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INTERVIEW

Japanese

のうじょうりえ

2025年06月号掲載

のうじょうりえ

Interviewer:吉羽 さおり

それでも世界が続くなら主催レーベル YouSpica AOVAから、デビュー・アルバム『君を助けない』をリリースするシンガー・ソングライター、のうじょうりえ。アコースティック・ギターを奏で、平熱感のある、それでいて凛としたヴォーカルで歌うその楽曲は、忙しなく、様々な情報やしがらみが絡まった社会のなかで、息をつける、自分のリズムで呼吸ができるような束の間の時間をくれる。静かに自分と向き合うひとときは、穏やかなばかりではないし、後悔が襲ってくることもあるけれど、聴き手の今の心の形を知らせてくれるような作品がこの『君を助けない』だ。オーガニックだけど温かいだけじゃない、アコギを基調にしたオルタナティヴなサウンドでスッとその手を目の前に差し出してくる、のうじょうりえとはどんな人なのか。

-今作『君を助けない』がデビュー・アルバムとなりますが、のうじょうさん自身の音楽のキャリアとしてはどのくらいになるんですか。

弾き語りで言ったら、たぶん10年くらいになるかなっていう感じですね。最初は歌がやりたくて始めたんです。ただ、楽器は全然できなくて。高校卒業して歌をやりたいと思ってバイトしたりしながらボイトレに通っていたんですけど、そのときは何したらいいか分からない状態で。21~22歳のときに、自分の曲を作りたいなと思ったんです。それで楽器を始めて、そこから2年後くらいに本格的に弾き語りを始めた感じでした。

-のうじょうさんが歌を志すきっかけとなったアーティストはいたんですか。

例えば誰かに憧れて、この人にみたいになりたいというのはなかったので、これは歌が好きになったきっかけになるんですけど。中学生のときに友達とカラオケに行って、歌を褒めてもらったんです。もともと音楽を聴くのは好きだったんですけど、自分って歌えるんだってそのとき初めて知って。そこから歌うのが好きになったので。高校に進学して、そこがわりとみんな大学に行くような高校だったんですけど、大学に行く気もなく。やりたいことが音楽しかなかったんですよね、進路を考えたときに。音楽やりたい、やろうっていう感じでした。

-その高校時代に、自分で曲を書いてみようかというのは?

全然なかったんですよね。軽音楽部とかでもなく、楽器も1つも弾けなかったし。音楽に触れる、作るという機会がなかったんです。なんでその発想がなかったのか、今は分からないんですけど。

-となると友人たちはびっくりしますよね。"大学じゃなく音楽の道に進むの?"って。

高校のときはいい加減に過ごしていたので、学校は好きだったから行ってたんですけど、全く大学に行く気もないような生活をしてたから、"たぶんこいつは無理だろう"みたいなのは感じていたと思うんです。国語だけは好きだったんですけど、あとは赤点か赤点ギリギリかくらいのラインで、卒業できないよって言われるレベルだったので。だから、フリーターになるって言っただけでも周りは安心したんじゃないですかね。

-そこからギターを始めて、さらに自分の曲を作ろうとなっていくわけですが、自分は何を歌うのか、どういう曲を歌いたいのかは漠然とでもありましたか。

いや、分かってなかったんじゃないですかね。ギターを始めて1~2年くらいで作曲を始めているので、できることも少ないから、とりあえず目の前に浮かんだものを形にするので精一杯で。弾けるコードも少ないから、そのなかでカポを付けてなんとか形にしてるみたいな。それで無理やり人前でライヴをしたり、曲を作ったりしていたので。当時は、自分がどういう曲を作ろうとか、そういうところまで頭が回っていなかったです。

-振り返ってみると、どういう曲を書いていましたか。

今思えば、子供っぽかったですね。ただ、当時から自分の気持ちでは書いていたんじゃないかなと思います。

-今、のうじょうさんはミュージシャンでありエッセイストという肩書きもありますよね。学生時代は国語も好きだったということですが、文章を書くことは好きだったんですか。

書くのは好きでしたね。当時、ちょうどアメブロとかが流行っていた頃だったのでブログもかなり書いてましたし。あとはずっと忘れてたんですけど、小学校の卒業文集を見返したら、将来の夢は作家と書いているんですよね。今エッセイやコラムを書かせてもらっているのが"ツブサ・スギナミ"というサイトで、もともと高円寺に長く住んでいたので、杉並/高円寺のコラムを書く仕事を貰っているんです。それを始めて、文章を書くのが好きだなって改めて思いましたね。2,000~3,000文字の月1のコラムなんですけど、書いていて楽しいなっていうのと、長い文章を書くことによって、作曲にも影響をしている部分があって。人に話すことで自分の気持ちに気付くみたいなもので、自分の考えを文章に起こすことで整理されるというか。曲も一緒だと思うんです。自分が正直に書いたものを見て、良くも悪くも評価されたりとか、人によって反応が違ったり、自分はこう思うというのが返ってきたときにすごく嬉しかったので。こういう考えもあるんだなと思ったら、正直に発信すること、人に届けることって大事だなと思いましたね。

-今回のアルバムも自分自身の視点で正直に、時に解決しない思いや疑問等も繊細に綴られていますが、ここに至るまでのなかでも歌にすること、伝えたいことの変遷というのはある感じですか。

10年くらいやっているなかで、自分の曲を作りたいなとはっきり意志を持ち始めたのは2~3年目くらいからなんですけど、このアルバムの前まではいろんな曲を書いてたと思うんです。その全てが本当で、そのときの自分の気持ちを正直に書いたつもりだったんですけど、今回のアルバムに収録した曲はここ1年くらいで書いたもので、この1年で自分の環境や心境とかも変わっていて。特にそうしようとしたわけじゃないんですけど、自分のことや環境を見直して、一回、自分が違和感があるものを遠ざけようと思ったんです。となったら、自分のことを大切に思ってくれている人や自分が大切にしたい人がちゃんと見えてきて。1つのことに深く、長い時間向き合えるようになったんです。そうなると、例えば以前の曲だったら10のうち7くらいまでしか書いていなかったのを、今は10まで掘り下げようとか、もっと深いところまで考えて形にできるようになった気がしますね。その分、葛藤もあって。前と違うところもあるので、じゃあ前が嘘だったのかとか今が本当なのかなとか、これは合ってるのか合ってないのかとか、その葛藤も含めて全部、形にしたアルバムなんです。なので、"過程"に近いですかね。

-そうなんですね。それが短期間のうちに曲として形になったというのは、気付かないうちに蓄積されていった違和感があったのかもしれないですね。

今思えば、気にしないようにしてたとか流していただけで、違和感はあったなと思いますね。それをたぶん、上手く形にできなかったりとか、これは言わないほうがいいかなとか、嫌われたくないなという気持ちがどこかにあった気がするので。それを一回取っ払ったアルバムですね。

-そういう制作では苦しみがあった感じですか。

はっきりありましたね。今もずっと悩んでいる感じなので。1つのことを真剣にやるって怖いじゃないですか。

-そうですよね。

自分が考えていることが間違っていたらどうしようとか、否定されたらどうしようとか、誰にも受け入れられなかったらどうしようみたいなのもありますし。それがいいか悪いかが私も分からないのが、すごく多いんです。なので、その苦しみがずっとあるというか。

-以前とのギャップを感じている一番の部分というとどんなことですか。

音楽で言ったら、前はライヴを月に20本以上やっていたんです。もともと歌が好きだったから、歌ってるだけで楽しかったんですよね。今は、歌ってるだけで楽しいという感情があまりなくて。それで気付いたんです、なんでだろうって。私、歌が好きじゃなくなっちゃったのかなとか考えたんですけど。たぶん、前はライヴとかでも自分の気持ちを表明していくみたいな意志が強くて。歌も、自分が歌って楽しいキーというんですかね、それでやっていたので。"自分"が強かったし、中心だった気がして。今の曲は、歌っているときも、自分の気持ちをぶつけるというよりは曲の向こう側にいる人を考えることが増えているんです。今回のアルバムでは、自分の嫌なところにも向き合っていたり、変えたいところや以前との差を掘り下げて、つついて曲にしたので、それはつらいわなと思って。

-まず自分が曝け出さないと相手も曝け出してくれないという話もありましたが、その通りだと思っていて。ただ伝えたい、伝えたいという思いではダメだと思うし、自分を掘り下げていくとどうやっても人間というか、相手に辿り着く感じってどこかあると思うんですよね。

うん、ありますよね。

-だからこそ苦しいし、同時に追求する面白さも出てくるというか。

そうですね。曲を作る上では悪いことじゃないんじゃないかなと思います。私が好きだった曲や自分のことを支えてくれてた音楽も"楽しい! ウェーイ!"って曲じゃなかったし。自分が苦しいとか悩んでいるときに寄り添ってくれる、助ける言葉をくれる曲だったと思うので。まずは自分が自分と向き合って、誰かの何かに少しでもなろうとするんだったら、こういう人もいるんだよっていうのを提示しないといけないなと。楽しいだけじゃできないですよね。ただ代わりに、曲を作ってるときは今のほうが楽しいと思いますね。なぜか分からないんですけど、曲を書きたいと思うことが増えました。自分を見つけたいのかな?

-アルバムには8曲収録されていますが、この中で最初にできたのはどの曲になりますか。

「通り雨が降ったので」ですかね。

-アルバムの最後で、いい余韻がある曲ですね。

これは穏やかな気持ちのときに書きました。ただ不思議なのが、作ったときは穏やかな気持ちで、何気ない日常が幸せだなと思って書いたんですけど、曲を書いてから歌っていくうちにいろんなことが重なって、今ではわりと形が違う曲になったというか。「音楽で人を救えないと思い知った夜」という曲があって、これはミュージシャンの友人が癌になってしまったことをきっかけに書いた曲で。その友人の話を聞いたときも「通り雨が降ったので」をライヴで歌ったんですけど、全然気持ちが違って。

-何気ない日常ということに、より気持ちが入るというか。

好きな人や大切な人が今日も笑ってるだけで、こんなに人は嬉しいのかっていう気持ちになったんですよね。なのでこの1年でどんどん私の中でいろんなことが重なって、ただ何気ない日常は幸せだなっていうフワッとした感じではなくて、重みのある曲になっていってますね。