気分だ。
では、彼らの基礎情報をチェックしよう。プロデューサーには当初Jim Abbissの名が挙がり、2010年夏頃にはレコーディングも伝えられた。しかし、Jimとの作業に良い結果を得られなかったバンドは、これまでと同様にTony Hofferに落ち着く。そこで、やはり気心知れた間柄でのジャム・セッションを想像したが、楽曲の制作に関しては新たな手法を用いたようだ。それはTonyがパソコンで作ったベーシックなトラックに合わせ、Lukeが曲を膨らませていくというプロセス。また、これまでになくサンプリングやシンセサイザーを取り入れたのも、Tonyの助言が大きかったようだ。そしてLukeは“明るくて元気が出るんだ。太陽を浴びながら聴くアルバムだね”と語っているが、それはLAでのレコーディングという環境が影響しているだろう。彼の地の心地良い日差しのような、“ポップな暖かみ”が全編に溢れている。
そう、ポップなのだ。新作はこれまでになくポップに振り切れている。まずリード・トラックとなった「Happy」。THE KOOKSらしいアコギのカッティングにシンセのアレンジなどで爽やかなメロディを醸し、一聴しただけで口ずさんでしまう優しさがある。ピアノを活かした「How’d You Like That」のバブルガム・タッチは、ポップ職人THE FEELINGも真っ青だろう。「Fuck The World Off」はブルージーなアコギが炸裂するミドル・チューンだが、アルコールのような酩酊感がありとても気持ちいい。クラシカルな「Time Above The Earth」はとにかくLukeのハスキー・ヴォイスに注目だ。感動的なほど魂で訴えかけてくる。キャッチーなメロディに爽快なコーラス・ワーク、そして疾走感あるビートの「Is It Me」は問答無用のキラー・チューン。ラストの「Mr. Nice Guy」は現時点のバンドを総括するような、重層的なアレンジメントを堪能できる。
とても晴れやかなTHE KOOKS流ポップ・ソング集である。ソング・ライティングの質は高く、サウンド・デザインは飛躍的に拡がった。ここまで素晴らしい音楽を聴かされては、当然来日も期待してしまう。すでに今年は大規模な欧米ツアーが組まれているので、早くても来年かな?時間はたっぷりある。その間はアルバム全曲歌えるほど堪能して待とう。
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