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INTERVIEW

Japanese

2026年02月号掲載

HALFBY

ほぼ四半世紀にわたるHALFBYこと高橋孝博の音楽性を一言で表すのは難しい。ざっくり言えばダンス・ミュージックとインディー・ポップ、そこに独特な懐かしさをDJ/トラックメイカーの感性で溶け込ませるマジックは、今もなお誰にも似ていない。そして2021年10月に完結した"ハワイ3部作"以来となる新作『The Sound Of Memory Lane』は、90年代のポップネスやエッジが窺える一枚だ。意外にも今回初共演のCornelius等、国内外のゲストも多数参加した本作の制作プロセスを探る。

バンド・サウンドが好きな人たちにも 同じような目線で聴いてもらえる作品に仕上がった

-"ハワイ3部作"から約4年経過して昨年のシングル連作、そして今回のニュー・アルバム『The Sound Of Memory Lane』の方向性には驚きました。この間にどういう変化があったんでしょうか。

大きな変化といえば子供が生まれて育児が始まりました。生活も一転しましたが、前作のアルバム(2021年リリースの『Loco』)からのムード感や音楽性の継続は当たり前に意識していて。"ハワイ3部作"を作ってるときは、コロナが影響していたのでテンションは低めというか、内に向いてる感じはあったんですけど、今作はコロナ明け初のアルバムだったので、意図せずテンションはちょっと高めというか。それには自分でも驚いていて(笑)、中盤に急いで緩めの曲を足したり。

-コロナが明けてからDJの現場が動き出したことの影響もあるんですか?

そこは自分の中で1つ区切りが付いていて。以前はクラブ・トラック的なものを意識したり、自分のDJに反映できるような曲を目指したりしてたんですけど、"ハワイ3部作"の時点で世界的にもニュー・エイジやアンビエントのムーヴメントがあり、日々のリスニングとしてもかなりそこからの影響が大きくて。その結果なのかもともとそうだったのか、あまりDJでのプレイを意識して曲作りをしなくなったというか、もちろんダンス・ミュージックとしての構造であったり、グルーヴであったり基本的なことは意識するんですが。
なので、わりと振り切った形で、今作はHALFBY前夜の1999年以前に聴いていた、いわゆるバンド・サウンドからアイディアを積み立てていこうかと。
例えば90年代のアメリカのオルタナティヴなロックや、イギリスのブリットポップなんかの流れで、2000年代初めにはビッグ・ビートやネオ・ラウンジなんかも盛り上がっていて。イギリスだとNorman CookがTHE HOUSEMARTINSからBEATS INTERNATIONAL、FATBOY SLIMと、全てを体現していたんですけど、その辺は日本だと軽視されがちというか。 別にNorman Cookを目指したわけではないんですが、そうした渋谷系の流れを含めた90年代から00年代初めに聴いていた音楽を、HALFBYを始めたときのDJ的スタンスではなく、現在のHALFBYの軌道上で音像化できないかなーと思ったのが今作というか。サンプリングという手法自体が好きなので、そういったダンス・ミュージック的な手法やアイディアはキープしながら、ポップ・ミージックとしての耐久性を上げることに専念したことで、バンド・サウンドが好きな人たちにも同じような目線で聴いてもらえるようには仕上がったのかなと、周りからの反応を聞いて思っています。

-HALFBYのイメージとして90年代の渋谷系っていうところは大きいと思います。

そうなんです(笑)。でも、渋谷系の系譜で紹介してもらうことはあまりなくて。唯一、川勝正幸さんが"ポップ・カルチャー年鑑"を出されて、"渋谷系の京都代表"みたいに書いてもらえたときはすごく嬉しかったです。
自分の音楽のベースとなっているものは、間違いなく90年代の渋谷系というムーヴメントであって、彼等の作品はもちろん、紹介しているレコードやファッション、映画やアート・ブック等、それらを取り巻くカルチャー全てからすごく影響を受けてました。インターネットの普及も現在程ではなかったので、全てにおいて東京と京都では時差がありましたが、新譜のレコードだけは同じように買えたので、バンドを組むこともなくただのリスナーとしてひたすら追い掛けていました。
渋谷系と一口に言っても、当時は世界中で渋谷に一番レコードが集まってる、みたいに言われていた時代で、多様なカルチャーが混在して個々に盛り上がっていたわけですが、その中でも、Cornelius擁する"トラットリア"レーベルの全てに強烈に影響を受けました。僕の渋谷系とはほとんどイコールで"トラットリア"なので、極端に言えば例外を除いてそれ以外は別物というか。ずいぶんいろいろな音楽を聴くようにはなりましたが、今でも変わらず僕の指針となっています。

-90年代は音楽に限らず1つのトレンドでもありますが、HALFBYの新作はより解像度が高くて個人史的でもある?

僕はコンセプトから始めるのが好きなんで、今回のアルバムにもなんとなく90年代にフォーカスするというのがまずテーマとしてありました。サブスク等のデジタルな音源と、レコード等のフィジカルな音源を両立し、過去最高の情報量で音楽を聴くなかで、日常生活の変化や加齢による肉体的な衰えももちろんあったりして、現在の自分にフィットする音楽はどんどん精査されていきました。現在進行形のアーティストも多く聴いているなかで、それらにも90年代のムードを感じることが多く、自分は一番そこに惹かれていると気付いたんです。しかもそこにはすでに懐かしさが内包されていて。以前は音楽に感じるノスタルジーというのは、40年代の戦後のジャズであったりアメリカのオールディーズであったり、いわゆる古めかしい音楽からだったんですけど、今は自分が10代の頃に聴いていた90年代の音楽がすでに懐かしく聴こえると、これってノルタルジーの更新じゃない? と。都合良い解釈ですが(笑)。それでHALFBYの活動以前に聴いていた音楽を改めてテーマにして、アルバムとしてパッキングすると楽しそうだなっていうところからの考察だったんです。

-ここからは具体的に収録曲のお話をお伺いしたいと思うんですが、小山田圭吾(Cornelius)さんをフィーチャリングした「Sleep Machine」は小山田さんのシグネイチャー的なサウンドとギター・リフで主に構成されていて、こういうことをできる人は他にいないんじゃないかなと。

僕にとっても渋谷系とはイコールで小山田圭吾氏でもあるので、思い切ってオファーしました(笑)。
先にデモ・トラックを作って、そこにギターを弾いてもらえるよう小山田君に聴いてもらったんです。
OKが出てわずか1週間程度で、トラックの隙間を縫うように何本ものギターがレイヤードされた、ギターのみで完璧なアレンジとも言えるデモが返ってきました。たしか台湾ツアー直後とかのタイミングだったと思うんですが、なんだかプロのすごみを感じました。世界でも稀有なアーティストですが、ギタリストとしても改めてすごい人なんだなと、当たり前に感動しましたし、Corneliusといえばのエンジニア 美島(豊明)さんによるクリアな音像にも、ミックスの指標として胸を借していただきました。

-今作のテーマとタイミングだから小山田さんに頼もうと思われたんですか?

正直なところ"いつか共演したい"みたいな気持ちも全くなかったんです。Corneliusに関してはただのファンなので。恐れ多いというか。ただ、櫻木(景)さんとアルバムのコンセプトについて何度か打ち合わせしているなかで、"そろそろおやまっちゃん(小山田圭吾)に参加してもらうのもいいんじゃない?"って言われて。それでもいやいや無理無理という状態は続いたんですが、不思議とそこから少しずつ意識が高まっていったというか。その後も何度もCorneliusのライヴは観に行きましたし、VELLUDOの渋谷クアトロのライヴのときに、楽屋で小山田君とマイブラ(MY BLOODY VALENTINE)やRIDE、シューゲイザーやマンチェ(マンチェスター)の話になって、その流れでCANDY FLIPのTHE BEATLESカバーやアルバムも良かったよね~みたいな話をしたことも自分にとっては大きくて、そのへんを曲に反映しながらオファー用のデモを作ろうかなーなんて流れが生まれて。