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LIVE REPORT

Japanese

THEラブ人間

Skream! マガジン 2012年04月号掲載

2012.03.11 @渋谷 CLUB QUATTRO

Writer 矢島 大地

"3年前から......3年前から、こうなるってことは、とっくに知ってたよ!"――フロント・マンである金田康平は序盤、人と期待で破裂しそうな程パンパンに膨らんだフロアへ激しく叫んだ。しかし、そう知っていたのは彼だけだったんだろうか?


THEラブ人間の結成3周年を記念し行われた単独演奏会は疾風迅雷のSOLD OUT。超満員だ。予定時刻を少し過ぎた頃、SE「友達が帰った後で」が流れ出す。ステージに向かって人が一気に押し寄せる様は、ハードコアのライヴかと勘違いするほどだ。笑顔の5人が楽器に手を置くと、"THEラブ人間 フロム東京"と金田が告げ、鳴らされたのは「東京」。金田の綴る言葉が赤裸々さと温もりを持って突き刺さる。"ここは僕らの街 東京/心臓を見せ合えばいいのです"という言葉は、フロムどこの誰にとっても今宵が素晴らしいものになると確信させる祝音だった。


「悪党になれたなら」「りんごに火をつけて」と立て続けに披露され、バンド5人がそれぞれに金田に合わせて歌を口ずさんだりと、楽しくてしょうがないという空気だ。ツネ・モリサワはキーボード前から飛び出して縦横無尽に往来、豊かな表情を振りまく。もしかしたらこの日、彼は金田と同じくらい喉を使っていたかもしれない。マイクのない場所だろうと、満面の笑顔で歌い続けていた。


金田は、パンパンのフロアに"ここに来られなかった奴らに今日のことを伝えるのは、俺たちの仕事でもテレビの仕事でもない。今日自分が何をどう感じたのか、伝えて行くのは、君たち" と話す。きっと誰もが百も承知していたことだ。目をつぶろうが耳を塞ごうが、心に焼き付いてすぐ誰かに伝えたくなるような熱がステージに存在していた。新曲「アンカーソング」でも、温かな谷崎のバイオリンに乗って繰り出された「京王線」でも、放たれる言葉は飾りがなく、どれだけ穏やかな楽曲であっても、想いの輪郭がハッキリとしていて激しい。丸いときも、刃物のように鋭利なときもある。気付けば拳を全力で握っていた。


中盤、カラフルな照明のなか放たれた「これはもう青春じゃないか」では、フロアが大合唱。全身全霊の音楽を体でも表現する金田のパフォーマンスに、拳を掲げ、声を張り上げ全力で答えるオーディエンス。理屈を越え、問答無用で老若男女の心臓と涙腺を鷲掴みにするような中盤のハイライトだったと言える。


そして、金田は"あの日から1年経った今、歌うこと"についてゆっくりと語り出す。バンドも様々な困難に苛まれた1年だったんだろう。今生きることを全力で歌って来た彼らが背負ったものも大きかったはずだ。"1分借りてもいいかな。......失われた全ての命に"と、1分間の黙祷が捧げられ、キーボードに乗せて「レイプ・ミー」が始まる。歌にとり憑かれるような壮絶な光景。剥き出しの叫びと共に、その覚悟を鳴らしていた。


3年前に金田とツネ・モリサワが交わしていた会話からTHEラブ人間が生まれたこと、またここから進んで行くという決意。金田は明るい表情で、しかし、しっかりとした口調で話す。"ありがとう"と改めて告げ、本編は「砂男」「おとなになんかならなくていいのに」で終了した。


アンコールはまさに怒濤の勢い!まだまだ楽しみは続いていくのだ。この日に発売が告知された5月にリリースされるニュー・アルバム『恋に似ている』に収録されるという新曲「愛ってかなしいね」と、「Goodbye City」で色彩豊かな喜怒哀楽をぶっ放し、彼らは去って行った。......のだが、やはり拍手は収まらず。ダブル・アンコールはなんとリクエスト大会(!)。「shimokitazawa-nite」と「黒いドロドロ」を、原点を再確認するように歌い、記念すべき夜は幕を下ろした。


まるで、THEラブ人間という1つの人格と一晩中語り合っていたかのような感覚だった。最後、金田康平は"俺たちの音楽で世界を変えるんだ!"と叫んだ。その言葉を聞いて"できるはずがないよ"なんて思う人は誰もいなかっただろう。それは、隣の人を思いやったり愛したりすることから自分の世界が変わって行くということを、この日彼らから教えてもらったからだ。"もっととてつもないこと"を起こすたびに、金田康平は"こうなることはとっくに知っていたんだよ!"と叫ぶんだろう。しかし、あの夜あの場所にいた誰もが"とてつもないこと"をもうとっくに予感しただろう。世界を変えるまで走り続けてくれなきゃ困るバンドだ。心からそう感じさせてくれる夜だった。

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