Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

ヤバイTシャツ屋さん

Skream! マガジン 2017年03月号掲載

2017.01.31 @渋谷TSUTAYA O-WEST

Writer 沖 さやこ

全公演ソールド・アウトの大盛況となったヤバイTシャツ屋さんの初全国ツアー。追加公演の三国ヶ丘FUZZを除けばファイナルとなったO-WESTはもちろん満員で、2階席も一部一般開放するほど大賑わいだった。この日のゲストは打首獄門同好会。2016年7月の池袋Adm公演以来のヤバTと打首のツーマン・ライヴである。

盟友バックドロップシンデレラの楽曲をSEに登場した打首獄門同好会が轟音を鳴らし演奏に入る......と思いきや、自分たちの出演が発表される前にチケットがほぼ売り切れていたことを受けて、"まずは説明をしようと思う"とまさかのVJ付きMCタイム。ヤバTと自分たちの共通点を挙げながら、"天王寺"は東京で言う"池袋"、"喜志駅"は関東で言う埼玉県の"志木駅"(フロントマン大澤敦史の故郷らしい)と語り、ヤバTの「喜志駅周辺なんもない」を「志木駅周辺なんもない」にして替え歌カバーする。フロアからシンガロングも起こり、掴みは完璧だ。
続いて彼らが届けたのは「島国DNA」。この曲はお魚賛歌なわけだが、彼らはVJでさらにその歌詞を裏づける様々なデータを届けるから、"本当に日本人は魚が好きなんだな......勉強になる"と歌詞が完全に腑に落ちる。加えてこの重圧なサウンドが、より歌詞の説得性を増加させるという映像、歌詞、音の完璧なトライアングルに今夜もたちまち呑まれてしまった。フロアに投げ込まれたサメのビニール風船が舞う様子も、観客の姿が荒波のように見えてきた。
「歯痛くて」では客演参加している大澤の主治医である歯科医ラッパー Dr.COYASSが"ヤバイTシャツ屋さんの前にヤバイ歯医者さんが来たぜ!"とゲストとして登場。虫歯の恐ろしさを歌にすることで、リスナーを"歯医者に行かないと......"と思わせてくれるロック・バンド、なんて優しいんだ。キャッチーな楽曲、男女ヴォーカル、誰かをディスるわけではないところは、打首とヤバTの共通項。フロアも絶えず笑顔で、ポジティヴな空気がとめどない。ヤバTの「ネコ飼いたい」を受けて"ネコを飼ったあとの話をしよう"とネコへの究極の愛を綴った「猫の惑星」を届け、ラストはキラー・チューン「私を二郎に連れてって」と「日本の米は世界一」の2曲を畳み掛け、会場をハッピーで包み込んだ。

こやまたくや(Gt/Vo)の"ヤバイTシャツ屋さんが始まるよー!!"でこの日の主役ヤバイTシャツ屋さんのライヴがスタート。「We love Tank-top」、「喜志駅周辺なんもない」と、のっけから疾風のごとく駆け抜ける。彼らのライヴの魅力はまったく守りに入らないという思い切りの良さ。こやまはエフェクターを使わずギターをアンプに直挿しで、潔すぎる全力の演奏には"ミスったらどうしよう"なんて考えがよぎる余地もない。3人はとにかくいま湧き上がる"楽しい!"という気持ちを露わにしていった。高揚を止められないと言わんばかりに加速する「無線LANばり便利」はこやまが何度もステージすれすれまで前に出て観客を煽る。しばたありぼぼ(Ba/Vo)も笑顔で観客を隅から隅まで見渡しながら低音を繰り出し、もりもりもと(Dr/Cho)も高速ドラムを炸裂。3人の尋常ではない瞬発力に観客もさらに突き動かされてゆく。
自己紹介でボケとツッコミを繰り返す"くそみたいなMC"をしたあとは「DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ」へ。こやまがゆっくりギターを弾いてサビを歌い出すとシンガロングが起こり、そこからギターが加速する瞬間は胸に迫るものがあった。「L・O・V・E タオル」、「天王寺に住んでる女の子」、「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲」と軽快なグルーヴでフロアのテンションも上がりっぱなしだ。"アルバムで一番ゆったりした曲を"とこやまが言い、「週10ですき家」か? と思いきやまさかのアルバムで最もヘヴィな「ZIKKA」へなだれ込む。しばたのベースも野太く轟き絶好調。しっかりと3人で力を合わせて作り出すサウンドスケープも、気持ちがいいくらいの剛速球ストレートだ。

チューニングをしながら初めてのツアーを振り返り、振り返っていたせいでチューニングがうまくいかないと話すこやま。ゆっくりと試し弾きをし始めた彼を見てしばたが"めっちゃいい雰囲気になってるから、なんか言わなあかんのとちゃうの?"と声を掛けると、"なんも考えてへんのに、なんかいいMCせないかん空気作ってもうた。どうしよう!......歌うわ!"と言い「流行りのバンドのボーカルの男みんな声高い」。声を振り絞って絶叫する歌もギターの音もよれていたが、それを超えるほどの熱い心意気がただただ眩しかった。「ネコ飼いたい」では"全員歌ってくれよ!"という呼び掛けであたたかく優しい大合唱を、「スプラッピ スプラッパ」ではサークル・モッシュを起こし、本編ラストは「Tank-top of the world」。ダイバー乱れ打ちの熱狂を巻き起こし、メンバーはステージをあとにした。

アンコールでは4月にリリースするシングル曲「ヤバみ」を披露。早口をまくしたてるツイン・ヴォーカルとマイナー・キーのメロディはいままでの曲よりも少々クールでシリアスめか。ラストの「あつまれ!パーティーピーポー」はフロアがサビでワイパー、"しゃっ!しゃっ!しゃ!しゃっ!しゃっ!"、"えっびっばーっでぃっ!"の大絶叫が起こる。最初から最後まで"ツアー楽しい、今日も楽しい、バンド楽しい!"というポジティヴな気持ちが溢れ、それが会場すべてに浸透していくライヴだった。彼らのバンドの原動力である"楽しい"はどこまで多くの人の心を動かすのか。そんな期待に胸が躍った。

  • 1