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くるり

2012年07月号掲載

くるり

Writer 天野 史彬

アルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』以降、岸田 繁と佐藤 征史による2人体制での活動を続けてきたくるりが、その体制に別れを告げ、ギターに吉田 省念、ドラムに田中 佑司、そしてトランペットにファンファンという3人の新メンバーを加えた5人体制の新生くるりとして、京都を拠点に活動開始することを発表したのが、去年の6月。2人くるり時代を総括する2枚目のベスト・アルバム『ベスト オブ くるり -TOWER OF MUSIC LOVER 2-』のリリース・タイミングだった。その後、去年後半にかけて5人体制で夏フェスやツアーなどをこなしていくことで、リスナーにその新たな姿をお披露目しながら、バンドの試運転を重ねてきた彼ら。年末にドラマー田中の脱退はあったものの、この度、遂に新生くるりによる初のシングルのリリースが決定した。タイトルは、『everybody feels the same』。楽曲としては、表題曲「everybody feels the same」のほかに、現在CMでも流れている「o.A.o」と「my sunrise」の2曲、さらにもう1曲「ペンギンさん」という、全4曲のまっさらな新曲が収録される。
もし、あなたが何らかの形で新生くるりのライヴを既に経験しているならおわかりだろうが、新たなラインナップで活動開始したくるりのライヴは、2人時代の頃とは、かなり様相の異なるものだ。ドラマーのBOBOをはじめとする、様々な敏腕プレイヤーをサポート・メンバーとして迎え入れることで完成度の高いアンサンブルを作り上げ、見るものを圧倒してきた2人時代とは違い、新体制くるりは、バンドとリスナーとの間に独特の、とても穏やかな空間を作り出す。それは、音楽によって生み出される繋がりや、その中で生まれる人と人とのコミュニケーションを求める“人懐っこさ”と言い換えることもできるかもしれない。だが、それはもちろん新体制になったがゆえに急激に起こった変化ではなく、『ワルツを踊れ』、『魂のゆくえ』、『言葉にできない、笑顔を見せてくれよ』という3枚の名作を作り上げ、素晴らしき音楽的成熟を経ていく中で緩やかに起こった変化であり、そこには無論、東北の震災を含む様々な社会的事象や人々のムードといったものも、起因しているのだろう。
この度リリースされる『everybody feels the same』は、まさに、そんな新生くるりの活動のマニフェストとなるであろう、傑作シングルだ。まずは、冒頭のタイトル・トラック「everybody feels the same」の軽快なロックンロールで幕開け。疾走間のあるビートとうなるギター、そしてどこか愛くるしさのあるトランペットと、ファニーなコーラスが印象的な1曲。“OASIS BLUR SUPERGRASS HAPPY MONDAYS…”といった90年代UKロックのバンド名や、“ダッカ パリス 東莞~”と都市名を羅列する歌詞からは、異国の音楽や、まだ出会ったことのない人々に馳せるピュアで愛おしい思いを感じさせる。そして、そのすべてを最終的には“everybody feels the same”のコーラスに集約させていくところに、今のくるりのメッセージが込められているのだろう。続く「o.A.o」は、「ばらの花」や「ハイウェイ」を思わせる、淡々とした中に美しい叙情を孕ませた名曲。そして「my sunrise」は、アコースティックな色合いを強めたチェンバー・ポップ。緑が繁る森の中で木漏れ日を感じながらうたた寝でもしているかのような、暖かで幸せな情景が思い浮かぶ1曲だ。そして最後を飾る「ペンギンさん」も、「my sunrise」同様、優しげな雰囲気に包まれたアコースティックな1曲。これら4曲すべてには、隣にいる誰かにそっと微笑みかけるような親密さや、地に足のついた生活の中にある幸せを噛み締めるような切実さ、そして、安易なシニシズムやネガティヴィティなんかは跳ね返すような大らかさがある。くるりは、「青い空」、「ワンダーフォーゲル」、「ワールズエンド・スーパーノヴァ」、「ジュビリー」、「温泉」など、その時々の時代性を反映しながら、その中で“私たちは、本当はこうあるべきなんじゃないか?”という鋭い問いかけを世に投げかけてきたが、このシングル『everybody feels the same』は、まさに、2012年の日本で生きる私たちに投げかけられた、新たなるメッセージ・ソング集と言えるだろう。リリースは8月1日。この素晴らしき名曲たちに出会えた喜びを、早くあなたと分かち合いたい。

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