Japanese
モーモールルギャバン
Skream! マガジン 2016年01月号掲載
2015.12.12 @Zepp DiverCity
Writer 沖 さやこ
いつになってもモーモールルギャバンはステージに真剣勝負を挑んでいる。これだけライヴの本数を重ねても、過去にZepp Tokyoや新木場STUDIO COASTでワンマンを経験したことがあっても、彼らはステージをナメたことはないのだ。フル・アルバム『シャンゼリゼ』は、ライヴ活動を休止させたモーモールルギャバンが自身の音楽と向き合い制作されたものである。観客もまた、その全身全霊の音楽とステージに応えるべくすべての音を吸収し、ステージの上で起きている出来事をひとつも見逃さぬように熱視線を送っていた。
開演前に流れていたユーミンの曲が止まると暗転。「さらば人類」のイントロが鳴り響き、ステージ前に張られた白い幕にメンバー3人のシルエットが浮かび上がると、フロアからは大歓声が沸いた。その幕が一気に落ちると、『シャンゼリゼ』の衣装に身を包んだ3人と「さらば人類」のMVに用いられた神輿のデザインを模したステージ・セットが華々しく我々を迎える。それに加えてライヴハウスの域を超えた華やかな照明。その様子を見て、やはりモーモールルギャバンは視覚でも音楽性を発信していくスタイルのロック・バンドの先駆けだと再確認する(彼らのジャンルはJ-POPだけれど)。
あの手数のドラムを叩きながら歌いドラムの椅子やお立ち台に移動しながら観客を煽るゲイリー・ビッチェ(Dr/Vo)には毎度のこと感服だが、ユコ=カティ(Key/Vo)もT-マルガリータ(Ba)も負けていない。マルのベースはドリルのような迫力で、何度も高くジャンプするユコの弾くキーボードもウワモノでありながらその音の強さは打楽器の役割も果たす。ライヴ活動休止を経て復活したモーモールルギャバンは、3人全員が全身で楽器を弾くアーティストになっていた。3人の音が高速ピンボールのようにぶつかり合い高め合う。「愛のテーマ」はゲイリーの畳みかける台詞とドラムが爽快だった。
8ビートを刻みながらMCをするゲイリーはものすごい息切れだった。"とうとうツアー終わっちゃいますよ。悔いを残さないように俺たち全部絞り出していくんで、お前らも全力でかかってこい!"と叫び「細胞9」。全員がリズム隊と言ってもいい巧みなリズム合戦、全員がウワモノと言っていいほどメロディアス。これもモーモールルギャバンの醍醐味のひとつだ。そのあとは「ナイトメアダンス」、「クレイジーベイビー」と続け、『シャンゼリゼ』の楽曲たちの持つ勢いの中にあるセンチメンタルな深みや余韻が会場を包む。パワーだけでは成し得ない音楽はこちらの琴線に触れ、その不安定な美しさに酔いしれた。この2曲は前半のクライマックスだったと思う。メンバー全員のきらきらした笑顔も印象的だった。
インスト・ナンバー「MAD MADONNA」で3人の出す音を味わい、それぞれが強い意志を持った音であることを噛みしめる。3つの個性が独立しながらもその3つが合わさりひとつの絵を描くところは、バンドとしてとても理想的な状態ではないだろうか。ゲイリーのドラム・ソロからベースがクールな「ハイヒールブルース」、ミディアム・テンポながらに巧妙なリズムが心地いい「紅のベッド」に続き名曲「悲しみは地下鉄で」。この曲が切なさ以上に優しさを発していたのは、ゲイリーの歌をユコとマルが一心に支えていたのも理由のひとつかもしれない。ふらふらで汗だくになったゲイリーの"こっから駆け抜けていくぞ、準備できてんのか! ワンマン長えな(笑)! 最後まで駆け抜けてるぞ!"というMCから「ユキちゃん」、「サノバ・ビッチェ」とキラー・チューンを畳みかける。ちょっぴりセンチメンタルなキーボードとアグレッシヴなドラムのコントラストがモーモーらしい「バイララ」も味わい深い。
そしてラストは「サイケな恋人」。イントロのゲイリーのドラムは集中力のかたまりで、その清廉とした気魄に息を飲む。精度、音鳴り、すべてが完璧だった。恒例のパンティー・コールの最中、ゲイリーはこう言う。"ああ、ツアー終わっちゃうなあ。まだまだ未熟な俺たちだけど、お前たちと一緒に今日という日を過ごせて......。こんな年末の土曜の貴重な時間とお金を割いてここに来てくれてありがとう!" 彼らはいつもとても謙虚で、感謝を忘れない。だからこその全力のパフォーマンスだ。ドラムを離れてステージ前方まで出てきていたゲイリーがドラムに戻ると、ラストはユコとマルがふたりでそこに出て来てひたすら激しく音をかき鳴らす。そんな3人のエモーショナルな様子がとても眩しかった。
アンコールではマルが来年の初夏にアルバムをリリースすること、先日その制作に入ったこと、アニメーターのすしお氏とコラボレーションをすることを発表した。そしてミディアム・ナンバー「俺、風呂入るTonight」と凄烈な勢いを放つ「野口、久津川で爆死」を演奏。ダブル・アンコールで「スシェンコ・トロブリスキー」を演奏しハッピーエンドで全国ツアーを締めくくると、ゲイリーはふらつきながら椅子から立ち上がり、スタッフに倒れ込むように背負われ、笑顔でステージを去った。バンドの音楽にかける熱い想いを五感すべてで感じる――モーモーのライヴはいつもそうなのだが、この日はそれに加えてそんな彼らの死ぬ気で音楽に勝負を挑む姿勢に感銘を受けること、そして彼らの作る音楽の良さを感じる瞬間だらけだった。ライヴとは"live"。生きることそのものである。モーモールルギャバンはそれを体現する生粋の音楽家なのだ。
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