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DISC REVIEW

Japanese

2014年09月号掲載

THE PIER

くるり

『THE PIER』

Release Date : 2014-09-17
Label : ビクターエンタテインメント

何度リピートしても現実の情景とリンクすることのない世界観である。クラシカルなオーケストレーションをフィーチャーしながら、アジア、東欧、時に中東など国や宗教を越えて人々が自由に行き来するイメージの冒頭の「2034」から、すでにくるり版"スチーム・パンク"は始まっている。しかも「Liberty&Gravity」のように1曲の中で時空を飛び越える壮大な音楽絵巻も登場するダイナミズムは劇中劇のよう。が、"最初のリバティ それは あなたと暮らした その暮らしで"というヴァースには、例えば「東京」から確かに続く岸田繁の人生と、ここまでの過程で鍛えられた精神を垣間見ることもできる。音楽的引用や思わず記憶の扉が開くメロディに溢れているこのアルバムは、存在そのものが音楽の未来を議論できる玉手箱だ。(石角 友香)


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感覚は道標

今回、オリジナル・メンバーで制作したのは90年代オルタナティヴ・ロックをひとつのモチーフとしていたからで、森 信行が戻った、というのはニュアンスが違うと本作を聴いて感じた。オルタナ、60年代英国のロックンロールやブギーからラテンまで、3人のセッションを起点に完成していった13曲には当時の焼き切れるような試行錯誤は感じない。でも当時よりカオスも一発鳴らせば吹き飛ぶようなエネルギーもある。特に「世界はこのまま変わらない」(のあとに"君が居なければ"と続くのだけれど)の多言は不要なパワー、「ばらの花」の構造とアレンジがモロに下敷きになっている「朝顔」など、単にいい曲以上の現在の迫力を自らの歴史を使って証明しているんじゃないか? 加えて先人への愛も随所に聴こえるのでぜひ耳を澄ませてみて。(石角 友香)


天才の愛

コロナ禍以前から、生活者として怒り心頭なことも呆れてしまうこともある。しかし、ストレートにそれを表現するには、キャリアも居場所も(くるりと京都という土地はやはり分かち難い)違うんじゃないかと作用したのだろう。まるで老獪な噺家のそれのようなユーモアだ。音楽的にはこれまでの彼らの持ち味をベースにしながら、ゲーム・ミュージックのようなニュアンスのSEが、いわゆる名曲感溢れるナンバーにも登場するし、円谷プロが今、特撮モノを作ったらこんな劇伴になるかもしれない「大阪万博」など、インストが並ぶのも面白いし、楽器の音は本物らしさが溢れつつ、音の配置が新しいアートのようでもある「I Love You」など、一流食材と道具を使った名前のない料理を出された感じ。味わえるかは我々次第だ。(石角 友香)


コトコトことでん / 赤い電車 (ver. 追憶の赤い電車)

「益荒男さん」、「大阪万博」と仰天の実験作を配信リリースしてきたくるり。久々のCDは、"ことでん"の愛称で親しまれている、香川県の高松琴平電気鉄道をモチーフに制作した楽曲と、2005年リリースの「赤い電車」をリアレンジした別バージョン。Homecomingsの畳野彩加(Vo/Gt)をフィーチャーした歌あり「コトコトことでん」は、ミニマムな打ち込みボサノヴァといったニュアンスで、界隈の魅力を昇華。同曲のインストや、出発メロディに、遠くへ行けない今、普段以上に旅情をかき立てられる。またホーンやローズを加え、フューチャー・ファンク調にリアレンジされた「赤い電車」は細部の音の抜き差しに注目。鉄道も音楽もまだ見ぬ世界を見せてくれるが、岸田 繁の両者に込めた愛情、バンドの遊び心に唸らされる。(石角 友香)


その線は水平線

10,000枚限定リリースのシングルは、表題曲を異なるアレンジで2パターン収録。BPM100、譜面に起こせばそれほど変わった曲ではない。しかし今のくるりが演奏すると、"今、必要なマインドセットはこういうことなんじゃないだろうか"と心揺さぶられる音像になる。テンポやコード感は「HOW TO GO」(2003年)を思わせ、最初のバージョンでの生の歪みが印象的でベースも含め重心の低さは通底する部分も。こちらのドラムは初顔合わせの屋敷豪太。Ver.2はシューゲイザーに近い音像で、ドラムはCliff Almond。15年近い歳月の末にもたらされたものはと言えば、慟哭や焦燥のアンサンブルが澄み渡る前進のエネルギーに変換されたことなのではないか。なおCDには昨年の"京都音楽博覧会"ライヴ音源も収録。(石角 友香)


THE PIER

何度リピートしても現実の情景とリンクすることのない世界観である。クラシカルなオーケストレーションをフィーチャーしながら、アジア、東欧、時に中東など国や宗教を越えて人々が自由に行き来するイメージの冒頭の「2034」から、すでにくるり版"スチーム・パンク"は始まっている。しかも「Liberty&Gravity」のように1曲の中で時空を飛び越える壮大な音楽絵巻も登場するダイナミズムは劇中劇のよう。が、"最初のリバティ それは あなたと暮らした その暮らしで"というヴァースには、例えば「東京」から確かに続く岸田繁の人生と、ここまでの過程で鍛えられた精神を垣間見ることもできる。音楽的引用や思わず記憶の扉が開くメロディに溢れているこのアルバムは、存在そのものが音楽の未来を議論できる玉手箱だ。(石角 友香)


奇跡/オリジナル・サウンドトラック

一介のチンケな物書きの極私的な心情を交えレビューする。想像を遥かに超えた事態に思考は追いつかない。3.11以降の音楽の在り方を考え続けても答えを見出せない。音楽の救いなんてただの美談じゃないかと諦観してしまう瞬間もある。なんだか悶々としてしまうし、空虚感を懐いてしまう。しかし、それでも僕は音楽を欲している。あなたもそうだろう。"3.11"が歴史的な転換点と位置づけられるのは間違いない。そして表現者には、それ以前以降では明確に違う切実な命題を突きつけられたはずだ。それぞれ、あらゆる葛藤が延々続いていくと思うが、くるりの本作はそれ以降にあるべきひとつの指標を、図らずも提示してしまったように感じる。3.11以前に作られた楽曲集だが、感動的な旋律は優しく寄り添ってくれるから。(伊藤 洋輔)


言葉にならない笑顔を見せてくれよ

今年6月にリリースされ初のオリコン1位 を獲得したカップリング・ベスト『僕の住んでいた街』は アバンギャルドなくるりの魅力はもちろん、カップリング曲にも関わらずこんなに素晴らしい曲がたくさんあるという、彼らの偉大さを改めて見せつけられた作品だった。今までのアルバムはそれぞれムードを決定づけるサウンド・コンセプトがあったが、今作にはそれがないシンプルなプロダクションと飾らないストレートな歌詞という形になっている。言うならば素顔のままのア ルバムだ。ストレートになった歌詞は今までよりもさらに人と向き合った言葉が並び、とても考えさせられる。彼らにしか表現出来ない感情が溢れた素晴らしい曲が詰まった作品に仕上がっている。(遠藤 孝行)


僕の住んでいた街

あぁーっ、よいよい!いきなりの祭ばやし的合いの手にまずビックリ(笑)。そんな新曲「東京レレレのレ」で幕を開ける、くるり初のカップリング・コンプリート・ベストアルバム。アコギ、厳かなピアノ、ささやくような歌声が印象的な「りんご飴」などの初期曲から、名曲「ワンダーフォーゲル」のシンセ・ポップなアレンジとの好対照ぶりに驚いた、「サマースナイパー」のホームメイド感たっぷりなサウンド。さらに、「すけべな女の子」はビートが疾走したかと思えば「さよなら春の日」は空を舞う花びらのように音色が揺れ・・・。アコースティック、轟音、エレクトロニカからジャズチックまでアプローチのレンジの広さにあらためて驚きつつ、それに軸を通す"歌ごころ"はやっぱりくるりだなと、あらためて感服!(道明 利友)


シャツを洗えば

GAPの40周年記念シングルとして発表されたこのシングル。A4の雑誌サイズという形態でCDショップだけでなく、書店やコンビニにまで置いてあるという展開も凄いが、この二組でシンプルなロックンロールに取り組むという何とも贅沢な選択の結果産まれた楽曲がとにかく素晴らしい。リズミカルなマーチング・ソングのようなポップ・ソングは、GAPというブランド・イメージから喚起された瑞々しさを放っている。力強いベースとギター・リフが引っ張るミドル・テンポは、青空の下を歩く力強さそのもの。ただただ聴けば、また一日を始めるフレッシュな活力となる最高のポップ・ソング。どれほどの意味があるのか分からないけれど、松任谷由実ではなくユーミンというポップ・アイコンに降りてきているところも、やっぱりいい。(佐々木 健治)


くるり鶏びゅ~と

錚々たるメンバーが集結し、くるりの名曲をカヴァーした鶏びゅ~と・アルバム。それぞれが趣向をこらしたカヴァーを披露しているが、その中でも別次元の名演を披露しているのが松任谷由実「春風」。いっそのこと、シングル・カットしたらいいのに。トラディショナルなメロディ解釈が新鮮なハンバート・ハンバート「虹」も素晴らしい。9mm Parabellum Bullet の「青い空」は、原曲を知らなければ彼らのオリジナルだと言われても納得してしまいそうな出来映えだし、Andymori「 ロックンロール」もカッコイイ。曽我部恵一「さよならストレンジャー」の渋いフォーク・カヴァーも流石の味わい。あと、「言葉はさんかく こころは四角」での木村カエラの素朴な歌声が好きです。(佐々木 健治)